Episode3 英雄の素質
英雄は英雄であるからこそ敬われ、賞賛される。だが英雄の皮を被らず存在する者達の殆どは恐れられ、避けられ、恐怖される。そして皆はその者達をこう呼ぶ──化物と。
この言葉は父さんが僕に話してくれた言葉だが、この言葉には続きがある。
だがそれに抗い強くなり続け、存在の限界を超えて、神々と同等の力を手にいれるほどになった化物達は敬意と恐怖を込めてこう呼ばれている──『超越者』と。
◇
支部長は壁に立てかけてある木剣を手に取って僕に投げ渡す。
「それでは試験を始めようか」
そう言って支部長は僕に向かって大剣を構える。
「少年はスキル持ちかね?」
「いえ、スキルは持っていません。ステータスを作成したのもついさっきなので」
それを聞いて支部長は突然笑い出す。
「ステータスを作成して数分で冒険者登録に来るのか。余程の馬鹿か度胸があるのか……」
支部長は少し溜めをいれて言葉を続ける。
「人類国家ではスキル主義、国によってはスキル絶対主義とまで言われてるこの世界で、スキル以外の力を信じている者なのか」
僕はスキル以外の力と聞いて、父さんと母さんの言葉を思い出す。
戦いはスキルの優劣や数で決まるものではなく、どれだけ上手くスキルを戦闘に組み込む事が出来るか、スキル以外の技量をどれだけ持っているかが大切で、スキル絶対主義と呼ばれるほどスキルが力を持っている世界だからこそ、スキルを上手く戦闘に組み込む為の技術や頭が必要だと父さんや母さんは言っていた。
スキルを作成しなかったことは偶然だが、スキルを取得せずに技量や知識だけは高めてきたのだ、スキルだけに頼っている者に簡単に負ける気がしない。
「どうですかね、単にステータス作成という行為が知らなかっただけかもしれませんよ」
「少年、君みたいな人間を私は何度か見たことがあるのだ。その者達は皆、スキル以外の技量を信じてきた者だった。そのほとんどがステータスを作成して日が経つにつれて、スキルという力に呑まれてスキル以外の力の上昇を怠ったものばかりだった。だが1部の人間はスキル以外の力を信じ続け、スキルの強大な力に呑まれず超越者にさえ辿り着いたものを私は知っている」
僕は超越者という言葉に驚き、息を呑む。
「私は君がスキルに呑まれる人間なのか、スキルに呑まれず超越者に辿り着くことの出来る人間なのかを知りたいのだよ」
「僕にはそんな力はありませんよ。スキルも能力もないただの一般人です、ですが──貴方を倒して一般人から英雄を倒した一般人にでもなろうかと思います」
「くくく……思い切ったことを言うなぁ少年!いいだろう、英雄の領域に辿り着いた者として相手をしてやろう!」
その言葉を聞いた瞬間、僕の足は地面を蹴り支部長に突っ込んでいた。
僕は支部長の目の前まで迫って、木剣を振り下ろすが簡単に弾かれてしまう。
僕は気にすることなく、1振り1振りを確実に防御をしにくい場所を狙って攻撃を仕掛けていく。だが、それを苦ともせず支部長は簡単に僕の攻撃を弾いていく。
数回ほど支部長と剣を打ち合っていると目の前に文字が表示される。
〈スキル︰剣術Lv.1を取得しました〉
その瞬間、剣の振る速度が上昇して威力、精度も先ほどとはくらべものにならないほどの上昇を遂げる。
これがスキルの力……一瞬で剣の速度、威力、精度が上昇したことに驚きながら支部長に攻撃を仕掛ける。
すると突然、支部長は先程よりも数段、速度と威力を上げて攻撃を仕掛けてくる。
僕は威力を殺しきることに失敗してしまい、身体が浮いて後ろに吹き飛ばされる。
僕はそのまま、壁にぶつかり壁にもたれるように地面に座り込んでしまう。
〈スキル︰衝撃耐性Lv.1を取得しました〉
〈スキル︰物理耐性Lv.1を取得しました〉
また、目の前に文字が浮かび上がる。
その瞬間、身体へのダメージで起き上がれたなかった筈の身体が軽くなり、何とか起き上がれるようになる。
「はは……スキルって本当に便利なんだな」
僕はなんとか立ち上がって、剣を構え直す。
「ほう、これで立ち上がってこれたということはスキルでも取得したのか?」
「……!」
言い当てられて少し驚くが、すぐに冷静さを取り戻して打開策を練ろうとする……が、何一つ通用する気がせず、僕は攻撃を1発でも当てることに集中する。
僕は全力で地面を蹴って支部長に斬りかかる。
そこからはとても楽しかった。
剣を打ち合い、弾かれては立ち上がり再び剣を打ち合う。頭で何も考えず、身体が覚えている技術だけを使って全力で剣を打ち合う。
僕はまた剣を弾かれて、後方に押されるがすぐに体勢を建て直して攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、支部長は一瞬で僕の懐に入って大剣を薙ぎ払い僕の腹に攻撃をくらわされる。
「……がぁ…っ!」
〈スキル︰物理耐性Lv.1がスキル︰物理耐性Lv.2に上昇しました〉
僕はそのまま地面を転がりながら、壁にぶつかって倒れ込む。
耐性スキルのレベルが上がったが、ダメージが大きすぎて余り効いていないように感じる。
時間が経つにつれて徐々に目が霞んでいき、意識が遠ざかっていく。
だがこんな簡単に負けるのは僕の心が許さなかった。
僕は遠ざかっていく意識を、何とか引き戻すと、力を入れて壁にもたれながらも足を地面に付けて身体を起こす。
〈スキル︰痛覚軽減Lv.1を取得しました〉
僕は壁にもたれている身体を、何とか足だけで立って剣を構え直す。
僕は残っている力を振り絞って支部長に向かって全力で駆けていく。
支部長は僕に向かって大剣を振りかざすが僕は何とか剣で受け流す。
僕は剣を振り下ろして、支部長に攻撃を仕掛けるようとした──が、何か違和感を感じた。
僕はすぐに違和感の正体を探し始めると、支部長の左手が大剣を離しえいることに疑問を感じ、頭を動かし始める。
支部長は大剣を両手で持っていたはずなのに今は左手が大剣から離されていて、不自然な形で左手が固定されいる。これは一体──魔法!?
僕は違和感の正体に気づき全力で地面を蹴って後ろにさがる。
それとほぼ同時に地面から巨大な土の棒のようなものが現れ、間一髪で回避する。
〈スキル︰魔力感知Lv.1を取得しました〉
危なかった、周りを警戒していなければ気づかないところだった。
僕は支部長を見ると、魔法をかわされて隙が出来ているのがわかった、きっと今なら。
僕はすぐに方向転換して支部長の懐へと入り込み、大剣に弾かれないように剣を下から振り上げる。
決まった!!
そう思ったがそれは違った。
支部長はバックステップで後ろに下がり僕の剣を避ける。
そう、これは支部長の罠だったのだ。
支部長はこれを待っていたかのように僕の頭を目掛けて大剣を振り下ろす。
まだだ、もっと速く動けるはずだ。
敗北するだけならまだいい、だがこんな惨めな敗北する訳にはいかない……!
動け、動け、動け、動け。
あの剣を避けて、1発身体に叩き込んでやる!
〈武技︰加速を取得しました〉
「──加速」
僕は無意識に武技を唱えていた。
僕の身体は一瞬で加速して大剣を避ける。
そのまま僕の身体は支部長のすぐ側まで近づき一振り浴びせる……!
だがそれは叶わなかった。
背中に鋭い痛みがはしり、壁へ吹き飛ばされる。そのまま壁に衝突して僕の意識は一瞬で刈り取られた。
〈スキル︰剣術Lv.1がスキル︰剣術Lv.2に上昇しました〉
〈スキル︰衝撃耐性Lv.1がスキル︰衝撃耐性Lv.2に上昇しました〉
〈スキル︰物理耐性Lv.2がスキル︰物理耐性Lv.3に上昇しました〉
〈スキル︰痛覚軽減Lv.1がスキル︰痛覚軽減Lv.2に上昇しました〉
追記:スキルの上昇条件について質問があったので書いておきます。
【スキルのレベル上昇条件】
スキルは本人の技量(スキルで上昇した技術含む)+実戦経験の総計でスキルが上昇します。
なので、本人の技量がスキルのレベルと見合わない場合は数日~数年での戦闘(訓練含む)で上昇します。勿論、成長速度上昇系のスキルをもっていれば上昇時間が短縮されます。
スキルの取得も上記とほぼ同じですが、スキル取得速度上昇系のスキルをもっていれば取得時間が短縮されます。