伽藍で
木犀の香りが夕方の風にのって、鼻孔をくすぐってゆく。涼人の寝起きする部屋は、建物のなかの一番奥にあった。
出仕している御所と比べると、質素すぎるくらいの味気ない場所だが、その静けさが涼人は気に入っていた。
いたるところに人があふれる内裏は華やかで賑々しく、そこに出入りすることは光栄なことだと思う一方で、山々の気が冴える閑静なこの場所は、普段波立ちがちな心も自然と凪いでいく気がするのだった。
ここにいる僧たちは規則正しく、実直に日々の務めに励んでいる。月に一度訪れる涼人に対しても余計な干渉はせず、挨拶を交わす程度で、皆おのおのの仕事を休むことがない。
毎日同じことの繰り返しに見える生活は、涼人からするとやや窮屈にも思えるのだが、そのように無心になれることが羨ましくもあった。
——私も、ここの僧になってしまおうか。
頭の片隅でそう思ったのも一度や二度ではない。
煩悩を捨て、仏道に入る厳しさを思うと、軽はずみに考えてはいけないことなのだろう。ただ、そうすることで回避できるものがあることも、涼人は知っていた。
——ここに来るたびに、私は自分が少女であることを、自分自身に突きつけられてしまう。御所にいる時は平気でふるまっているのに。
涼人は、開け放した蔀戸の際に立ち、風のにおいを嗅ぎわけようとした。
夜の帳が降り始めた空では、早くも一番に光る星が見える。その弱い瞬きを見つめながら、涼人はもう一度、心の底で自分に問いかけた。
——そのうち隠しきれなくなってしまう。そうなる前に、私は隠遁するべきなんだろう。




