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Episode2 化物

 

 表示されたステータスを確認していると、目の前にいた兵士が僕に声をかける。


「もしかして、スキルがあったのか?」


 人は稀にステータス作成時に既にスキルを持っていることがある。

 それは血を受け継ぐ者だけが使用することが出来る血統スキル。

 スキルステムによって最も相応しいと思われる存在に与えられるスキル、例を挙げると大罪スキル、戒禁スキル、英雄スキルなどがある。

 そして世界に1人しか持つことが許されず、過去にも未来にも1人しか持つことがないと呼ばれているスキル、ユニークスキルがある。


 そして僕はユニークスキルを1つ持っていた。

 それは村に住んでいて常識がない僕でもわかる事実、先天的なスキルを持っていることがバレたらどうなるか簡単に想像がつく。


 幸い、このスキルは成長速度が上がるだけのスキルらしいので誤魔化しは効くし、バレることや疑われることさえほとんど無いだろう。


「いえ、スキルは持っていませんでした。もし、スキルを持っていたらもっと驚いていますし、喜んでますよ」


「まぁ、そうだろうな。先天的スキル持ちなんてそうそういないからな」


 僕はいつも通りの顔をしながら、冷静に返事を返す。

 僕は嘘や秘密を隠すことに関しては、かなり得意だったりする。肉親である父……はともかく、商人をやっていたので嘘を言い当てるのが得意な母にでさえ、嘘を見破られたことはないのだ、僕の嘘を見破られることないだろう。


「それじゃあ、さっきと同じように水晶に触れてくれ」


「この水晶って必要最低限の情報を読み取るって言ってましたよね、具体的には何を読み取るんですか」


 そう、僕は自分のステータスを見てから、水晶の読み取る項目が少し気になっていたのだ。

 スキルの件は勿論だけど、僕の生まれた場所 浮遊城レナーラという場所はどう考えても知られては不味いと思うのだ。


 浮遊城というのは文字通り浮遊する城のことで、空島などに建てられた城ではなく、空に城のみで浮かんでいるものが浮遊城と呼ばれている。

 浮遊城は人魔大戦前までは存在していたのだが、人魔大戦による損害で全ての浮遊城は崩れ、無くなってしまったのだ。

 現在は浮遊島の存在さえ見つかっていないし、浮遊城の建設は後300年は不可能とまで言われているらしい、これを知られてしまったらどうなるかわからない。


「たしか名前と年齢、種族、故郷だったかな。他の称号や能力は身分証の作成には関係いから読み取らないからな」


 兵士に聞いた限りでは、生誕地と称号、スキルは読み取られないらしいのだが故郷がレナーラ帝国の帝都になっているのだ。

 故郷はフィオーレ王国カルラ村と書かれているはずなのだが、何故か帝都になっている。

 それに浮遊城と名前が同一なのも気になるが……考えてもしょうがないので父さんや母さんに会うことが出来たら聞いてみることにしよう。


 もう1つ僕の故郷には問題がある。

 それは、帝国は王国と300年間も敵対し続けているということだ。

 敵国の人間が王国の身分証を作成するのがどれだけ難しいかというのはわかる。

 だが、何とか誤魔化せることを信じてステータス作成を決心する。


「そうですか、それは良かったです。自分の情報を全て知られてしまうというのは少し抵抗を感じたので...」


 王国に故郷を知られることは避けられないと思うが、せめて兵士にだけは気づかれないようにと、怪しまれないように理由も言っておく。

 水晶に表示されてしまったり、作成した身分証を見られてしまったら意味はなくなるのだけど。


「身分証を作成するってのはそういうもんじゃないのか?」


「そういうものですかね?」


「そういうものだろ。……じゃ、水晶に触れてくれるか。早く門番に戻らないと、他の兵士に怒られちまうからな」


「わかりました、僕も早く街を見てみたいので」


 そう言って僕は水晶に触れる。

 すると徐々に水晶が光り始め、数秒ほど光ると光は収まっていき、水晶から完全に光が消滅する。


「よし、これで身分証の作成は終了だ」


 兵士は隣に置いてあった、長方形の魔道具からプレートを取り出して、僕に渡される。

 兵士に渡されたプレートを見てみると、先ほどまで真っ白だったプレートにフィオーレ王国身分証の文字と1部のステータスが刻まれていた。


[フィオーレ王国 身分証]

 名前︰ルーク・アウローラ

 年齢:15歳 種族:人族

 故郷:フィオーレ王国 カルラ村

 所属:なし


「は?」


 故郷かカルラ村と表示されていることに驚き、声に出てしまう。

 幸いにも兵士は僕の声に気づいていないようだけど。

 僕は自分のステータスを表示させて、身分証に書かれているステータスの1部を比べてみると、やはりステータスには帝国の名前が表示されているし、勿論、身分証にはカルラ村の名前が刻まれている。


「どうかしたのか?」


 身分証をじっくりと眺め続けていることに疑問を感じたのが、兵士が僕に声をかける。


「い、いえ。初めての身分証に少し興奮してしまって……」


 身分証を作成したこの魔道具の効果は、他の魔道具との情報共有、使用者のステータス確認、ステータスの転写と推測される。

 この魔道具には水晶と同じ刻印が刻まれているのを見ると、この魔道具は水晶と刻印によるデータ共有を行い、転写魔法でプレートを作成していると思われる──などと魔道具の効果を推測しながらプレートを見ていると兵士が身分証について説明を始める。


「その身分証は王国内だったらどこでも使えるが、他国に行ったりするならその身分証は使えないぞ。他国へ行きたいなら冒険証ギルドカードを使っていくことをおすすめする」


冒険証ギルドカードってなんですか?」


「冒険者になる為に街に来たのに、冒険証ギルドカードを知らんのか?ええっとだな、冒険証ギルドカードってのは冒険者としての身分証のことだ。Cランク冒険者になれば国内、国外問わずに自由に移動出来る身分証として使えるから国外への移動手続きが楽だぞ。ちなみに国内のみの移動ならDランクから可能だ」


「そのランクってなんですか」


「ランクも知らんのか。ランクってのはなぁ……おっと、いけねぇ。俺はそろそろ門番に戻らせてもらうぜ。あと、ランクについて知りたかったら冒険者組合(ギルド)に行って聞けば教えてもらえるぞ」


 そう言うと、兵士は立ち上がって小走りで部屋を出ていったのだった。


「それじゃあ、冒険者組合(ギルド)に行くとするかな」


 僕は席を立って部屋を出ると、詰所を出て街に入り、街の光景に驚きながらも冒険者組合(ギルド)に向かったのだった。



 ◇



 冒険者組合(ギルド)に着き、僕は扉を開けて中に入ると、中には剣や大剣を持った筋肉質の男達やローブを着た青年、弓を持った女性など様々な人が酒を飲みながら会話をしたり、地図を広げて話し合ったりしていた。


 僕は数人の女性が座っている受付の1人に向かって声をかける。


「冒険者登録がしたいんですが……」


「冒険者登録ですね、冒険者登録には手数料の銀貨3枚と試験がありますがよろしいですか?」


「試験ですか?」


「はい。冒険者は魔獣との戦闘が専門の職業ですので実力が低すぎたり、精神的に弱い方は最悪、死亡してしまう恐れがあるので試験を行っているのです」


「わかりました。試験受けさせてもらいます」


「では訓練場に案内しますのでそこで組合ギルド職員と戦ってもらいます」


組合ギルド職員ですか?」


「ええ、組合ギルド職員には元冒険者の職員もいますのでその方と戦ってもらいます」


 そう言って女性職員はカウンターから出て訓練場へと僕を案内する。

 女性職員は僕に案内しながら説明を続ける。


「試験の相手は元ランクC以上の冒険者と決まっていますので、試験には勝たなくても大丈夫です。これから冒険者としてやっていくだけの実力が有るという事を証明する為の試験なので気楽にやって貰って大丈夫です」


「あのランクってなんですか」


「え?冒険者ランクをご存知じゃないんですか」


「はい」


 そう言うと女性職員は少し驚いた顔をする。


「もしかして辺境の村の生まれなんですか?」


「はい、カルラ村です」


「カルラ村からこの街に来たんですか!王国の辺境の辺境からよくこの街まで……それにしてもカルラ村ですか……カルラ村ってキャベツやレタスなどの野菜が美味しいですよね。私もいつも朝早くに店で買ってるんよね。毎朝、サラダでいつも……あ、す、すいません!話が脱線してしまいました……」


 女性職員は恥ずかしいのか少し俯いて顔を少し赤らめる。


「ええっと、冒険者ランクの話でしたね。冒険者ランクとは冒険者の強さをランクとして表したものです。詳しくいうと色々あるのですが……これは冒険者をやっていればわかっていくので割愛させていたただきます。冒険者ランクは下からF,E,D,C,B,A,AA,AAA,Sがあり、Fは駆け出し冒険者、Eは魔獣狩り初心者、Dでやっと冒険者として認められます」


「それじゃあ……僕の戦うCランクってどれ位の強さなんですか?」


「Cランク冒険者は中級冒険者と呼ばれています。辺境の街の冒険者組合(ギルド)なら街で最強と呼ばれてもおかしくない強さですね。それと同時に大きな街の冒険者組合(ギルド)に活動地点を移す目安となるランクでもありますね」


「それじゃあ、このローレン支部で1番強い冒険者はランクCなんですか?」


「いえ、うちの組合は少し特殊で最高ランクはAなんですよ」


「特殊……ですか」


「ええ。まぁ、ランクAといっても半分引退しているようなものなんですけどね。冒険者の新人教育の為に冒険者をまだ続けているようなものですので。ちなみにランクAがエリート冒険者、その下のランクBは上級冒険者と言われていますね」


「エリート冒険者が新人教育の為とはいえ、こんな辺境の街に来るとは思えないのですが……何か理由があるんですか?」


「その理由はうちの支部長ギルドマスターに理由があるんだけど……っと、着いたわ。ここが訓練場よ」


 そう言って女性職員は扉を開けて中に入るように手招きする。


 中に入るとそこは左右上下、真っ白な部屋で壁に数種類の木製の武器が立て掛けてあった。


「ここは……?」


「この部屋は支部長ギルドマスターが個人の資金で作った訓練場で、壁の石は魔金属を竜の骨で加工したものらしいわよ」


「魔金属に竜の骨ですか……!」


「ええ。支部長ギルドマスターの戦闘狂にも呆れたものだわ、自分の鍛錬の為だけにこの訓練場を作ったんだもの」


 鍛錬の為だけに?

 それってこのレベルの訓練場を作らないと耐えられないくらいの力を持ってるということなんじゃ……


「それじゃあ、あなたの試験相手の職員を連れて来るから少し待っててね!」


「あ、あの!」


「何?」


「さっきの話なんですけど、AA以上はなんて呼ばれているんですか」


「……英雄と呼ばれているわ。冒険者や傭兵の間ではこう呼ばれているわ──化物ってね」


 女性職員はそう言うと訓練場を出て職員を呼びに行った。

 女性職員が言った言葉を聞いて僕は自然と口が動き父の言葉を復唱していく。


「英雄は英雄であるからこそ敬われ、賞賛される。だが英雄の皮を被らず存在する者達の殆どは恐れられ、避けられ、恐怖される。そして皆はその者達をこう呼ぶ──化物と」


 父さんが言いたかったことはつまり、英雄になるということは化物になるのと同じことだ、それでも英雄に、最強を目指すのかと言いたかったのだろう。


「面白いことを言うな少年」


 突然、僕の背後から声が聞こえる。

 僕が後ろを振り向くとそこには木製の大剣を持った1人の男がいた。

 その男は焦げ茶色の服に、見あげないと顔が見えないほど高い身長でかなり筋肉質な大男だった。


「いつから……聞いていましたか」


「すまんな、全部聞いてしまった。だがまぁ、人前ではあまり言わない方がいいとは思うぞ、特にその英雄本人には尚更な」


 男は話を区切るように息を吐く。


「それで少年は鍛錬中だったのかね」


「あ……い、いえ。冒険者になる為の試験を受けにここへ」


「試験?……それなら私が請け負ってもいいぞ、丁度鍛錬をしたいと思ってここに来たのだ。丁度いい準備運動になろう」


「あの、さっき女性職員の方が試験相手を探しに行ったんですが、それに……」


「ああ、試験は職員ではないと駄目だということであろう?私はこの組合ギルド支部長ギルドマスターだから大丈夫だ」


「あなたがこの組合ギルド支部長ギルドマスターですか!?」


 驚いたこの人が支部長なのか。ということはこの異常な訓練場を作ったのもこの人……


「でも大丈夫なんですか?色々と」


「ああ、その女性職員には私から言っておくししっかりと試験は行う。それに私は元AA冒険者だからな」


 元AA冒険者──それは英雄の領域に到達した存在。普通なら冒険者登録の試験で英雄と戦うのは避けたいと思うだろう。


 だが僕はこの時、英雄と呼ばれる化物と戦うことを喜んでいたのだと思う。

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