告白
五月も半ば。圭との時間は変わらず、穏やかに過ぎている。
圭に対する不安感は心の隅に追いやって、何も気づいていないふりをして俺はずっと過ごしている。
これが正しい判断かどうかなんて、俺にはわかるわけもない。
だけど、正しいと信じるしかない。信じなければ、平穏に保っている心が崩れてしまいそうだ。
どうかこの不安が、杞憂であることを願いたい。
俺は、きっと圭だって、この時間を失いたくはないから。
水族館に行って以来、音沙汰のなかった宮田が、また俺に声をかけてきた。
「来週、テストでしょ?だから、テスト最終日に、帰りにどこか行かない?」
「べつに、いいけど。夕方までなら」
俺は即答したのだが、何やら宮田は訝しげな表情をしていた。
「いっつも夕方までって言ってるけど、夕方に何があるって言うの?」
どうやら、いつも夕方までと言う俺に文句があるようだった。
「何って・・・人と会ってるんだよ」
本当は言うか言わないか迷ったのだが、隠す必要もないと思い、口にした。
「誰と?」
「誰って、お前は知らないよ」
「お前はって、じゃ、誰なら知ってるの?」
「いや、俺の知る限り、誰も知らないと思うけど・・・」
何か、妙に責められてる気がする。意味がわからない。
「ふーん・・・それってさぁ、女の子?」
やけに棘のある言い方だ。
「そ、そうだけど」
何だか身構えてしまう。
俺が答えた瞬間、一瞬だったが睨まれた気がした。
けど、すぐにもとの表情に戻り、興味なさげに俺から離れていった。
何なんだよ、一体。何か知らないけど、寿命が縮むような時間だったんだけど。
何となく宮田に視線を集中させていたが、そんなことをしてもわかるわけもないから諦めた。
テスト最終日。
約束していた通り俺と宮田は、まず腹ごしらえをするためにファミレスに向かった。
水族館に行った頃のような挙動不審な行動はしてなかったが、何だか機嫌が悪そうだった。
居心地が悪いながらも、約束だからと腹をくくって俺は行動していた。
「今日のことはね、私が自分から言ったの」
昼食を食べているとき、宮田が口を開いた。
俺には宮田が何を言っているのかわからず、宮田に視線を向けて次の言葉を待っていた。
「はじめはドーナツ、その次は水族館。あんたを誘ったけどさ、あれは私が誘おうと思って誘ったわけじゃなかった・・・まぁ、最終的に誘うと決めたのは私だから、完全にそのつもりがなかったわけじゃないんだけど」
宮田は食べながら話を続けるが、今のところ俺には何を言っているのかまだわからない。
宮田は、覚悟を決めたように言葉を続けた。
「友達がね、誘うように言ったの。私と佐川の距離を縮めようとして」
「・・・へ?」
つまり、どういうこと?
え、何、つまりそれって────・・・
「私が佐川のこと好きなのを知ってて、うまくいかせようと言ってきたってこと」
え、状況がうまく把握できない。頭が混乱している。
「もちろん、私はそんなことするつもりなかったけど・・・でも、何もしないままじゃ何も変わらない。そう押しきられる形で、友達の作戦に乗った」
宮田は俺に考える隙を与えることなく、話し続ける。
「だけど、今日佐川を誘ったのは私がそうしたいと思ったから・・・わかっててほしいのはそのことと、私があんたを好きだってこと」
すべてを言い切った宮田は、どこか変な力が抜けたような感じだった。
それでも、表情は真剣そのもの。真実を話しきった顔をしている。
「────・・・お、前、そんなことこんなところで言うかぁ、普通?」
俺は一気に力が抜け、机に突っ伏した。
「悪かったわね、ムードも何もなくて」
宮田はつっけんどんにそう返した。
「俺は────・・・」
「ちょっと待って」
返事をしなければと俺が口を開いた瞬間、宮田はそれを遮った。
困惑した俺は、宮田を見つめた。
「返事はいいよ。私が全部話したのは、脈がないと思ったから。だけど、諦めるわけじゃない。ただ、私があんたを好きだってことは覚えていて・・・そのうち、いい返事が聞けるのなら、そのときにでも教えて」
最後はいたずらっぽく笑って、宮田は言った。
「────・・・わかった」
そんな宮田に、俺が答えられるのはそれだけだった。
その後、宮田の要望で夕方まで遊んだ。気を遣ってほしくないのだろう。
夕方、別れるときまで宮田はいつも通りでいた。
俺は申し訳ないと思いつつ、宮田が望むからいつも通り接した。
宮田と別れ、圭のもとへと向かっているとき、正直今日は会うべきじゃないと思った。会っても宮田のことで頭がいっぱいで、いつも通り圭と話せるか不安だったし。
だけど、会わなければならないという気持ちもあった。
圭とはいつまでこうしていれるかわからないのだから。会えるうちに会っておかなければ。
そうやって、俺は心を決めて圭に会いに行った。