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ウァンパイア物語4  作者: 衣月美優
5/7

告白


 五月も半ば。圭との時間は変わらず、穏やかに過ぎている。

 圭に対する不安感は心の隅に追いやって、何も気づいていないふりをして俺はずっと過ごしている。

 これが正しい判断かどうかなんて、俺にはわかるわけもない。

 だけど、正しいと信じるしかない。信じなければ、平穏に保っている心が崩れてしまいそうだ。

 どうかこの不安が、杞憂であることを願いたい。

 俺は、きっと圭だって、この時間を失いたくはないから。




 水族館に行って以来、音沙汰のなかった宮田が、また俺に声をかけてきた。

「来週、テストでしょ?だから、テスト最終日に、帰りにどこか行かない?」

「べつに、いいけど。夕方までなら」

 俺は即答したのだが、何やら宮田は訝しげな表情をしていた。

「いっつも夕方までって言ってるけど、夕方に何があるって言うの?」

 どうやら、いつも夕方までと言う俺に文句があるようだった。

「何って・・・人と会ってるんだよ」

 本当は言うか言わないか迷ったのだが、隠す必要もないと思い、口にした。

「誰と?」

「誰って、お前は知らないよ」

「お前はって、じゃ、誰なら知ってるの?」

「いや、俺の知る限り、誰も知らないと思うけど・・・」

 何か、妙に責められてる気がする。意味がわからない。

「ふーん・・・それってさぁ、女の子?」

 やけに棘のある言い方だ。

「そ、そうだけど」

 何だか身構えてしまう。

 俺が答えた瞬間、一瞬だったが睨まれた気がした。

 けど、すぐにもとの表情に戻り、興味なさげに俺から離れていった。

 何なんだよ、一体。何か知らないけど、寿命が縮むような時間だったんだけど。

 何となく宮田に視線を集中させていたが、そんなことをしてもわかるわけもないから諦めた。




 テスト最終日。

 約束していた通り俺と宮田は、まず腹ごしらえをするためにファミレスに向かった。

 水族館に行った頃のような挙動不審な行動はしてなかったが、何だか機嫌が悪そうだった。

 居心地が悪いながらも、約束だからと腹をくくって俺は行動していた。

「今日のことはね、私が自分から言ったの」

 昼食を食べているとき、宮田が口を開いた。

 俺には宮田が何を言っているのかわからず、宮田に視線を向けて次の言葉を待っていた。

「はじめはドーナツ、その次は水族館。あんたを誘ったけどさ、あれは私が誘おうと思って誘ったわけじゃなかった・・・まぁ、最終的に誘うと決めたのは私だから、完全にそのつもりがなかったわけじゃないんだけど」

 宮田は食べながら話を続けるが、今のところ俺には何を言っているのかまだわからない。

 宮田は、覚悟を決めたように言葉を続けた。

「友達がね、誘うように言ったの。私と佐川の距離を縮めようとして」

「・・・へ?」

 つまり、どういうこと?

 え、何、つまりそれって────・・・

「私が佐川のこと好きなのを知ってて、うまくいかせようと言ってきたってこと」

 え、状況がうまく把握できない。頭が混乱している。

「もちろん、私はそんなことするつもりなかったけど・・・でも、何もしないままじゃ何も変わらない。そう押しきられる形で、友達の作戦に乗った」

 宮田は俺に考える隙を与えることなく、話し続ける。

「だけど、今日佐川を誘ったのは私がそうしたいと思ったから・・・わかっててほしいのはそのことと、私があんたを好きだってこと」

 すべてを言い切った宮田は、どこか変な力が抜けたような感じだった。

 それでも、表情は真剣そのもの。真実を話しきった顔をしている。

「────・・・お、前、そんなことこんなところで言うかぁ、普通?」

 俺は一気に力が抜け、机に突っ伏した。

「悪かったわね、ムードも何もなくて」

 宮田はつっけんどんにそう返した。

「俺は────・・・」

「ちょっと待って」

 返事をしなければと俺が口を開いた瞬間、宮田はそれを遮った。

 困惑した俺は、宮田を見つめた。

「返事はいいよ。私が全部話したのは、脈がないと思ったから。だけど、諦めるわけじゃない。ただ、私があんたを好きだってことは覚えていて・・・そのうち、いい返事が聞けるのなら、そのときにでも教えて」

 最後はいたずらっぽく笑って、宮田は言った。

「────・・・わかった」

 そんな宮田に、俺が答えられるのはそれだけだった。




 その後、宮田の要望で夕方まで遊んだ。気を遣ってほしくないのだろう。

 夕方、別れるときまで宮田はいつも通りでいた。

 俺は申し訳ないと思いつつ、宮田が望むからいつも通り接した。

 宮田と別れ、圭のもとへと向かっているとき、正直今日は会うべきじゃないと思った。会っても宮田のことで頭がいっぱいで、いつも通り圭と話せるか不安だったし。

 だけど、会わなければならないという気持ちもあった。

 圭とはいつまでこうしていれるかわからないのだから。会えるうちに会っておかなければ。

 そうやって、俺は心を決めて圭に会いに行った。


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