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ウァンパイア物語4  作者: 衣月美優
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振り回されて


 数日後の土曜日、俺はまた今日も何故か宮田に付き合わされることになった。

 事の発端は昨日だ。

「佐川、明日って暇?」

「え、まぁ、夕方くらいまでは空いてるけど」

 相変わらず、鋭い目線がなんとなく怖い。

「じゃあ、明日の十時に駅で待ち合わせね」

 そう言うと、宮田は返事も聞かずに帰っていった。

「断る隙は与えてくれないのか・・・」

 俺はため息を漏らした。


 そんなわけで、俺は今日また宮田に付き合わされている。

 一体、宮田は何が目的なんだ。今日も妙に様子がおかしいし。

「どこに行くんだ?」

「ええええっと、水族館!」

 変な動きをつけながら、宮田は答える。

 機械的な動きをする宮田を不審に思いながらも、ただ俺はついていくだけだった。




 水族館に着くまでも着いてからもずっと宮田はおかしい。ギクシャクしてる?

 まず電車に乗るときに反対のホームに行こうとしたり、水族館では順路じゃないほうに向かったり、壁にぶつかったり。数えきれないほど何かしている。

 宮田はどちらかと言えばしっかりもので、ドジを踏んだりするようなタイプじゃないと思ってたんだが。俺の記憶違いか?

「なぁ、宮田。何か変だぞ?何かあったのか?」

「べべべつに、何もないけどっ?」

「そうか?」

 まぁ、べつに深く詮索するつもりはないけど。あまりにも不審すぎて気にはなる。

「そ、それより、お昼食べに行こうよ」

 話題を変えるように宮田は言って、水族館の中にあるレストランに向かった。

 レストランでは注文をしたあと、携帯をいじりながら様々な反応をしていた。百面相といった感じだろうか。

「・・・宮田、やっぱり変だぞ?」

「う、うるさい!何でもないから、ほっといて!」

 俺が声をかけると、肩をビクッと震わせ、言い返してきた。

 わかったよ、もう何も言わないよ。そんな怒ることないじゃないか。

 理不尽に怒られて、俺はちょっと拗ねてみた。

 だけど、そんなことに宮田はたぶん気づいてすらいない。

 俺は小さくため息をついた。


 食べ終わったあと、また俺たちは水族館をまわっていたが、相も変わらず宮田の様子はおかしいままだった。

 やがて、水族館をあとにした俺たちは、宮田が行きたいと言ったカフェへと向かった。

 わりと有名なカフェらしく、少し並んだ。並んで店に入るなんてはじめてだ。

 そのカフェのオススメも食べたことだし、何より来たかったと言っていたくらいだからそれは大満足だろうと思ったのだが、宮田の様子はそんな感じではない。

 もちろん、テンションが下がったわけでも、不機嫌になったわけでもないが、喜んでいるという感じでもない。

 とはいえ、とやかく言えば機嫌を損ねるのは目に見えているから、俺は何も言わないが。

「あ、悪い、宮田。俺、そろそろ帰るわ」

 気づけば四時になっていた。

 俺は日課になっている圭との何気ない会話のをするために、そろそろ帰ろうとそう言った。

 もともと、四時くらいには帰ると言っていたし、問題はないだろう。

「え、あ、もう四時か・・・うん、わかった」

 宮田もすんなり受け入れて、そのまま二人で電車に乗り、駅で別れた。




 俺は急ぎ足で圭のもとへと向かっていた。

 少しでも長く圭と一緒の時間を過ごしたいという想いがあるから。

 圭との時間は俺にとってかけがえのない時間であり、失いたくないものだ。それくらい、圭と過ごすのが好きなのだ。

 べつに何か特別なことをするわけでもないのに、こんなにも誰かと過ごす時間が大切だと思ったのは圭がはじめてだ。

「圭!」

「和樹くん」

 いつも笑顔でいてくれて、優しい雰囲気で、俺は心休まるのだ。

「今日はどこかへ行っていたの?」

 俺がいつもとは違う方向から来たから、圭は訊いてきた。

「あぁ、友達と水族館に」

「そうなんだ。楽しかった?」

「うん、まぁ・・・その友達の様子はおかしかったけど、普通に楽しかったよ」

 俺は苦笑いしながらもそう答えた。

「へぇ。でも、きっと、和樹くんとおでかけできたら楽しいわね」

 楽しそうに圭は俺の話を聞いていた。

「でも、私はここで和樹くんとお話しできるだけでも、本当に楽しいわ」

「俺も、圭と話すのが毎日すごく楽しみなんだ」

 二人とも、思っていることは同じだった。

 夕方の短い時間だけだが、二人にとって本当に特別な時間なのだ。

「ふふ・・・和樹くんも同じこと思っててくれて嬉しいわ。私だけだったら、何だか申し訳ないもの」

「お互いが楽しいって思ってるから楽しいんだよ」

 そう。圭が楽しいと言って、いつも笑顔でいたから俺はまだ気づいていなかった。

 たまに圭が悲しそうな、遠くを見るような目をしていることに。

 このさき、いつまでこうやって過ごせるかを、俺はまだわかっていなかった。


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