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ウァンパイア物語4  作者: 衣月美優
2/7

他愛のない会話


「私、明日もここにいるから。もしよかったら、来てくれる?あなたとお話ししたいの」

 昨日、圭という少女にそう言われて、俺は帰ったのだが・・・何だか不思議な人だと思った。

 だけど、何か惹かれるものがあったから今日も学校帰りに桜並木へと向かった。

「和樹くん」

 圭は俺を見つけると、笑顔で声をかけて来た。

「来てくれてありがとう。べつに、とくに何か話があるわけじゃないけど、とりあえず、和樹くんのことを教えてくれる?」

 圭はそう訊いてきた。

「俺のこと?うーん・・・そうだなぁ」

 圭の質問に俺は腕組みをして少し考えた。

「俺のことってわけじゃないけど、俺の家族のことでも話そうかな」

 悩んだ末に、自分のことじゃ思い浮かばなかったから家族の話でもしようと思った。

「俺の父さんは普通に会社員なんだけど、母さんがちょっと変わってて。普段はカウンセラーをしてるんだけど、休みの日とか空いてる時間にはウァンパイアの研究員として働いてるんだ。っていうのも、もともとひい婆ちゃんがウァンパイアの研究所を創った人でさ。今は婆ちゃんがトップとして頑張ってるんだ」

 圭は俺の話を穏やかな表情で黙って聞いていた。

「────・・・だからさ、俺もウァンパイアのことちょっと知りたいなって思ってて」

「そうなのね。ふふ、たくさん知れて嬉しいわ。じゃあ、私のことも話さないとね」

 長々と話してしまったが、それでも圭は変わらず黙って聞いていた。

 そして、今度は圭が話し始めた。

「って言っても、あんまり話せるようなことはないんだけど・・・私もウァンパイアのことちゃんと知りたいなとは思ってるの。よくわからないことが多いじゃない?それに、今の世には全然現れないからね」

「そうだな。っていうか、ウァンパイアに興味あるんだ?」

 何だか意外だ。見た目の印象からすれば、むしろ怖がりそうなイメージだったんだけど。

「うーん、興味って言うと何かちょっとしっくりこないけど、そんな感じかな」

 圭は首を傾げて、微笑みながら答えた。

 今日はそれ以上は話さず、俺たちはそこで別れた。




 次の日も、そのまた次の日も、毎日俺は圭のもとへと行っていた。

 圭と過ごす時間は、実際に計ってみれば短いが、とても長く穏やかな時間を過ごせているように感じる。すごく居心地がいいのだ。

 だから、毎日楽しみにしてたりする。

 今日も学校帰りに行こうと思ったのだが、鞄に荷物を入れているときに声をかけられてそれが危うくなった。

「ちょっといい、佐川?」

「何だ、宮田(みやた)?」

 腕組みをして仁王立ちをしている、つり目の同級生の少女、宮田 玲香(れいか)は鋭い目付きで言ってきた。

「い、今からちょっと付き合ってくれない?」

「え、今から?別の日じゃダメなのか?」

 っていうか、そういうのはもうちょっとはやくに言ってくれないものだろうか。

「私はいいんだけど・・・ううん、ダメ!お願い、ちょっとだけだから」

 鬼のような形相で言われると、お願いというよりも命令のように受け取れる。

 少し迷ったが、ちょっとだけだと言っているし、付き合うことにした。

「わかった。でも、本当にちょっとだけだぞ」




 宮田に付き合わされた俺は、どこに行くのかを尋ねた。

「それで、どこに行くつもりなんだ?」

「えっと・・・ちょっと待って」

 宮田はそう言うと、俺に背中を向けて何かこそこそやりながら、何かぶつぶつ言っていた。

 と思ったら、俺のほうに振り返り

「えっと、じゃあ、ドーナツでも食べに行かない?」

 と、言ってきた。

 そういうわけで、今俺たちはドーナツ屋でドーナツを食べていた。

 誘ってきた宮田は、終始無言で何か威圧感すら感じさせ、俺も黙って食べていた。

 食べ終わっても変わらず黙っているので、おずおずと俺は問いかけた。

「あ、あのさ・・・何か用があるんじゃ?」

「へ!?あ、あぁ、用・・・いや、私があるわけじゃないんだけど」

 また宮田はぶつぶつと一人で何か呟き出した。

 何だかよくわからないが、今日の宮田はおかしい。

 いつもの宮田は何というか、ツンツンした感じなのだが、今日はちょっと違う。挙動不審すぎる。

 とはいえ、そんなことに構っている時間もない。もう五時を過ぎている。

「悪い、宮田。俺もう行くわ」

「え?あ、ちょっと!」

 しきりに何かを呟き続けていた宮田は、突然のことに驚き、声をあげていたが、俺は構わず店を出た。




「あ、和樹くん」

「ご、ごめん、遅くなって・・・」

 走ってきたから、息が上がってしまっていた。

「謝ることないよ。もともと約束してるわけでもないんだから」

 息を整えている俺に、圭はそう言った。

「まぁ、そうなんだけど」

 俺としてはもうあたりまえのように、ここで圭と話すことが約束事のようになってたから。

まるで昔から決まっていたかのように。

 そして、今日もいつものように何気ない日常的なことを圭と話しているのだった。


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