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Episode12 白金

 

「これは?」


 俺が支部長ギルドマスターに尋ねると、支部長ギルドマスターは2枚の紙を俺達に見せながら説明を始める。


「アリスの冒険者登録の用紙と少年とアリスのパーティー申請書だな」


 支部長ギルドマスターはそう言って、冒険者登録の用紙とペンをアリスに渡す。

 アリスは冒険者登録の用紙を無言で受け取ると、冒険者登録の用紙を机の上に置いて記入を始める。


 アリスが冒険者登録の用紙に記入をしている間に、支部長ギルドマスターは俺に話しかけてくる。


「少年の冒険者ランクをCに上げようと思うのだが……」


「俺をランクCに?昨日冒険者登録をしたばかりのランクE新人を1日で2ランクも上げて大丈夫なのか?」


「結構無理やりなんだがな、私の権限でランクCまでは上げることが出来るのでな。それに少年は下級とはいえ脅威度5のゴブリンソルジャーを2体相手にして勝利したのだ、そこまでの実力者をランクEに留めておくほうが問題あると私は思うがね」


 支部長ギルドマスターの言いたいことはわかるし、理解も出来るが……


「俺みたいな新人を突然、ランクを上げてしまったら反発などもあるんじゃないのか?」


「もしそんなことをいうやつがいれば実力でわからせてやる……といいたいところだが、残念ながら口実があるのでそんなことは起きないだろう」


 口実がなかったら実力行使をするつもりだったのか……


「まず最初に少年には推薦者に私の名前があるということだ。組合ギルドの法には推薦者は推薦相手に対する助力が認められているのだ、もちろん公平に法を破らずにだがな」


 ……それはつまり。


「最低限まわりが納得出来る口実が存在していれば、法を破らない限りなんでもしていいということか……」


「まぁそういうことだな。理解がはやくて助かるぞ少年」


「それで……その口実はどういうものなんですか?」


「それはだな、まずゴブリンソルジャー2体を単独で倒せる実力者というのがランクを上げる理由になるわけだが、それだと実力が伴っていたとしても冒険者としての知識と経験がたりなのだ。これはCランク冒険者としての実力があっても、上げる資格

 がない状態になるわけだ。つまり、ここで必要になるのは昨日登録した新人冒険者を、1日で2ランクも上げる口実が必要になるのだ。そしてその口実というのがな……サーニャの森の先行探索の許可だ」


 サーニャの森の先行探索の許可……それがどう口実とつながるんだ?

 1日でランクを上げる口実、探索禁止のサーニャの森、15日後に着く本部からの増援、脅威度5のゴブリンソルジャーの単独討伐、推薦者が支部長ギルドマスター……口実、口実?……もしかしてこれって口実に口実を重ねているのか。


「……サーニャの森の探索禁止は本部から指示されていることだ。だが先行探索は本部から許可されていて、先行探索をさせる冒険者の選定は支部長ギルドマスターに委託させられている。だがそのことを説明せずに俺にサーニャの森を先行探索する権限を与えれば、その為のランクCへのランクアップと誤認させることが出来るし、脅威度5のゴブリンソルジャーをサーニャの森(・・・・・・)で倒したという事実もあるんだ。Cランクに上げる実力も理由も十分だ。運が良ければ、俺が本部と繋がりのある冒険者で、それが理由で支部長ギルドマスターが推薦者になったとも思わせることが出来るかもしれない……ってことか、支部長ギルドマスター?」


 それを聞いた支部長ギルドマスターは満足だと言うかのように満面の笑みを浮かべて頷く。


「うむ、流石だな少年。まさか私が考えていた以上の答えを出してくるとは思わなかったぞ、私が考えていたのはサーニャの森の先行探索の許可も出せば口実になるのではないかというものだったがな」


 ほとんど何も考えてねぇじゃねぇか!

 と俺は心の中で思ったが、口には出さなかったことを褒めてほしいものだ。


「書き終わりました」と後ろでアリスの声が聞こえる。

 アリスは冒険者登録の用紙を支部長ギルドマスターに渡す。支部長ギルドマスターは冒険者登録の用紙を確認すると、深くうなずいて登録用紙を机の上に置く。


「ミリア、カウンターに戻ったらアリスの冒険証ギルドカードをつくってやれ。登録ランクはDだ」


 それを聞いてミリアは少し驚く。


「ランクDで登録ですか……?」


「アリスは脅威度5のゴブリンソーサラーを単独で倒しているのだ。実力で評価される登録ランクはDで妥当だろう」


「……そうですね、わかりました。ランクDで作成します」


 ミリアはアリスのランクD登録に同意したのを確認すると、支部長ギルドマスターはパーティー申請の用紙を俺に渡す。


「少年はパーティーについての知識をどれだけもっているのかね」


「ほとんどないな、あるのは冒険者の集団グループで下限2人で上限6人くらいしか」


「その認識で間違っていない。パーティーといのは冒険者が集団で魔獣と戦闘を行う為のチームみたいなものだ。魔獣の脅威度が上がるにつれて危険度もますから、パーティーの方が安全で効率がいいんだ。……だが」


「デメリットもあるんだろう?」


 俺がそう言うと支部長ギルドマスターは頷いて、デメリットについて話そうとするが、それをミリアが遮る。


「私が説明します」とミリアは支部長ギルドマスターに一言言うと、納得したのか支部長ギルドマスターは黙ってミリアを見る。

 それを確認したミリアは、一度咳払いをするとパーティーのメリットとデメリットについて話を始める。


「まずパーティーのメリットですが、一つは先程支部長(ギルドマスター)が説明したように集団戦での数的有利や魔獣討伐速度の効率です。他にもソロよりはかなり安全という点や非常事態の対応速度が上がります。これだけ聞くと、パーティーがとても良いものに感じられるのですが……当然、デメリットも複数あります」


 ミリアがそこまで言うと、ちらっっと俺の顔を見る。

 俺は小さく溜息をついて、あまり動かしていなかった頭を動かし始める。


「……集団戦は数的有利や魔獣討伐速度の効率化などのメリットがあるかわりに、集団戦を行うためノコンビネーションが必要だな。それがなければソロより危険な状態に陥る。他にも魔獣の素材や魔石の分配トラブルや決められた役割を疎かにするやつが一人でもいたらパーティー全体の危険に繋がってしまう。他にも色々あるが……重要なものを2つ。自分のスキルや戦い方、つまりは手札を何枚か見せなければならないということや信頼できる人ならいいが、初めてあった冒険者と組む場合は魔獣だけではなく、仲間の冒険者にも警戒しなければならないということだな」


 俺は集団戦のデメリットについての考察を話し終えると、俺の考察にミリアは驚きの表情を少し浮かべていたのに対して、支部長ギルドマスターは満足気な表情を浮かべていて、アリスは勉強になったと言わんばかりにこくこくと頷きながら俺の言ったことを静かに復唱しているようだった。


支部長ギルドマスター、一つ聞いていいか?」


 俺の言葉を聞いた支部長ギルドマスターは、「かまわない」と俺に一言告げる。


「何故、アリスの冒険者登録と俺とアリスのパーティー登録を支部長室で行う必要があった?俺のCランクへのランクアップやサーニャの森の探索許可のついでというなら意味もわかるが、それはアリスの冒険者登録だけでいいじゃないのか?」


「少年がその質問した相手が短気な性格だったら殴られても仕方ない質問だと思うが?」


 俺の言葉を聞いた支部長ギルドマスターは俺の質問に対して少し怒りを見せる。

 それもそうだろう、アリスの冒険者登録やパーティー申請を支部長ギルドマスター自ら、善意で立ち会っている相手に対して「アリスの冒険者登録とパーティー申請に支部長ギルドマスターが立ち会うのはおかしい」と言っているようなものなのだ。怒りを見せるのも当然のことだと俺は思う。


「ああ、わかってる。わかってて質問したんだ」


 俺はそう言って一度周りに聞こえるように静かに息を吐いて、話を再開する。


「これはほとんど直感のようなものなんだが……支部長ギルドマスターはまだ俺達に言ってないことがあるんじゃないか?例えば、サーニャの森の探索について……とか?」


 そこまで言うと、支部長ギルドマスターの顔は怒りの表情から嬉しそうな表情へと変わっていき、再び笑みを取り戻す。


「流石だな、少年!私を3度も驚かせるとは、流石私が見込んだ男だ。ああ、そうだとも。私はまだ少年とアリスに話していないことがあるのだ」


 やはりか……しかし、本当に何もなかったらかなり危なかったな。もしまた何か違和感を感じても、無礼に当たる場合は口に出さないようにしないとな。


「私が頼みたいことはだな……少年とアリスの2人でのサーニャの森探索だ」


 ……は?ちょっと待て、まさか俺が違和感を感じた正体がこれだと?


「それはパーティーを組むんだから当たり前のことじゃないのか?」


「む?そういえば、よく考えてみるとそうかもしれんな」


 しまった……俺は肝心なことを見落としていたらしい。

 支部長ギルドマスターは冒険者時代の実績だけで支部長ギルドマスターになった特殊な部類に入る支部長ギルドマスターなのだ。つまりは脳筋なのである。


「はぁ……わかりました、その話受けさせてもらいます」


「おおっ、受けてくれるか!」


 俺は小さく溜息をつけながらペンを取って、パーティー申請の用紙のパーティーメンバーの欄に名前を書こうとすると突然、アリスに止められる。


「ルークさんはどうしてパーティーメンバーの欄に名前を書こうとしてるんですか?」


「それはお前がリーダーだからだろ?」


「やっぱりルークさんの方がリーダーに向いていると思います。それにランクDの私がパーティーリーダーっていうのは少しおかしいと思いますし」


 ……それもそうだな。


「わかった、俺がパーティーリーダーでいいよ」


 俺はパーティーリーダーの欄に名前を記入すると、パーティー申請の用紙をアリスに渡す。アリスは満足気な表情でパーティー申請の用紙を受け取ると、パーティーメンバーの欄に名前を記入して、俺にパーティー申請書を返してくる。

 俺はアリスから受け取ったパーティー申請の用紙を一度確認してから支部長ギルドマスターに渡そうと思い一度確認してみると、パーティー申請の用紙のパーティー名の欄が空欄であることに気づく。


「……パーティー名ってのは決めなきゃならんのか」


「ああ、クランではないから適当に決めるやつも多いが、一応ルールだからな。適当でいいから決めてくれ」


「……!」


 俺は冒険者についての知識はほとんどもったいなかったが、クランのことを知っていた。

 冒険者に関してほとんど知識がなかった俺だが、クランのことは父から色々聞いているので、クランに関してはかなり詳しいのだ。


 父が俺を生む前、父が冒険者として活躍していた頃にあるパーティーのリーダーをやっていたらしい。

 最初はある一人のパーティーメンバーの冗談から始まって、いつの間にかパーティーメンバー全員でクランをつくろうという話になっていたらしい。

 俺の母とは、クランの後ろ立てとなってくれる人を探していた時に、母が経営していた商会に父が後ろ立てになってほしいと頼みに行ったのが初めての出会ったらしい。

 そのクランはいまでも存在していて、もうほとんど引退しているようなものだが、父がまだクランマスターとして名を残しているらしい。


 ここからはミリアに聞いた話なのだが、父のクランは3大クランの一角に数えられるほど強大なクランで、ルナーラ帝国の帝都ラグニスに拠点を置いているという。

 クランメンバーは数十人のランクA以上の精鋭達が集まっているらしい。

 クランには世界に12人しかいないSランク冒険者の内3人が属していて、その中でもクランマスターの父は超越者の中でも最上位の1角と数えられているほどの化物らしい。父が強いとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったので、ミリアにこのことを聞いたときは耳を疑ったものだ。


 そしてルナーラ帝国も帝都ラグニスというのは、ステータスに表示された俺の故郷でもあるのだ。

 それについてもミリアに少し聞いたのだが、ルナーラ帝国の王族は全員の髪色が白なのだという。父の髪色も白なので、父がルナーラ帝国の王族なのではないかという噂が流行ったこともあったらしい。


 俺が父のクランについて知っているのはこれだけだ。

 クランが出来るまで、出来てから何があったかなどは父から聞かされているが、それは物語であって情報ではない。

 他に俺が知っているのはこれだけだ。何度も何度も父が語っていた話に出てきたクランの名──


 ──白銀の盾、それが父がつくったクランの名だった。


 俺は父のクランの名前を思い出したと同時に、俺とアリスのパーティー名にふさわしい名前を思いつく。


「俺の白とアリスの金を合わせて、白金プラチナなんてどうだ?」


 俺は自分の髪に触れながらそう言うと、アリスは笑顔を浮かべて俺を見る。


白金プラチナ……とてもいい名前だと思いますっ!」



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