Episode1 後継者
※改稿して再投稿しています。
内容は変わりませんが、前より読みやすくなっていると思います。
僕の名前はルーク、15歳です。
3年前、突然行方不明になった母さんを父さんが探しに行くと言って村を出てから3年間、僕は村の人達に育てられてきました。
先日、15歳の誕生日を迎えて成人になったのですが、大人になって変わったことは特にありません、子供の頃から目指しているものはずっと同じです。
誰よりも、誰よりも強くなれ。お前の大好きな村を守れるくらい強い男に。
これは父の言葉で僕がある目標を目指すきっかけになった言葉でもあります。
この言葉を教えてくれた現役冒険者の父は色々なことを僕に教えてくれました。
だから僕はこう思ったんです。
父と同じ冒険者になって、大好きな村を守れるくらい強くなる──と。
そのことは村の皆も知っていましたが、成人になって改めて村から1人で出ると言った時は皆から反対されました。
でもどうにか皆を説得して、村を出て冒険者になることを許して貰ったのですが、どこか皆寂しそうな顔をしていたのを覚えています。
僕はこれから冒険者になります。
父がまだ駆け出しの冒険者だった頃に世界中を旅して体験した魔獣との戦い。
母が行商人だった頃、見てきたと言っていた場所の景色を自分の目で見に行きます。
そしていつか、最強の冒険者と呼ばれる父に追いつく為に。
◇
村を出て1時間ほど見慣れた森の中を道なりにひたすら歩いていると、少し先に森の切れ目が見えた。
僕はゆっくり歩いていた足を徐々に早めながら森の切れ目へと歩いて行き、森の切れ目に着くと、歩みを止めた。
小さく息を吸って吐くと、少し緊張しているのか額から汗が流れる。
僕は再び歩き始めて森から出ると、今まで薄暗かった道が急に光で満ち溢れる。僕は右手で顔を隠して光を遮る。
徐々に目が慣れてきたので、ゆっくりと右手を顔から離すと、そこには緑で染まった広大な平原が続いており、草原の中心には大きな街が立っているのがわかる。
「……凄い」
僕は母さんからこの大陸のことは勿論、他の大陸のことも毎日のように教えて貰っていた。
この場所にローレン平原と呼ばれる平原があることも、どれくらいの大きさなのも知っていて、知識としては何でも知っていた。
だけど、実際にその場所に足を運んで見ると、何でも知っていた筈の光景が一瞬で想像から現実に変わり、その場所に行かないとわからない、空気の違いや景色の美しさなどの情報が一気に頭の中に入ってくるような感覚がしたのだ。僕はこの場所を情報として見ているのと、自分の人生という1つの物語の中の1ページとして見た光景は、まるで別物だということを初めて実感出来た気がしたのだった。
実際に見るのと聞いて想像するのでは全然違うのよ、あなたもいつか自分の目で、足で景色を見に行けるといいわね。
これは僕の母さんの言葉で、僕が外の世界に興味を持って母さんから良く話を聞くようになったきっかけだった。
この景色は僕が冒険者になる為に村を出て初めて見た光景。
父も母も初めて生まれ故郷を出て見た光景は、鮮明なまま今でも残っているって言っていた。
この平原の光景も僕の物語の最初の1ページとして鮮明に残り続けるだろう。
この平原の光景はそう確信させるほど、僕にはこの光景が美しく見えたんだ。
僕はこの時、成人になって初めて子供から大人への道を歩き出したような気がした。
30分ほど草原を歩いて街に着くと、僕は街の大きな入口に目を奪われてしまう。
「これが……ローレンの街」
そこには街を囲うように出来ている大きな壁に、巨人が入れるのではないかと思えるほど巨大な門が存在していた。
僕は街の門に向かって歩いていくと、門の前で立っていた兵士に話しかけられる。
「待て、街に入る為には身分証の提示が必要だ」
「……身分証って何ですか?」
「身分証ってのは自分がどこの誰なのかってのを証明する為のものだ。身分証を知らないなんて、凄い田舎から来たのか?」
「カルラ村から来ました」
「カルラ村だと?あんな辺境中の辺境からよく来たな。ここからだとかなり遠かった筈だが……まぁいいか。それにカルラ村出身なら一般常識が無くても不思議ではないからな」
カルラ村が遠い……?
歩いて1時間30分ほどの場所にある村だ、遠いと言うほど遠くはないと思うのだけど。
「ということはやっぱり身分証を持っていないんだよな?」
「はい」
「身分証の作成には銀貨3枚必要なんだが……金は持っているか?」
「はい、街に行くならお金は必要だということで渡されましたから」
僕は腰に付けているポーチの中からお金の入っている布の袋を取り出して中身を確認すると、そこには金貨が3枚と銀貨が20枚ほど入っていた。
金貨は10,000G、銀貨は1,000Gとなっているので僕の所持金は50,000Gあることになる。
僕は3枚の銀貨を取り出すと、ポーチに袋を閉まって兵士に銀貨3枚を渡す。
「……3枚あるな。いまから詰所で身分証を作るんだが、少年は何をする為にこの街に来たんだ?」
「街に来た目的は冒険者になる為です。冒険者になって強くなるのが僕の目標で夢ですから」
兵士は僕の腰に挿してある片手剣をチラっと確認すると、すぐに視線を戻す。
「そうか、冒険者の仕事は何かと辛いだろうが頑張れよ。それじゃ、身分証を作成しに行くから着いてこい」
僕は兵士に案内されて詰所に入っていく。
詰所に入ってすぐにある、一部屋に案内されて僕はその中に入る。
その部屋には椅子と椅子を挟むように机が置いてあり、その上に魔道具と思われる水晶と、カードを作成する魔道具と思われる長方形の魔道具が置いてあった。
兵士は奥の椅子にかけたので、ルークは手前の椅子に座る。
「身分証の作成にはステータスの1部の確認が必要なんだ。この水晶に触れてくれるか?」
「これですか?」
僕は机の上にある水晶に指を指すと、兵士は頷いて水晶について説明を始める。
「この水晶に触れれば必要最低限のステータス情報をこの水晶が読み取って、この魔道具と王都にある魔道具に情報が送られて保存されるんだ。その情報がこっちの魔道具に送られて身分証が作成されるんだ」
「王都にある魔道具?」
「ああ、王都にある魔道具だ。詳しくは知らないが、巨大な水晶らしいぞ」
水晶の魔道具で読み取った情報を巨大な水晶の魔道具に送って保存することの出来る魔道具──多分、それは龍核や王種の魔石などを利用して錬金術で作成した魔水晶だろう。
王国中の水晶からの情報を受信出来る魔水晶となると、かなり大きいものになると思うけど。
「さぁ気を取り直して、この水晶に触れてみてくれ」
「……っと、わかりました」
僕は右手で水晶に触れる。
だが水晶もカードを生成する魔道具も何も反応を示さない。
「故障ですか?」
「いや、この魔道具は機械系じゃなくて刻印系の魔道具なんだ。水晶が割れるか水晶に刻まれた刻印がなくならない限り壊れない筈だ」
そう言って兵士は水晶本体や水晶に刻まれる刻印を確認するが破損や欠損は発見出来ない。
それを見た兵士は水晶を置いて考え始める。
「水晶が起動しないのは、水晶が使用者の魔力を感知することが出来ないというのが可能性としては1番高いんだが、魔力を出すことが出来ない、魔力を持っていない……そういう体質があったりするか?」
「いえ、僕にそういう体質があると聞いたことありません」
「……そうか。そうなると他の原因が……って聞いたことはないと言ったな。別に聞かなくても、ステータスに書いてある筈なんだ。まさか、ステータス作成を行っていないのか?」
「ステータスの作成?ステータスは元々持っているものですよね」
そう言うと、兵士は納得した表情を浮かべる。
「……ああ、そういうことか。ええっとだな、ステータスを参照する為には1度ステータスを自分で作成しないと見ることが出来ないんだ。この魔道具はステータスそのものを確認する訳ではなく、脳内に保存されているステータスを読み取るものなんだ。だから、ステータスを見たことない者に脳内のステータスの参照のしようがないだろう?」
そういえば、自分のステータスを1度も見たことがなかった。
13歳の頃、自分のステータスを見たいと村長に言ったことがあったが成人になるまで絶対に見てはいけないと念を押されていたんだ。
「僕のステータスは成人になるまで見てはいけないと村長に言われていましたので、見たことは無いですね」
「ステータスを見てはいけない?何故、村長はそんなことを?」
「さぁ?そう言われて以来、ステータスを見ようと思ったことは無かったですし、村長の言葉に疑問を持つことはなかったので」
「ステータスは自分の名前、歳、種族、スキルなどが表示されるんだが、その中に村長がステータス作成を止めるような理由に心当たりは?」
「そういえば、3年前に母さんが行方不明になって、それを追うように父も村から出ていきました。僕は生まれた場所はカルラじゃないと聞いていますので……つまり村長は、成人前の子供が親を探しに生まれ故郷に行ってしまう事態を危惧して、ステータス作成を止めたということですかね」
「親が行方不明……事情は聞かんが、ステータス作成を止めた理由はそれであっているだろうな。孤児院の子供や親が亡くなって養子として引き取られた子供にステータス作成を禁じるって話も無いわけじゃないしな...っとすまんすまん、話が逸れちまったな。ステータス作成はステータスと唱えればすぐ出来るからやっちまいな」
「えっ、そんな簡単なんですか。ステータスを見る為にはステータスと唱えれば見れるということは知ってましたけど……」
「ああ、最初もその後もステータスを見るのに特に違うことはねぇよ。唯一違うのが、初めてステータスを見る時は見たことない文字が表示されるくらいか。聞いた話だと、その見たことない文字ってのは古代文字らしいぞ」
古代文字か……僕は母から教わっているからある程度は読めると思うけど。
「ほら、早くステータスを作ってくれ。そうしないと、いつまで経っても身分証が作れねぇじゃねぇか」
「そうですね、じゃあいきます──ステータス」
その瞬間、身体の中に何かが入ってくるような感覚に襲われる。
それは心地よくも、気持ち悪くもない。
ただ、あるべきだったものが自分の身体に戻ってくるような、そんな感覚だった。
すると突然、目の前に文字が現れる。
その文字は兵士が言っていた通りの古代文字だった、そこには古代言語でこう書かれていた。
おかえりなさい、鳳凰紋の後継者。
その言葉は僕の存在を祝福しているようで、どこか悲しく、拒んでいるかのように感じたのだった。
[ステータス]
名前:ルーク・アウローラ
年齢:15歳 種族:人族
生誕:浮遊城 ルナーラ
故郷:ルナーラ帝国 帝都ラグナス
所属:なし
称号:〈鳳凰紋の継承者〉
[固有能力]
〈ユニークスキル〉
不屈の奇跡
〈詳細〉
全能力上昇速度(超越)
スキル取得速度(超越)
スキル熟練度上昇速度(超越)
【大きな変更点】
ミリアのルークに対する恋愛感情をなしに。
主人公の異常な口調の変化に対する違和感(1章の幕間 Another Episodeにて原因が判明します)、改稿前と改稿後での文字数増加などです。
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