旅宿 Ⅲ
伊吹は小さくため息をついて言った。
「山の危険さを、お前は分かっていない。捕まったら今度こそ投げだせないぞ。山姫を継ぐ巫として捕らわれてもいいのか」
伊吹は、権三の束ねる山師の目論見を言い当てた確信があった。今までどうして山姫にこだわるのか理解できなかったが、とどのつまりはそういうことなのだ。
山姫が京で子を成したことを、権三もどこかでつかんでいるのだろう。山姫を奪われた過去の腹いせに、取り戻そうとしても不思議はない。
しかも登紀は、山姫の侍女だったのだ。その登紀と親しい涼人が一番に狙われるのも、考えてみれば合点のいくことだった。無差別と見せかけて、本当の狙いは涼人に絞られているのかもしれない。
涼人は先の問いには答えないまま、面を伏せて言った。
「都でも私は命を狙われていた。どこにいても、危険は変わりない」
涼人はわずかに唇を噛みしめた。
「封印を解くことが大事なんだろう。そうするまでは、私はここにいる」
きっぱりとそう言われ、伊吹は言い返そうと口を開いたが、それが目的であることは事実だった。ただ、それを涼人を犠牲にしないでやりおおせる自信がないだけだ。
自分自身のことはかまわなかった。
山師の生みだしたいざこざに、できれば涼人を巻き込みたくなかった。守りきる自信がないのだと、伊吹は胸の底で自覚した。
——やはり、一緒に山には入れない。
登紀もそれを望まないだろう。
他にも色々考えようとしたが、朝から蓄積された疲労に加え、空腹も満たされた上では長く続かなかった。
夕食を食べ終えた後、用意された夜具にくるまると、いくらも経たないうちに伊吹はいつのまにか寝てしまった。




