現れた脅威
「うわー、美味しそう!」
「見て、このケーキ! すっごく綺麗!」
ここは「スイーツ激戦区」と云われ始めた街、「山野宿」。
あるSNSでの有名人がこの街で食べたスイーツの写真をアップした所、瞬く間に女子の間で話題になった。
特に3丁目と4丁目と5丁目を跨ぐ「やまのやど中央通り商店街」にはケーキやシュークリーム等といったスイーツを扱う店が多数並んでおり、その店舗数は30軒にも上るほど。
1軒1軒が見た目だけでなく味にも力を入れている事もあり、今日も道を塞ぎそうになる程の客で賑わっていた。
しかし、そんな街にも脅威は迫ってきていた。
「……凄い、凄すぎる。 強いエネルギーの人間が沢山いるとは」
遠い空から街を眺めているのは、穴を開けた洗面器に蓋を付けたような形状の宇宙船。
内部には、黄色いタコのようなものや、水色のオクラと獅子唐でヒトデを作ろうとしたようなものが佇んでいる。
そしてその内部のモニターには、一人一人が今持っている感情が数値化されていた。
笑顔が描かれたクラッカーに、蒸気機関車に、ハートに、椅子―――――。
この謎の4つのマークは、何を表しているのか。
船はひっそりと、商店街の上空へ―――――。
「ほーん……ええやん、気に入ったわ。 まずはここ、ちゅう事でええんやな?」
「そうだな。 我々の本当の恐ろしさを見せつけてやれ」
「任しとけ!」
その窓から飛び降りてきたのは、黄色いタコのような生命体だった。
「えっ、何あれ……?」
「なんかこっちに来てない?」
その生命体は、まるで弾丸のような勢いで道路の真ん中へと突っ込んでくる。
悲鳴が響く商店街。
ほとんどの人々が逃げ出した―――――。
その頃、商店街から少し離れた所にある青果店「しちのや」。
2階では、店長の娘・「智果」と、「青奈」「惣子」「みどり」の3人の友達が、店で扱う果物の果汁を活用した「ミックスジュース味の飴」を開発していた。
「よし、出来た! でも味はどうかな……?」
智果が試作した飴は、薄いオレンジ色になった。
「それって試作品?」
「うん! まず口を開けてくれないかな?」
言う通りに口を開ける青奈。
智果はその口に、直接飴を入れようと。
「えっ? そうやって入れるの?」
最初は抵抗があったが、飴が舌に当たると―――――。
「おいしい!」
その表情は大きく変わった。
智果は惣子とみどりにも、同じ方法で飴を口に入れる。
だが、その飴の味の感想は―――――。
「不味いという事はないんですけど、ちょっと比率を間違ってるような……」
「なんか……苺の味が強い、かな」
「そっか……。 やっぱり、全部同じ分量だと偏るのかな?」
「大きさとか、味の濃さとかの違いもあるから……」
味について4人が話している間に、突如警報が流れてきた―――――。
『緊急速報です。 先程、東京都神田区山野宿にある商店街にて、未確認生物が出現したとの事で……』
聞き流していたテレビからも、緊急速報が流れ出した。
「嘘でしょ……?」
「これ、近所だよね……?」
何も動けず、4人はただただ唖然とするばかり。
その商店街では―――――。
「どうなっちゃうの……?」
「そんなの……分からないって……」
残っていた2人と、様々な触角を持つ1体の宇宙人がいた。
「ええ気味や。 哀のオーラが徐々に出てきとる。 せやけど、なんかしょうもないな」
「え……?」
「どういう事?」
「分からんっちゅうなら、身に染み込ませるまでや。 残念やったな」
その触覚の中の一つから、赤色の光線は発射された。
「わあああああっ!?」
「阿弥!!」
これを避けきれず、胸に光線が当たった体には異変が起こった。
「あぁ!? 誰だよ、お前!?」
態度が攻撃的になっていたのだ。
「しっかりして!」
「黙れ!」
更には右手の拳に力を入れた腹部へのパンチまで―――――。
「ええ気味や。 けど、ほんまもんの地獄はここからやでぇ!」
更に生命体は、洗脳させた人物の怒りと哀しみの感情を具現化させて、新たなる物体を生み出した。
「私に見知らぬ者に対しての情などない! 殺ってしまえ!」
まるで親しんでいるペットの名前を呼ぶように、物体に指令をするその目には覇気が無く、死んだ魚のようだった。
謎の生命体が出現した商店街。
1人が光線によって洗脳され、1人が重体。
しかしこの出来事は、まだ序章の最初の部分に過ぎなかった。
一方で、しちのやの2階では―――――。
『只今情報が入ってきました。 高岡首相は先程会見を開き、山野宿に出現した未確認生物について……』
テレビから流れるニュース速報。
「まずいですよ、これ。 私達で動かないと……」
「動かないと、なぁ……。 今は飴を作ってる訳だし……」
「どうしようかな……」
「できない、ということはない。 考えてみて」
「そうかもしれないけど……」
考える4人。
そんな彼女達の前にも、「何か」は現れた。
突如として4人の中央の机の上で青い光と共に現れたそれは、一種の精霊のようだった。
「えっ、何?」
「わー……」
「何? じゃないでしょ!? あんなのを放っておいたら、世界までどうなるか分からない状態に置かれてるのよ!?」
「まず……誰?」
「誰って……!?」
話は、まるで信じられていなかった。