表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぽんこつ勇者と最強村人  作者: shehu.P
第一章『転生?』
4/4

『違和感』

金を稼ぐ。

元の世界では時給800円で働いていた俺だが、この世界は違う。

「シャルル、この辺で魔物の集団がいる場所は分かるか?」

この世界ではモンスターを倒して素材を売ることで稼げるのだ。

当然モンスターにはランクがあり下位ランクは缶ジュース一本分くらいしかならないが、上位ランクだと最低一万Gからが相場だったはずだ。

1G=1円と言ったところだ。

「魔物の集団ですか? 一応ゴブリンの洞窟はありますけど……」

ゴブリンか。

下位ランクだけど、シャルルのレベル上げにもなるかな。

「場所は分かるか?」

「はい。あそこの少し高い丘の上です」

シャルルの指差す方を見ると鬱蒼と茂った森の上に崖のような場所が見えた。

「とするとここは……始まりの村の外れ辺りか」

「始まりの村……ですか? ここはコルト村とタイタン領の間にあるナナシノ森ですよ」

ああ、確かそんな名前だった。

てことはゴブリンのレベルは低いな。

「よし、じゃあとりあえずゴブリンの洞窟に行こう」

「宿屋に行くんじゃないんですか?」

「生憎金がなくてな。モンスターの素材を売って宿代にしようって思ってる」

俺がそう言うとシャルルは一瞬驚き、納得したように頷いた。

「そういえば裸でしたね」

「思い出して頬を赤らめるな! 出来れば無かったことにしたいんだから!」

素っ裸で少女の前に転生させるとか悪意を感じる。

「ほら、行くぞ」

「はい、ふふ」

年相応の笑顔を浮かべて俺の隣に並ぶシャルル。

やはり俺の知識にある勇者シャルルとは年齢が違う。

この差は一体何なのだろうか。

そんなことを考えながら歩いて行くとシャルルが足を止めた。

「っ!? 佐倉さん、前方に魔物の気配がします」

「ああ、っとこの剣は返すよ」

俺が持っていた魔剣レーヴァテインをシャルルに返す。

眩しい光沢を放っていた長剣は次第にくすんでいき、なまくらの剣になっていく。

「この剣はな、使い手の魔力を流し込むと強くなる。それを少し意識して戦ってみると良い」

それを聞いたシャルルはまじまじとなまくらになった長剣を見つめて二度、三度と振る。

「この剣にそんな力が……分かりました。何時か私も佐倉さんと同じくらいの力を発揮できるように頑張ります!」

「シャルルならきっと俺より強くなるよ」

お世辞でも何でも無い。

勇者シャルルは間違いなく最強の存在になる。

俺の知識が覚えている。

「今回俺は基本的に手は出さない。シャルルが自分で考えて戦うんだ」

「はい!」

こっそりとステ上げの魔法はかけよう。

過保護すぎるかとも思ったが、敵のレベルが思っていたより高い。

これは苦戦するかもな。

シャルルが警告を出す前に気配を察知した俺は、エネミーサーチで敵の規模や能力を把握していた。

「来ます!」

最初に森から現れたのは、ファイアーゴブリンと呼ばれる火属性のゴブリンだ。

腕力はそれほどではないが、火の玉を飛ばしてくるのが厄介だ。

もっともレベル的には低い部類だから大丈夫だろう。

問題はその後ろで様子を窺っている魔物の方だ。

「あれは……ワーウルフ!?」

「みたいだけど……様子が変だな」

基本的にワーウルフという狼の魔物は凶暴だ。

銀色の毛並みに鋭い牙と爪、金色の瞳は正直格好いい。

が、見た目に反して知性が低く、匂いを嗅ぎとられるとどんな敵でも狙ってくる。

だが、様子を窺っているワーウルフは俺達をじっと見ているのだ。

狙いを定めているというよりは、力を見極めようとしているような感じがする。

しかも毛色が金色で瞳は銀という、明らかに稀少種の特徴を持っている。

こんな序盤で出てくるレベルの魔物じゃないよな。

「シャルル、あのワーウルフは相手にしなくて良い。あいつは俺が相手をする」

魔力を纏うとワーウルフは嬉しそうに目を輝かせ臨戦態勢をとる。

「狙いは俺みたいだからな」

「……分かりました。ゴブリンは任せてください」

「ああ、火の玉に気をつけろよ」

「はい!」

シャルルは長剣を下段に構えゴブリンへと向かっていった。

「さてと、こっちもやるか」

『転生者よ』

「やっぱり話せるのか」

『驚かぬのか?』

「まあな、ワーウルフが襲ってこない辺りで察したよ」

もっとも人語を理解するワーウルフの伝説というイベントを知っていただけなのだが。

『くく、面白い。お主が我が宝を託すに相応しいか、試させてもらおう』

宝……何だ?

イベントの内容が変わってる?

「なあ、宝って言ったよな。ワーウルフの宝って何だ?」

『儂に勝てたら話してやろう。いや、自ずと分かろう』

ふむ、よく分からないが避けては通れないようだ。

『行くぞ』

ワーウルフは金色の風になって突進してくる。

俺が見ても僅かに残像が見えるレベルだ。

右か左か……右!

鋭い爪の風を魔力で受け流し、純粋な魔力を蹴りに乗せて叩き込む。

が、俺の攻撃は空を切り、すれ違いざまに太もも辺りを浅く切り裂かれる。

『足の一本くらいは取ったかと思うたが、凄まじい魔力練度じゃな』

「そっちこそ、ワーウルフの稀少種って枠から外れた強さだと思うんだけど?」

正直今のは焦った。

咄嗟に魔力で硬化しなければ足を失っていただろう。

「こりゃ温存とか言ってたら負けちまうな」

『ほう、魔力以外にまだ何かあるのか?』

ワーウルフの瞳がギラリと輝く。

魔力の大部分を体の中で循環させる。

魔力による体の強度はそのままで身体能力を滅茶苦茶な倍率で強化する封印魔法『サンクチュアリ』を展開する。

魔力が活性化するに従って、世界が遅れ始めた。

『この魔力は……まさか太古の?』

ワーウルフは封印魔法を理解したのか、魔力の気配が消えていく。

「一応聞く。俺とやるのか?」

『いや、十分じゃ。儂の負けだ』

ワーウルフは恭しく俺に頭を垂れる。

それを見て展開していた魔力を霧散させる。

「質問しても良いか?」

『儂に分かることなら答えよう』

「今の俺と魔王、どっちが強い?」

『……残念ながら魔王じゃな。奴は死なぬ』

魔王が死なない?

『原理は分からん。じゃが、魔王は何度でも生き返る。お主は戦闘では負けないと思うが、寿命では敵うまい』

おかしいな。

俺の知識では魔王を倒してシャルルが勇者として称えられるはずだ。

何だろう、この違和感。

俺の知識に限りなく近いのに肝心なところが違う。

『転生者よ、お主に武器を授けよう』

「武器だって?」

『何時までも丸腰じゃあ格好がつかぬじゃろう』

丸腰どころから素っ裸だったからな。

「じゃあワーウルフの宝って言うのは武器の事なのか?」

やはり俺の知識には無い。

『いや、違う』

「じゃあ宝って何だ?」

『それは』

「爺ちゃんから離れろ!」

「っと、投げナイフか」

姿は見えないが森の中から鋭い刃物が投擲される。

二本目を避けた所でワーウルフが風を操って防風の陣を張る。

『よせ、もう勝負はついている』

「あれは……獣人?」

森の中から現れたのは犬耳を生やした金髪の少女だった。

『獣人とは少しばかり勝手が違うが、まあ認識としてはそんなところじゃ』

「もしかしてワーウルフの宝って?」

『うむ。この娘の事じゃ』

セミロングの金髪をなびかせ、俺とワーウルフの間に立ちはだかる。

背格好はシャルルと同じか、少し高い。

狼の毛皮を全身に羽織っていて、気の強そうな顔を俺に向けている。

「爺ちゃんは殺させないからな!」

「もとより殺す気なんてないよ。てか爺ちゃん?」

『この娘はな、儂が赤ん坊の頃から面倒を見ておるのじゃ』

「ワーウルフが子育てを?」

『幸い、儂は人間の生活にも知己がある。なかなか貴重な経験じゃったよ』

やはり俺の知識にはない。

本当にここはゲームの世界なのか?

『お主に娘を託したい』

「っ……まさか、それが?」

『うむ。儂の宝じゃ』

「宝とか言うなよ、照れるじゃん……って、何言ってんだよ!」

『実はな、お主の本当の両親から遺言を預かっておる』

「本当の……両親」

『最強の称号を持つ者が現れし時、娘をその者に託して欲しい。とな』

「その人達の名前を聞いても?」

『グレイスとドルバランという』

グレイスとドルバラン……まさかーー

「不滅の獣神グレイス、閃光の騎士ドルバラン?」

『うむ、人間達の間ではそのように呼ばれておった』

やはりか。

とするとこの娘は英雄の一人、瞬きの獣人か。

確か名前はーー

「ガレット」

俺がそう呟くと、金髪の少女は驚いたように俺を見る。

「なんであたしの名前を?」

『ふむ、興味深いな。お主の名を聞いても良いか?』

「恭一だ。あんたの言うとおり転生してきたんだ」

『ほう、それで? なぜガレットのことを知っておるのじゃ?』

「俺の前世の知識に似たような世界を疑似体験した記憶がある。その時、知り合った似たような特徴の女性がガレットという名前だったんだ」

瞬きの獣人。

驚異的な身体能力で瞬きする間に敵を倒すことからつけられた異名だ。

実際、ゲーム上では勇者と互角の戦闘力を誇る。

もっとも、魔力がほとんど使えないため遠距離の戦いが弱点だったはずだ。

『ふむ、お主は他の転生者とは少し違うようじゃな』

他の転生者?

「俺の他にも転生者がいるのか?」

『ああ、儂が会ったことがあるのは三人じゃ。いずれもお主のような強力な術を使っておった』

「最強の称号は持ってなかったのか?」

『それぞれ『常闇の騎士』『万象の叡智』『裸の大将』という称号を持っておった』

裸の大将って何だよ。

「あいつらは嫌いだ。自分がいかに凄いかしか言わないし、爺ちゃんを悪者扱いする」

『話す間もなく襲いかかってきおったからな』

ワーウルフはため息をつく。

「ん? 襲いかかってきて、こうして生きてるって事は」

「爺ちゃんがあんな奴らに負けるわけ無いだろ!」

『瀕死の一歩手前で逃走していったから生きているとは思うが……あまり好ましい人物ではないことは確かじゃ』

転生して調子にのったんだろうな。

俺Tueeeeとか思ったんだろ。

『旅の途中で奴らに出会ったら用心する事じゃ』

「ああ、気をつけるよ」

『それと、これがお主に託す武器じゃ。ガレット』

「え? この柄って武器だったの?」

ガレットは腰に提げていた刀のような柄をワーウルフに手渡す。

『うむ。ドルバランが愛用していた幻刀という刀じゃ』

「幻刀だって?」

俺は思わず聞き返してしまった。

幻刀といえば自身の魔力を攻撃力に変換させるチート級の武器だったはずだ。

鞘のような鉄筒に収められた幻刀。

今は魔力が空っぽだからか、武器としての存在感は薄い。

「貰っても良いのか?」

『お主にならドルバランも納得するだろうよ』

ワーウルフから幻刀を受け取り魔力を込める。

すると、鞘から抜いてもいないのに強力な光を纏い始めた。

「これは……良いな」

自身の魔力次第で属性も変えられる。

今は純粋な魔力だけだから光るだけだが、火属性なら炎刀になるのだろう。

『うむ。相性も良いようだ』

「凄い……魔力がここまで可視化出来るなんて」

ガレットは放心した様子で幻刀の輝きを眺める。

「ドルバランはガレットを俺に託すと言ったらしいな」

『うむ。戦列に加えて欲しい。経験や技術は言葉だけでは伝えきれないもの。お主と行動を共にすることでガレットは更に成長できるはずじゃ』

「森はどうするの?」

『何も変わらん。忘れたのか? 儂は不死の身。魂がある限り生き続ける』

不死のワーウルフか。

稀少種のワーウルフのごく一部は精神体だというが、このことか。

「ガレット、俺と来るか?」

「……ちょっと考えさせて」

ガレットはそう言うと森の奥に消えていった。

『すまぬ。あやつも色々と考えたいことがあるんじゃろ』

「別に良いさ。俺達もちょっと時間が欲しかったからな」

ゴブリンと戦っているシャルルは順調とは言い難い程度に苦戦していた。

というのもシャルルの戦闘スタイルは近接戦闘型、相手のゴブリンは中近距離戦闘型というのが原因の一つだ。

俺の補助魔法でステータスは上がっているものの、火の玉を避けたり、剣で軌道をそらしたりで精一杯と言うところなのだ。

『ふむ、あの娘からは不思議な魔力を感じるな』

勇者特有の固有スキルのことか?

『じゃが、戦力差が大きい。助けに入った方が良さそうじゃが?』

「いや、先ずは自分の限界を知ることが優先だからな。本当にヤバイ時は何時でも介入できるし」

『くっくっく、お主の方針はスパルタじゃのう』

ワーウルフは楽しげに喉を鳴らす。

そういえば。

「ワーウルフの稀少種で精神体でもあるって事は他の名前があったりするんじゃないのか?」

『一応はの。フェンリルと呼ばれておるよ』

フェンリルーー狼の神と言われた存在だったか?

「じゃあフェン爺って呼ぶよ」

『フェン爺か、懐かしいの……昔はその愛称で呼ばれておった』

一体いくつなんだ?

「っと、そろそろ限界かな」

『ふむ、見てないようで見ておるのじゃな。お主が言わなければ儂が止めた所じゃ』

「ま、自分が通ってきた道だからな。ウォール」

俺の魔法はゴブリンを囲むように土壁を作り出し、閉じ込める。

「ハアハア……佐倉さん?」

「そろそろ限界かなと思ってな。今の自分に必要な物が分かったか?」

俺がそう言うとシャルルは疲れた表情で首を横に振った。

「足りなさすぎて何が必要か分かりませんでした」

「剣術はどこで覚えた?」

「……村にいる見張りの人の素振りを見様見真似でしたくらいです」

なるほどな。

「よし、じゃあ今日から剣術の基礎を教えていこう。俺も剣術に関しては専門外だけど基本は理解してるからな」

「あ、あれで専門外ですか?」

俺も剣道の部活を隣で見てただけだからな。

武器スキルのおかげで素人に毛が生えた程度には使えるはずだ。

「とりあえずシャルルの目標はゴブリンを一人で倒せるようになることかな」

「はい!」

『ふむ、一つ助言をするなら手足の動きを意識する事じゃな』

「ワーウルフが喋った!?」

『恭一よ、普通はこういう反応をするものじゃ』

「悪かったな普通じゃなくて」

話についてこれないシャルルにフェン爺とのやりとりを掻い摘まんで説明する。

「と、いうことは神獣の方なんですね」

『昔はの。今は二代目がおる』

神獣にも二代目とかあるのか。

「神獣に勝つなんて佐倉さんは本当に強いんですね!」

なんだろう。

シャルルの目がキラキラしてる。

そんなシャルルにフェン爺は面白そうに頷く。

『今日は森に泊まっていくと良い。近くに人間が住んでおった家がある』

「マジか! じゃあ日が暮れるまで素材集めだな!」

「そ、そうですね」

シャルルの口元が若干引き攣っていた。

今日の宿も確保できて、金も稼げるというのになんでそんな顔してんだ?

フェン爺のおかげで思う存分経験値を稼げそうだ。

『この森の中ならどこにいても儂には分かる。日が暮れたら迎えに行くとしよう』

「助かる! よし、行くぞシャルル!」

「はい……」

シャルルは観念したように俺の後をついてくる。

出来ればゴブリンの上位種の素材があれば鎧が作れるんだが……遭遇できるかは運次第だな。

俺達は森をかき分けゴブリンの巣窟へと一直線に向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ