Episode6 魔獣狩り
冒険者組合を出て魔獣の討伐に行く為に正門へ向かうとそこには、先日俺の身分証を作った兵士が立っていた。
俺は何も気にすることなく身分証を取り出して、兵士に見せる。
「ん?昨日の少年じゃないか」
俺は気付かれずに門を通りたかったのだが通してはくれないらしい。
「……少年なんか雰囲気変わったか?」
「何も変わってないと思うが」
「いや、変わってるぞ!?身分証を作った時とは雰囲気が全く違う」
「そうか?」
「ああ、もしかして冒険者組合で何かあったのか?」
「いいや、何にも」
そう言って門を抜けると、俺はカルラ村とは真逆の方向にあるサーニャの森と呼ばれる魔獣が大量に住み着く森を目指す事にした。
◇
サーニャの森は危険度Cに設定されている森だ。危険度の目安はCが平均脅威度1〜3の魔獣、Bが平均脅威度4〜6の魔獣、Aが平均脅威度7以上の魔獣が存在する場所だ。
魔獣の脅威度は脅威度1、2が駆け出し冒険者が狩れるレベル、脅威度3、4が一般冒険者のレベルだ。脅威度5、6からは中級冒険者、7が上級冒険者、8がエリート冒険者が狩れるレベルと言われている。
9以上は英雄の領域、AAランク以上の冒険者が狩れる魔獣で脅威度10の魔獣がAAAランク冒険者が狩れるレベルと呼ばれている。
しかし魔獣には脅威度10を超えた脅威OVERと呼ばれるSランク冒険者、つまりは超越者が狩るような魔獣も存在しているのである。
脅威度OVERIは大国と相対出来るほどの強さ。
脅威度OVERIIは大国を複数相手にしても勝つ可能性があるほどの魔獣。
脅威度OVERIIIは世界を滅ぼすほどの力を有し、神とも互角以上に戦えると言われている魔獣の頂点である。
例をあげれば龍神種、神獣フェンリル、八岐大蛇、メデューサなどが例にあげられるがいずれも行方不明となっているが死亡は確認されていない。
歩くこと約30分、俺はサーニャの森に着いた。
サーニャの森の最深部には妖精サーニャが住むとされるサーニャの滝と常闇の谷と呼ばれるどこまでも続くのではないかと思われるほど深い谷が存在していらしい。
最深部は脅威度Bとなっている為、ある程度強くなるまではローレンを拠点にして狩りが出来るだろう。
俺は初めての魔獣狩りに少し興奮気味になりながらも森に入っていき魔獣を探す事にした。
魔獣を探し初めて10分、その時は遂に訪れた。
ガサッ
突然、草むらから音が聞こえる。
風や物が落ちた音ではない、物体が動く確かな音だった。
俺な木に隠れて草むらから何が出てくるかと待ち構えていると、そこからゴブリンが出てきた。
「あいつは……!」
それがもし、ただのゴブリンなら何も考えることなくゴブリンに近づいて攻撃を仕掛けただろう。
だがあのゴブリンは甲冑を身にまとっており、頭には錆びついた兜を身体には薄いものだが鎧を、左手にはやや高級そうな盾に、右手にはボロボロの剣を持っていたのだ。
もしそれが冒険者や騎士から奪ったものなら問題ないのだがあの装備を自分の身体のように着こなしており、ゴブリンの身体にあった剣を持っているのを見て俺は確信する。
脅威度4のゴブリンナイト。
それが俺が初めて戦うことになった魔獣の名前だった。
もし駆け出しの冒険者なら脅威度4の魔獣を見つけたら逃げることを普通は選択するだろうが、俺は逃げようとは思わない。
俺が成長速度が早いからという訳ではないし、自分を特別だと思ったいるわけでもない。
ただ、最強になる為に成人まで技術を高めてきた俺が普通の駆け出し冒険者と同じように逃げていては、一生最強に辿り着けるはずかないということがわかっているからの行動なのだ。
俺は腰に挿している剣を抜いて、木の影から出てゴブリンナイトに向かっていく。
ゴブリンナイトは俺に気づいたのか、こちらに向いて剣を構え、俺の攻撃を防ぎ、互いの剣は弾かれる。
俺はゴブリンナイトより早く体勢をなおすと、地面を蹴って下から剣を振り上げて攻撃を仕掛けるが、ゴブリンナイトの盾に防がれて剣が通らない。
ゴブリンナイトは俺の剣を盾で弾き、体勢を崩したところに剣を振り下ろしてくる。
「──加速」
俺は加速を使用してゴブリンの剣を避けるとゴブリンナイトの鎧の隙間に剣を振り下ろして左腕を叩き切る。
そしてゴブリンナイトが痛みで怯んだところを狙って、俺はそのまま距離をとることなくゴブリンナイトの首を狙うが、今の俺が簡単に殺れるほどゴブリンナイトも弱くなく、ゴブリンナイトは頭を少し下げて俺の攻撃を首元ではなく兜をしている部分にズラして兜で頭を守る。
兜は俺の剣と接触した衝撃でゴブリンナイトの頭から外れて、地面に転がる。
ゴブリンナイトは地面に転がった兜を全く気にすることなく、俺に向かって剣を振るう。
俺は左手で腰に装備していた短剣を1本取り出してゴブリンナイトの剣を弾く。
〈武技︰瞬剣を取得しました〉
武技︰瞬剣──確か、瞬剣は片手剣 短剣 刀専用の武具で瞬間的に剣の速度を上昇させて相手を切り裂く武具だったな。
取得条件は対応する武器での加速の複数回の使用だったな、俺は成長速度が普通よりもかなり早いから昨日と今日の1度だけで取得することが出来たのだろう。
そして現在の状況を確認する。
目の前のゴブリンナイトは剣を弾かれて、体勢を立て直している状態だ。
対して俺はいつでも剣を降ることが出来る状態だ。だが先ほどと同じ攻撃では攻撃直後に回避されて致命傷は避けられるだろう。
だが瞬剣を使えば……仕留められる。
そう確信した俺は片手剣を構えて武具を使用する。
「───瞬剣」
瞬剣を使用し片手剣の速度を加速させると、そのままゴブリンの首元に近づいていき首を切り裂く……ことは出来なかった。
ゴブリンナイトの身体は不自然に加速して俺の攻撃を避ける。
しまった……武技か。
ゴブリンナイトは脅威度4以上の魔獣。
脅威度4以上は武技、魔法を覚えている可能性があるという。
しかし、それを考慮していない俺ではない。
俺は片手剣を避けらたが、そのまま身体を半回転させて武技の連続使用を行う。
「──加速──瞬剣」
身体の速度を加速させて左腕を加速させるように再び半回転を行いながら、左手に持つ短剣で瞬剣を行い、一瞬でゴブリンナイトの武技で出来た距離を詰めると──短剣はゴブリンナイトの首を切り裂いた。
ゴブリンナイトの首からは紫の血が噴き出して、ふらふらと崩れるように倒れてピクリとも動かなくなった。
俺はゴブリンナイトが息の根を止めたことを確認して大きく息を吐くと、ゴブリンナイトに近づき心臓付近から魔石を取り出す。
ゴブリンナイトの魔石は緑色の魔石で大きさは直径2cmほどの魔石だった。
俺は魔石をポーチにしまうとゴブリンナイトが装備していた盾を手に取る。
「この盾、魔獣の存在進化の際に自動生成された盾なのは間違いないが……かなり強い盾だな。まさか、ゴブリンナイトの盾じゃない?そうなるとこの盾は……ゴブリンシールダーのものか?」
ゴブリンシールダーとは脅威度4の魔獣でレア魔獣と呼ばれている魔獣の1体である。
ゴブリンシールダーの装備する盾は高級品で脅威度4では考えられないほど高価に売れ、出現率もかなり低い為、レア魔獣と言われているのである。
たがその代わり魔石が通常の脅威度4の魔獣のり小さいので魔石集めの魔物としては微妙と言われている。それに防御力特化の魔獣の為、倒しにくいというのも難点だったりする。
「ゴブリンシールダーの盾持ちのゴブリンナイトか。最初の魔獣にしては少し強すぎたな……」
そんなことを言いながらも、俺は初めての魔獣狩りを成功させたのだった。