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外伝 新人の素質


 私は冒険者組合(ギルド)ローレン支部長 ライア・ファルテトだ。


 今日も訓練場で日課の鍛錬を行おうと木製の大剣を持って訓練場に入ると1人の少年がいた。

 1人で鍛錬とは関心だなと思い少年に近づくと少年はぶつぶつと独り言を喋り始めた。


「英雄は英雄であるからこそ敬われ、賞賛される。だが英雄の皮を被らず存在する者達の殆どは恐れられ、避けられ、恐怖される。そして皆はその者達をこう呼ぶ───化物と」


 それを聞いて私は驚きを隠せなかった。

 新人の冒険者が鍛錬をしに訓練場にきているかと思えば英雄の本質を正しく理解しており、雰囲気も普通の新人とは違う異質なものをはなっているではないか。


 私は気づくと少年に声をかけていた。

 少年は冒険者に登録する為の試験相手を待っているということなので私が相手になることにした。少し戸惑っていたが私が支部長ギルドマスターだと言うと納得して私と戦うことを納得してくれたみたいだ。


「くくく……思い切ったことを言うなぁ少年!いいだろう、英雄の領域に辿り着いた者として相手をしてやろう!」


 私はそう少年に叫ぶと少年は地面を蹴って、私の目の前まで接近すると剣を振り下ろして、攻撃を仕掛けてくる。

 少年の攻撃は防御のしにくい場所を狙って攻撃を仕掛けてくるが威力と速度が全く足らず私は簡単に剣を弾くことが出来た。


 少年は弾かれたことを気にするそぶりもなく1振り、1振りを考え、防御がしにくい場所に仕掛けてくるがやはり、威力と速度がスキルなしと元AA冒険者のスキルでは能力差が違いすぎる。

 そう思いながら剣を打ち合っていると突然、少年の剣の速度が上がる。

 私は突然上がった剣の速度に驚き、少年に合わせていた速度の調整を狂わせてしまい少年の腹に剣を当ててしまう。


 しまった……これではもう終わりか。


 少年は後方に吹き飛ばされて壁に激突する。

 そのまま壁に持たれるように地面に座り込んで動かなくなる。


 気絶したかと思い、少年の元へと歩こうとすると少年は顔を俯かせながら身体を起こして再び立ち上がる。

そして俯いていた顔を上げて、剣を再び構える。


 なんだと!?

 この威力の攻撃をスキルなしが受けて無事でいられる訳が……まさか、この短時間で物理、もしくは衝撃耐性のスキルを取得したというのか。

 それに先程の剣の速度が加速したのはまさか、スキルを取得したからなのか。


 ……彼は技量だけではなく、スキルの成長速度にも異常性が見られるようだな。


「ほう、これで立ち上がってこれたということはスキルでも取得したのか?」


 冷静を装って少年に向かって言葉を発するが正直、驚きの感情を隠せきれているかわからない。


 少年は私の言葉に返答はしなかったが、地面を蹴って私の目の前へと近づいてくる。


 私は無用な思考を捨て去って少年の剣を弾く。だが少年はすぐに体勢を立て直して再び切り込んでくる。


 そんな打ち合いを数分は続けただろうか、少年は徐々に体力が減ってきているのか小さなものだが隙が出来てきている。


 そろそろか。


 私はその隙を大きくする為に少年の剣を弾いて、後方に下がらすと一瞬で少年の隙をついて大剣を薙ぎ払う。


「……がぁ…っ!」


 少年は大剣を防御をすることが出来ず、地面を転がりながら、壁にぶつかって倒れ込む。

 これで少年も流石に終わりだろう……と思っていた。だが少年の身体は再び動き始め足を地面につけて立ち上がった。


 馬鹿な……ありえん。


 少年は剣を構えて私の目の前へと全力で駆けてくる。私はこれ以上近づけさせないと少年に大剣を振るうが上手く受け流される。


 まずい!


 そう思った私はとっさに大剣から左手を離して隠密性の高い土属性魔法を使用して少年の足元から攻撃を仕掛けようとした。

 だが少年は突然、私への攻撃を辞めて後方に下がる。

 私の土属性魔法はギリギリのところで少年に躱されてしまう、これにはとても驚きだった。

 確実に決めるつもりだった魔法を、魔法感知のスキルなしの少年避けられたのだ。

 技量の高さに、スキルの成長速度の異常、魔法の発動までも予期して回避してしまうほど高い、観察力と知力の高さか。


 才能とセンスは最高クラスのものだな。


 だが、甘い。


 英雄に辿り着いたものはあらゆる状況においても、打開策や行動パターンというものを考えているのだ。


 その時だった。

 少年はすぐに体制を立て直して私の懐へと入り込み、大剣で防御しにくいように剣を下から振り上げてくる。


 だが少年の反撃こそが私の用意した、相手を嵌める為の最大の策であったのだ。


 私はそこからはほぼ無意識の行動に近かった。

 私はバックステップで後ろに下がり少年の剣をギリギリで避ける。

 そのまま、相手に防御のすきを与えずに少年の頭に目掛けて大剣を真っ直ぐ振り下ろす。


「──加速」


 少年の口から微かだが『加速』の言葉が聞こえる。

 まさか、この戦いの最中で武技まで覚えてしまうとは……!


 少年は一瞬で加速して私の大剣を避ける。

 そして少年の身体は私のすぐ側まで近づき剣を振り下ろされる。


 くらうものか!


 私は一瞬で体勢を立て直して、大剣を少年の背中に叩きつける。

少年は吹き飛ばされて、壁に衝突してしまう。


 やってしまった!


 そう思い、彼の元へと近づこうとすると扉から少年を見つめているミリアの姿が見える。


 いいところに!


「ミリア、この少年を休憩室に運んで手当しておいてくれ。それと少年には休憩室は明日まで自由に使っていいと言っておいてくれ。この少年の試験の結果は後でミリアに直接渡すから少年が目覚めたら渡しておいてくれ、頼んだぞ」


 そう言うと私はその場から逃げ出す。


 少年、君はいずれ英雄に辿り着くことが出来るだろう、そこで君はどう生きてどう世界を変えていくのか、期待しているぞ!


この後、ミリアがルークに脅迫まがいのことをされることを支部長は知る由もなかった。

[外伝 運命の日]は、前編(改稿ミリア視点)、中編(新作ミリア視点※Episode14まで)、後編(1章最終話のその後)の全3話で1章完結後に投稿予定です。

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