Episode7 森の異変
ゴブリンナイトの持っていた盾は高価で売れるので持って帰ろうと思って盾を手に持つと、俺はあることに気づく。
「これ、どうやって持って帰るんだ?」
これは盾だけに限らず、武器や防具、大きな素材や魔石を持って帰るのには難しい。
戦闘になった場合は邪魔になるし、もし邪魔にならずに持っていたとしても、鞄やポーチなどがそれ一つで占領されていると思うのだ。
いちいち高価で大きな素材や魔石を手に入れたら、鞄やポーチに物が入らなくなって街に戻ることになるのは非効率過ぎる。
だがそれを解決する冒険鞄と呼ばれる魔道具や無限倉庫と呼ばれるスキルが存在しているが、冒険鞄は高価で購入が難しく、無限倉庫のスキルは中級空間魔法まで覚えなければ取得は不可能なのだ。
どれだけスキル取得が早くても、中級空間魔法取得にはスキル取得速度だけではなく、覚える為に見る魔導書か先生を雇う必要がある。
結局は金銭的な問題になる為、俺がこの問題を解決するのは先送りになりそうだ。
俺はひとまず、盾を盾として使いながら持っていく事にする。
盾はあまり得意ではないのでしっくりはこないのだが、ある程度、盾の使い方はわかっているので、いまから街に帰るまでなら大丈夫だと思うからな。
この方法で盾を持ち帰ろうと思ったその時、後ろから気配を感じる。
俺は咄嗟に盾を使って気配の正体を弾き返す。
〈スキル︰危険察知Lv.1を取得しました〉
「何だ……!」
俺は地面に目をやると、そこには折れた弓矢が地面に転がっていた。
俺は弓矢を見て遠距離からの攻撃だと確信すると、すぐに木の影に隠れて弓矢を放った者を探し始める。
すると、30mも先の木の上から弓を構えて、弓矢を放つ準備をしているゴブリンを発見する。
あのゴブリン……まさかゴブリンアーチャーか?
そう思った俺はよく観察してみると、それは勘違いだと気づく。
そこにいたのは、先程戦ったコブリンナイトの下位種、脅威度3のハイゴブリンだった。
〈スキル︰視力上昇Lv.1を取得しました〉
俺は目を凝らしてハイゴブリンを見ていたら、突然スキルを取得する。
すると、遠く過ぎて確認出来なかったハイゴブリンの装備や服装がしっかり見えるようになる。
「なっ……」
こんなことでもスキルを手に入れるとは……
しかしこの視力上昇というスキルはかなり便利だ、永続的に視力が上昇されるとはかなり良いスキルだ。そう考えると、他の五感上昇系スキルを手に入れておきたいな。
……おっと、いまはひとまずハイゴブリンを倒してしまわないとな。
俺は突然のスキル取得に感嘆をもらしている最中に、いまのやらなければならないことを思い出して行動に移し始める。
俺は木の影から木の影へと、ハイゴブリンに気づかれないように静かに移動を始めて、徐々にハイゴブリンへと近づいていく。
〈スキル︰隠密Lv.1を取得しました〉
途中でスキルを手に入れたので、よりスムーズにハイゴブリンに近づいていき、ハイゴブリンまでの距離が残り10mほどの場所まで近づくことに成功する。
俺は腰に付けているナイフを1本手に取って静かに木の影から出ると、ハイゴブリンの心臓を狙って投擲する。
〈スキル︰投擲Lv.1を取得しました〉
ナイフはとても綺麗な軌道でハイゴブリンの心臓部へと徐々に近づいていき、ハイゴブリンに最後まで気づかれることなくナイフは心臓に突き刺さる。
ハイゴブリンは構えていた弓を地面に落とすと、ナイフが突き刺さっている心臓部から血を流しながらハイゴブリンは落下する。
俺は落下したハイゴブリンに近づいていき、心臓に突き刺さっているナイフを抜き取ると、1振り血を払ってナイフをしまう。
俺はハイゴブリンの魔石を短剣で取り出してポーチにしまうと、ハイゴブリンの腰に小さな袋のようなものを持っていることに気づく。
「そういえば、ゴブリンは自分の所持物を腰につけてある袋に入れておくんだったな」
そんなことを言いながらハイゴブリンの袋の中身を確認するとその中には複数のきのみとガラクタ、丸い金属が入っていた。
「ゴミばっかだな、この真っ白の金属もこんな小さいんじゃ使い物にはならないし……白色の丸い金属?」
俺はその金属をもう1度確認する。
そこには王国の紋章が書かれており、そこには王国通貨と書かれていた。
「なっ、これ王国の白金貨か!」
この王国の金は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨があって、鉄貨10G、銅貨100G、銀貨1,000G、金貨10,000Gとなっている。
そして金の中でも1枚で最も高いのが白金貨で、Gで表すと100万Gとなっているのである。
「このハイゴブリン……めちゃくちゃ当たりだったんだな」
白金貨を持っていたハイゴブリンの亡骸を見ながらそう呟くと、俺はあることを思い出す。
「あれ?さっき倒したゴブリンナイトって鎧を着ていたからわからなかっただけで、もしかして腰に袋付けてたんじゃないか?」
俺はその事に気づくと、すぐにさっきのゴブリンナイトの場所へ戻ろうと足を進める。
だがその瞬間、遠くから魔力の気配を感じて、進める足を止めて魔力の感じた方向に顔を向ける。
「魔力……?」
魔力察知のレベルが低いので人の魔力なのか魔獣の魔力なのか、どの属性なのかでさえわからないが、魔力を感じた以上、確認しておいた方が良いと思い、俺は魔力の正体を調べる為、なるべく静か動こうと意識しながら、全力で足を動かして魔力の発生源に向かった。
〈スキル︰隠密Lv.1がスキル︰隠密Lv.2を上昇しました〉
〈スキル︰魔力察知Lv.1がスキル︰魔力察知Lv.2に上昇しました〉
隠密行動をしながら魔力を常に確認して移動していたので、スキルレベルが上がる。
俺はスキルレベルが上がったことはとても嬉しいのだが、喜ぶよりもいまはやるべきことがあるので、感情は喜びの感情は心の中で殺しておく。
魔力の発生源付近に着いた俺は、木の影に隠れながらその場の状況を伺う。
そこには弓を構えた金髪の少女と倒れている1体のハイゴブリンとハイゴブリンの子分と思われる脅威度2のゴブリン4体がハイゴブリンに群がっていた。
しかしそこで俺は弓を構えている少女を見て疑問に思う。
服装は魔獣を狩りにくる服装としては普通なのだが、異様に強力な魔法付与がかかっており、胸当てや小手などに使われる金属が魔金属のようなのだ。
見た目は駆け出し冒険者のような服装だが、防具の性能で言ったら脅威度6を狩る上級冒険者レベルが着る装備だと思われる。
これほどの防具となると、ただの少女という訳では無さそうだ、それに……彼女が使っている弓を使う為の弓矢を持っていないのだ。
それはまさか……
色々と考えていると、金髪の少女は弓矢を持たずに弓を弾き始める。
少女は弓を弾き終わると同時に、黄色に光る魔力で出来た弓が現れる。
あれは魔力錬成……!
光属性の魔力を弓の形に錬成したのか。あの歳で魔力錬成を使えるとなるとかなり魔力操作が上手いのだろう。
金髪の少女が光の矢を離すと、ゴブリンに向けて光の矢は飛んでいき、途中で4本に分裂して4体のゴブリンの頭に突き刺さる。
ゴブリン達は倒れているハイゴブリンに並ぶように、光の弓矢が突き刺さった頭から血を流しながらゆっくりと倒れ込む。
放った弓矢を空中で遠隔操作で錬成して複数に分裂させるとは……
彼女の技術に感歎していると突然、ハイゴブリン達が倒れている方向から危険な気配を感じる。
俺は危険を感じた方向をじっくりと確認するとそこには、2体のゴブリンソルジャーと1体のゴブリンソーサラーが現れる。
ゴブリンソルジャーはゴブリンナイトの上位種、ゴブリンソーサラーはゴブリンマジシャンの上位種で脅威度5の魔獣である。
最初に戦ったゴブリンシールダーの盾持ちゴブリンナイト、30m先から弓矢を正確に当ててくるハイゴブリン、そしてゴブリンソルジャーにゴブリンソーサラー。
ここはまだサーニャの森の中層の筈だ。
流石に脅威度4以上が頻繁に出てくるほど深層には来ていないのに……これは明らかにおかしい、何か異変が起きているのではないか?
そう思って冒険者組合に後で報告しようと思うと、俺はゴブリンソルジャーやゴブリンソーサラーに狙われている彼女を木の影から見る。
その時だった。
彼女はゴブリンソーサラーの魔法によって弓が弾かれてその場に倒れ込む。ゴブリンソルジャーはその隙を逃さんとして、彼女に向かって剣を薙ぎ払って彼女の首を真っ二つに───
されることはなかった。
俺は完全に無意識だった、いつの間にかゴブリンソルジャーの元へと走って剣を受け止めていたのだ。
どれだけ最強を目指そうと、口調を変えようと性格は変わらないんだなと静かに溜息をつくと、倒れ込んでいる少女を横目で見ながら声をかける。
「大丈夫か?」