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「ブレイクワールドオンライン」、略してBWOというMMORPGがあった。

 人気はそこそこであり、個人的には大好きだったのだが、その直後に出た別のビッグタイトルであるMMORPGに客が流れたという経歴を持つ。

 システムは特に真新しくもないノンターゲッティングシステムで、命中や回避といったステータスも存在はしていたが、位置取りで相手の攻撃を避けるといったことが可能だった。

 俺はネット上の友人たちとこのゲームをやり込んだのだが、やはりビッグタイトルに客が流れたのが大きかったのか、5年ほどでサービスを終了してしまった。

 その後、VR技術がどんどん発展していき、ついに夢のVRゲームが主流になった。

 そんな中でBWOが「ブレイクワールドオンラインVR」、略してBWOVRというVRMMORPGとしてサービス開始になることを知った俺は、慌てて当時のメンバーに連絡を入れ、懐かしのメンツで再度BWOの世界に足を踏み入れた。


 集まったメンツは俺を含めて5人。

 これはBWO及びBWOVRの最大PTメンバー数と同数だ。

 BWOVRは一部のシステムやクエストは変わっており、新しいIDなども追加されてはいるが、コストを下げるためか基本的な部分はBWOのままだった。

 そのため、オープンβから俺たちはスタートダッシュをかまし、超高効率のレベリングを行って、トップ陣となった。

 固定PTであり、全員が廃人プレイ可能であるのだから、そんなもんだろう。聞いたことはないけど、多分リアルニートとか混じってるし。

 そんな俺たちのキャラ編成は、BWOの頃と同じやつもいれば、全然違うキャラをやっているやつもいる。ちなみに俺は後者だ。

 それぞれのキャラクターはというと――。


 変態紳士こと「スク水は正義」。キャラ名だけで変態とよく分かるこいつは、BWOでもBWOVRでも「ソードダンサー」というクラスを選択した。

「剣士」から派生していく三次職の近接火力職で、単体相手でも複数相手でも火力が出せる、バランスの良い立ち回りができる職だ。

 余談だがBWOではスク水のアバターが販売されたことがあり、こいつは当然のように購入して美少女系の自キャラに装備させていた。

 BWOVRではまだ販売されていないが、販売されたら間違いなく買うと思う。変態紳士だから仕方ない。


 不眠超人こと「ゼノン」。不眠超人というのは、俺らがいつINしても活動をしていることから名付けられた。マジでいつ寝ているのかは不明。

 中身が複数いるんじゃないか説もあるが、本人は否定している。こいつもBWOとBWOVRで同じクラスを選択した。

「魔法使い」から派生していく三次職で、クラス名は「エレメンタラー」。優秀な範囲攻撃を豊富に有しており、雑魚の乱獲はお手の物。


 トリガーハッピーこと「ドラグノフ」。ミリオタであり、たまにサバゲ―もするらしい。ちなみにリアル女。VCで性別が分かったとき、全員が驚いた。

 喋り方とか性格から、全員が普通に男だと思っていたのだ。ちなみにVCだと銃を撃つ際に嬉しそうに笑う声が聞こえるのがちょっと怖い。

 こいつはBWOでは「ガンナー」という汎用中距離クラスだったが、BWOVRでは新しく増えた「スナイパー」というクラスになった。

 両クラスとも「弓使い」から派生していく三次職で、銃を使うという面では一緒だが、スナイパーは射程がガンナーより長く、より単体相手に特化したスキルを持つ。

 単体に特化したのは、多分ゼノンがいるからだろう。


 πこと「3.141592」。キャラ名が円周率だが、長くて面倒だからみんなπと呼んでいる。自称プロ辻ヒーラーで、通りすがりにHPが減っている人がいれば辻ヒールをする。

 何故か「お礼を言われたら負け」という信念(?)があり、辻ヒールをしたらいつもすぐ逃げる。

 BWOでは「プリースト」という回復特化クラスだったが、BWOVRでは「バード」というバフ・デバフに特化したクラスになった。

 クラスが変わったので、辻ヒールじゃなく辻バフをしている。どちらも「神官」から派生していく三次職だが、なんで神官がバードになるのかは不明だ。

 πが職を変えたのは、後述する俺の職に合わせてくれたからだろう。


 俺こと「メーデー」は、BWO時代のクラスは「剣士」から派生していく三次職の「パラディン」。純粋なタンクで、身内ではトップレベルに金食い虫だった。

 ガチタンクを極めようと思うと、他職よりも防具に割く費用が多くなり、耐久値なども減りやすいため、修理費がバカにならないのだ。

 余談だが、ここらのことを理解してくれてない人ばかりが周囲にいると、正直タンクなどはやる気をなくす。

 分配は全部均等(狩り場によっては赤字になる)で、防御が上がるレアアクセなどが出ても優先して貰えずルーレットで決定され、防御が足りないからヒール回数が増えてヒーラーにタゲが回って地雷扱いされ、と散々だからだ。

 幸いにして固定パーティーのみんなはそこらに理解があったため、俺も大きな負担がなくて済んだのがタンクとしてやっていけた理由だろう。

 話は変わるが、大抵のMMORPGでPTを組む場合、タンクとヒーラーはほぼ必須になる。

 火力だけでごり押すというのは、雑魚の乱獲であればともかく、一定以上の難易度の敵には通用しないのだ。

 BWOではタンク=パラディン、ヒーラー=プリーストだったのだが、俺はBWOVRが出るという情報を聞いて、一つの可能性を模索していた。

 いけるんじゃないかと思い、全員に相談してから面白そうだと了承を得て、俺がBWOVRで選んだクラスは「盗賊」から派生していく三次職の「アサシン」だった。


 BWOでのアサシンは火力職であり、対人職という面が強い職業で、一般的なPTからは嫌われていた。

 というのも、アサシンは他クラスと比較すると、与えたダメージに対してのヘイト増加量が一番大きく、単体相手に最強クラスのダメージを与えられるため、敵のタゲをタンクから頻繁に奪ってしまうのだ。

 それに対応するためか、アサシンには『ヘイトリバース』という、次に自分が与えた分のヘイトを下げるトリッキーなスキルがあったのだが、このスキルは非常に人を選んだ。

 上手いアサシンは巧みに『ヘイトリバース』を使ってヘイトを調節し、タゲを奪わないようにするのだが、下手なアサシンだと『ヘイトリバース』を使ってもタゲを奪ってしまうのだ。

 加えてアサシンをやる人は対人が好きな人が多く、対人では全く使い道のない『ヘイトリバース』はそもそも取らないという人も多数いた。

 このゲームはスキルを全て取ることは出来ないので、それも仕方のないことだとは思う。

 このような事情があって、PT募集の際などは「○○ID募集@4。アサシン以外」みたいなのが多かった。

 結果的にアサシンでPTプレイをやる人はほとんどが淘汰されたのだが、俺はこのアサシンで回避盾がやれるんじゃね? と思っていた。

 BWOではソロでちょっと試したことがあったのだが、すぐにしゃがんだり伏せたり、体を傾けたりできないせいで、絶対に避けられない攻撃が多く、諦めたのだ。

 だが、細かいところまで自分の思う通りに動かせるBWOVRだったら、そういった攻撃も避けられる可能性がある。

 スタートダッシュでそんなチャレンジするのは賭けだったが、俺たちは賭けに勝利した。

 昔は避けられなかった攻撃も紙一重で避けられたのだ。

『ヘイトリバース』を使わなければタゲもかなり安定しているので、タンクとしてちゃんと仕事ができた。

 結果、タンクが火力を出せるためにパラディンのいるPTより殲滅速度が上がり、みんながダメージを受けないからプリーストが要らず、その枠でバードがバフ・デバフを入れるため、更に殲滅速度が上がった。

 たまに事故ってダメージを受けることはあるが、バードは持続回復効果のあるバフもあるため、それで十分だったのだ。


 ちなみに俺らの真似をしようとしたやつらはいるが、俺の知っている限り全員が失敗した。

 まず、アサシンが攻撃を避けられない。敵のモーションがちゃんと分かっていないと、どう避けたらいいのかが分からないのだ。致命的である。

 次に、PTの誰かが敵の攻撃を受け、バフの遅い持続回復程度では間に合わずに死ぬ。アサシンがちゃんと仕事をしても、範囲攻撃に巻き込まれたり、ランタゲに適切な対応ができなくて攻撃を受けるのだ。

 つまり俺らの構成は、PTメンバーが固定されており、全員が廃人で、BWO経験者じゃないと成立しないのだ。

 まあそもそも三次職であるアサシンになるのに結構時間がかかるため、試そうというやつがかなり少なかったのもあるだろう。

 お陰で俺らは全員某掲示板でよく晒されている。別に気にしないけど。


 さて、前置きも長くなったが、そんな俺らは今BWOVRの最終IDに挑戦している。

 Lvがカンストしてからのみ挑戦できるIDで、未だクリアしたものはいないと言われている。

 IDの中は城になっていて、5人で城を落とすのが目的だ。

 一度の挑戦でかかるのは、俺の見積もりだと大体3時間くらい。

 俺らの火力+IDを効率的に移動して3時間だから、一般的なPT構成で丁寧に進行していったら5時間くらいかかるかもしれない。

 どちらにせよかなり長いので、変なミスをしないように集中力との勝負にもなる。

 このIDの挑戦回数は、これで16回目だ。文句なしの過去最高難易度で、これまでの15回は全て全滅だった。

 かかる時間と難易度からそれなりの人数のプレイヤーが心折られ、既にこの最終IDのクリアを諦めている。

 まあ俺らは同じ全滅は今まで一度もしていないから、そろそろクリアできるはず。

 少しずつではあるが、着実に進行しているのだから。


 スタート地点は城の裏庭。手入れなどろくにされておらず、咲いていた花なども枯れた荒れ放題の場所だ。

 ここからぐるっと表に回り、正面玄関から進行していく。他の入り口は全て鍵がかかっていて、入れないのだ。

 目の前には巡回している雑魚敵が3匹。全身鎧を着て大楯と長剣を持ったやつ。同じく全身鎧を着て、巨大な両手斧を持ったやつ。全身ローブに包まれた、杖を持ったやつ。全員人型だ。

 ID内の敵は全員アクティブで、こいつらは全員リンクしている。

 雑魚とはいえ一発のダメージはかなり大きく、タンクがしっかりしないと普通にPTが全滅しかねない。

 が、それは普通に戦うならの話。

 俺たちはさっと植え込みに姿を隠すと、そいつらをやり過ごす。

 こいつらの名前は「狂気の○○」。○○部分には戦士とか職業名が入る。さっきの敵セットは「狂気の騎士」「狂気の戦士」「狂気のウィザード」になる。

 まあ面倒だから、俺らは普通に「狂気の」の部分を抜いて呼んでる。

 こいつらは狂っているという設定だからか、明らかに視界に入っていても、一定範囲内に敵が入らなければ反応しないのだ。

 逆に言えば、後ろから近づいても範囲に入ったら襲われるという意味なのだが。

 そしてこいつらの索敵範囲は植え込みまで届いていないので、植え込みを進むと安全なのである。

 別に戦っても倒せるが、時間の無駄だからな。経験値はもう要らないし、大したドロップもない。

 同じような方法で3セットほどの同じ敵グループをやり過ごしながら進むと、城の横側に来た。

 大量のツタが城壁にへばりついていて、なんだか頑張ったら登れそうな雰囲気がしている。

 まぁ4回目に試して無理だったんだけどな。普通にツタがぶちぶちちぎれて終わったよ。

 ここは道が狭まっている上に、先ほどの敵グループが動かず、一定範囲に近づくだけではなく、敵グループの真横にある植え込みに触れると反応してくる。

 最初の3回くらいまでは毎度倒してたんだが、やっぱり面倒になり、避けれる方法がないか検討した結果、6回目に戦闘を回避する方法が見つかった。

 つまり――


「よっと」


 植え込みを飛び越えればいい。

 普通の人間なら無理なんだけど、かなり身体能力が向上しているVRならできるのだ。


「ほいっ」

「……」

「どっせい!」

「よいしょっ」


 俺に続いて、一人ずつ順番に植え込みを飛び越える。二人同時だと通路側が敵を引っ掛けてしまうのだ。

 ちなみに掛け声は上から順番に変態紳士、ゼノン、ドラグノフ、π。誰がとは言わないが残念である。

 そうして城の横側を通過し正面につくと、再度裏庭と同じように敵をやり過ごして、正面玄関前まで移動した。

 ボロボロで穴の開いている正面玄関の脇には、騎士が1匹ずつ配置されている。

 殴りに行くと両方反応するが、実はこいつらはリンクしていない。

 なので。


「『ファイトソング』っ」

「『スナイプショット』!」


 πが一定範囲内にいるPTメンバーの攻撃力を上げる曲を弾き、ドラグノフのスキルが右側の騎士を襲う。

 長射程で高ダメージを叩き出す、スナイパーの代名詞とも言えるスキルだ。

 HPが2割ほど減った騎士はこちらに反応し、攻撃しようと寄ってくる。


「『フロストウェーブ』」


 そこに突き刺さるのは超低温の冷気が波のように襲い掛かる氷属性の魔法。

 高確率で相手にルートがかかり、ダメージを与える便利スキルだ。

 それによって騎士の足元は凍りつき、ルートがかかった。

 近接攻撃しか持たない騎士はそれにておしまい。

 後はただただ遠距離からボコるだけの作業である。

 左側の騎士も同様に処理され、あっけなく終了。まあ序盤はこんなものだ。

 ちなみに俺と変態紳士は高みの見物をしていた。

 集中力を持続させるためにも、抜くところは抜くのが大事なのである。


 正面玄関から中に入ると、薄暗いエントランスにはメイドが10匹散らばっている。

 こいつらの誰かが鍵を持っていて、その鍵を使って先に進むのだが、落とす鍵は2種類あって、どちらが出るかはランダム。

 このエントランスには扉が左右に1つずつあり、その鍵に対応しているため、進む方向がランダムに決定されるのだ。

 中身はほとんど一緒なのだが、左ルートにだけ50%くらいの確率で弱めの中ボスが出現し、そいつからはレアドロップが貰える。

 なので、左は当たりルート。右は外れルートと俺たちは呼んでいる。

 どちらも最終的に2階の階段を出現させる装置へとたどり着くので、鍵の種類は進行に影響しない。

 とりあえず真っ先に目に付いたメイドを素早く狩ると、早速鍵が出た。

 残念ながら外れルートではあるが、一発で出るのは幸先がいいな。


 メイドの索敵範囲に入らないよう、右の扉の鍵を開ける。

 ここから先は倒さないと進めない敵が出てくるから、ちょっと面倒だ。


「じゃ、釣るわー」


 部屋の中は、複数の戦士とウィザードが一定のルートで巡回をしている。

 円を描くように動くそいつらの切れ目に、ドラグノフは躊躇なく突っ込むと、『スナイプショット』を放った。

 弾丸は敵の隙間を縫うように進み、次の部屋の入り口である扉前にいた執事に直撃。

 こいつも近接能力しかないため、寄られる前に遠距離で倒す。

 倒した後は巡回している敵の間に入り、巡回しているルートを通って扉までたどり着く。

 扉を開けて中に入ると、最初に見た敵セット、つまり騎士、戦士、ウィザードとご対面。

 こいつらは避けられないというのが分かっているので、俺は手早く動き出した。


「『ハイド』」


 一部のプレイヤーからは蛇蝎のごとく嫌われている姿の消えるスキルを使用し、ゆっくりと戦士の後ろまで移動する。

『ハイド』中であれば、一部の敵を除いてタゲられることはないのだ。


「『首狩り』」


『ハイド』中限定で使用できる奇襲スキル、『首狩り』。

 実際に首を狩るモーションを取るけれど、それで首は取れないのはゲームだからそんなもんだろう。

 ダメージは非常に高く、これだけで戦士の体力を4割ほど削った。

 当然のように3匹とも俺をタゲる。

 騎士は剣を構え、戦士は斧を振りかぶり、ウィザードは詠唱を開始する。

 なかなかに迫力があるが、恐れることなくウィザードに向かって歩を進める。

 それだけで戦士と俺の戦士の間にウィザードが入り、戦士の攻撃は当たらなくなるのだ。

 その分騎士にとっては非常に斬りやすい位置となるのだが、そっちについては――


「『トランキライザーバレット』!」


 ドラグノフが騎士を眠らせるため、何も問題がない。


「あ、抵抗されたww」


 と思ったら問題発生。

 割とよくあることだから慌てはしない。

 騎士の最初の一撃は真正面からの縦斬りと決まっているのだ。

 なので、振り下ろすタイミングに合わせて一歩だけ横にずれる。

 すると、風を切る音とともに攻撃は外れた。

 パターン単純だからマジ楽だわ。でも、お前の相手は最後な。

 一番硬くてタフなのを最初に狙う意味はない。

 そういうのにはCCをかけてほっといて、軟いのかうざいのから処理するのが鉄則だ。

 今回の順番だと、ウィザード⇒戦士⇒騎士が正しい。

 ただ、俺が最初に戦士を攻撃したのには理由があった。

 そろそろウィザードの詠唱が完了する、というタイミングで、変態紳士が飛び込んでくる。

 突撃しながらウィザードを撫で斬ると、淡々と通常攻撃をウィザードに重ねていく。

 ダメージが入ったウィザードは俺に対する詠唱を中断。即座に変態紳士に向かって詠唱を開始する。

 勿論俺は背を向けたウィザードに向かって、背後からの場合のみダメージボーナスのあるスキル『バックスタブ』を放った。

 通常攻撃でしかダメージを受けていなかったため、ヘイトは一瞬で俺が上回り、ウィザードはまた詠唱を中断。俺に向かって再度詠唱を開始する。

 仕方がないとはいえ、アホである。このために最初攻撃しなかったんだけどさ。

 ガチ過ぎるのは勘弁して欲しいが、もうちょいまともなAIでも良かったんじゃないだろうか。

 ちなみに俺の背後では騎士の寝息が聞こえている。

 さっきの作業をしている間に、対処が入ったらしい。

『トランキライザーバレット』はまだCTだろうから、ドラグノフではない。多分ゼノンだろう。

 俺がウィザードと戦士を誘導して直線に並べると、ソードダンサーの範囲スキル『ブレイドテンペスト』とエレメンタラーの範囲スキル『ヴォルケーノボム』が2匹を飲み込む。

 これにてウィザードは死亡。戦士はまだ1/4程度残っているが、FAと『首狩り』のヘイトが高いため、タゲは俺のままだ。


「騎士@5秒で起きる」

「はいよ。間に合うからCCはいらん」


 πの忠告に軽口で返して、全員で戦士をタコ殴り。

 言われた通り、5秒後きっかりに騎士が動き出すが、こちらにたどり着く前に戦士は死んだ。

 後は単純な作業なもんで、俺が戦士のヘイトを集めてタゲを取り、攻撃を避けてる間にみんなでボコって終了。

 戦闘開始からここまで、ざっと40秒ほどだった。


「じゃ、サクサクいきますか」


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 宣言通りにサクサク進み、たどり着いたのは宝物庫。

 ここには最初の中ボス「狂気のミミック」がいるので、入る前に小休止を取る。

 MPを回復させながら、アクセサリーを全て混乱耐性のつくものに設定していく。

 ミミックのスキルの1つ『トイボックス』は、ランタゲでかつ対象に混乱をかけてくるからだ。

 混乱すると敵が味方に見えたり、味方が敵に見えたりするのでかなり辛い。

 宝物庫内であれば『トイボックス』の射程内であり、常に動き続けていれば回避も可能だが、発生が早いためスキル使用後の硬直中に被ったりすると回避ができないのだ。

 アクセサリーを交換し、πが状態異常耐性のつくバフを入れてくれればこれで耐性100%に到達。

 ミミックで怖いのは混乱だけなので、これで勝ったも同然である。

 攻撃は大振りだから、比較的避けやすい。

 3回目の挑戦ではこいつに全滅させられたけど、その時の死因は味方の攻撃だった。

 混乱してないときにミミックの攻撃を受けたことは一度もないからな。


 ってことで突入。簡単なイベントが始まるが、見飽きたものだからパッと飛ばす。

 走って跳び箱みたいにミミックを飛び越え、みんなの攻撃がバックアタックになるように位置取りする。

『バックスタブ』じゃなくても、後ろからの攻撃は若干ボーナスが入るのだ。

 ついでに敵の前から殴ってたら、俺が避けた攻撃に巻き込まれる恐れもあるし。

 攻撃パターンは右手の薙ぎ払い、左手の薙ぎ払い、噛み付き、ゴミ投げ、『トイボックス』の5種類。

 両手の薙ぎ払いは真正面から密着してれば当たらない。

 噛み付きは攻撃前に一度蓋を閉じるから分かりやすい。閉じたタイミングで下がればOK。

 ゴミ投げは後ろに跳んでから宝石とか飛ばしてくるんだけど、一定距離に近づくと攻撃が終了されるので、跳んだ直後にダッシュで追えば攻撃がそもそもされない。

 で、『トイボックス』は耐性があれば恐れる必要などない。

 そう、俺のやることは単純なのだ。

 基本は正面で密着して殴り、蓋が閉じたら噛み付きを避け、相手が逃げたら追う。

 これだけ。

 まぁそれを言えば、他のみんなはただ殴るだけでいいんだがな。

 最初の中ボスだしこんなものだ。

 特に苦戦することもなくあっさりと倒して、奥に隠されている装置を起動。2階への階段を出現させる。


「よし、んじゃメーデー。マラソンよろ」


 πに言われ、俺はアクセサリーを元に戻しながら頷いた。

 これからするのはまさにマラソン。

 というのも、2階への階段はメイドがいたエントランスに出現する。

 IDで敵はリポップしないので、丁寧に倒してここまで来たなら普通に戻るだけですむだろう。

 だが、俺らは最小限の敵しか倒していないので、道中にはうじゃうじゃと敵がいるのだ。

 来た道と同じことをすればいいのだけれど、面倒なので手っ取り早い手段を使う。

 それは単純に突っ切ること。


「遅れんなよー」

「お前こそヘマして死ぬなよww」

「死ぬわけないじゃんwwwよゆーっすよwww」


 変態紳士に軽く返すも、実際は7回目の挑戦で調子に乗って死んだことがあるので、内心ドキドキしてたりする。

 教えないけど。


「いきま」


 宣言して、一気に駆け出す。

 遅れるような奴はおらず、全員俺の後ろを素直についてくる。

 道中にはスルーした敵がうじゃうじゃといるが、そんなものは無視。

 ただただ真っ直ぐ走り、基本相手になんかしない。

 たまに後ろから魔法が飛んでくるので、それを避けるくらいだ。

 HPは低いから、当たったら普通にやばいし。多分4発くらい当たったら死ぬ。

 まああれですよ、当たらなければどうということはないんですよ。


「おうふ!?」


 とか思ってたら一発食らった。

 後ろで笑い声が聞こえてちょっとムカつく。

 俺のHPはそこそこ減ったが、πは回復スキルを俺にかけない。

 これは別に俺への嫌がらせでもなんでもなく、それが正解だ。

 現状、敵のヘイトを簡単に説明すると、以下のようになっている。


 俺:最初に索敵範囲内に入った対象へのヘイト

 他:何もなし


 範囲内に入っただけのヘイトはほとんどないようなもの。

 回復スキルにもヘイトがしっかり存在し、それは現状の俺へのヘイトよりも高いため、回復スキルを使った瞬間、敵が全員πに対して襲い掛かることになるのだ。

 だからこその放置となる。ちょっと寂しいのは内緒。

 気を引き締めた俺はそのまま走り続け、ようやくエントランスへと到達した。

 IDの敵は一度でも戦闘状態に入ると追い続けるため、今俺らの後ろには50以上の敵がうじゃうじゃといる。

 万が一捕まったら、防御をしっかりと上げたガチタンクでも即死するだろう。

 俺もあの数の敵の攻撃を避け続けるのは無理だ。

 敵はここのメイドを集めたらそれで終わり。

 楽しいマラソンの終わりもすぐそことなる。

 俺がぐるりとメイドの近くを通過し、メイドが全員俺を追跡しだしたのを確認して、PTメンバーが2階へ移動する。

 エントランスを大きく2周ほどして、俺はスキルを発動させる。


「『ハイド』」


 俺の姿は消え、俺をタゲることが出来なくなった。

 すると今まで俺を追っていた敵は、次にヘイトが高い相手に向かうことになるのだが、他の連中のヘイトは全て0。

 結果として攻撃対象がいなくなり、追ってきた敵は全員元々いた場所へと歩いて戻り始める。

 俺は姿を消したまま二階に上り、みんなと合流。

 およそ1時間ほどかかったが、これで1階の攻略は終了だ。


 2階は敵の種類がちょっと変わる。

 メイドや戦士、ウィザードがいなくなり、代わりに文官や武官、銃士が出現する。

 この内、厄介なのは銃士。

『ハイド』が通用せず、索敵範囲が広い。

 更に遠距離攻撃持ちで、当たり前だが銃弾は速いので避け辛い。

 俺の天敵である。

 幸いにして防御と体力が低く、状態異常の耐性もほぼないので、真っ先に集中砲火すれば死ぬまでに攻撃は多くても2回くらいしかされない。

 その2回は頑張って避けるんだけどな。

 文官は魔法を、武官は近接攻撃を行うのだが、武官は指弾を使うためにルートだけでは攻撃が止まらない。

 勿論ドラグノフやゼノンが適切なCCを入れてくれはするが、1階のノリでいると俺は死ぬ。

 つまり、ある意味でここからが俺にとっての本番みたいなものだ。

 設定からオプションを開き、カメラモードを三人称視点に変更。

 こうすると、視点だけが動いて俺の後頭部を見る状態になる。

 カメラを最大まで引いて、視野を少しでも広く取る。

 後ろの敵の動きを知るにはこのモードが最適なのだ。

 だが、このモードはVRでは非常に癖が強い。

 何せ目線が自分のものじゃないのに、体を動かす感覚はそのままなのだから。

 ごく一部の廃人は面白いとか言って常時これを使いこなしたりするが、俺には無理。

 微調整とかはこの状態だとかなりの確率で失敗する。

 ま、それでも後ろがちょっとでも見れるメリットは大きいから、こういう場だと使うんだけど。

 2階で最初にいるのは2匹の武官。見た目同じやつだと混乱しやすいから、右の武官の頭上にA、左の武官の頭上にBとマーキングする。

 マーキングはゲームシステムの1つで、見た目上以外の効果はない。

 今回使ったのはAから倒す、というのを伝達する意味だ。

 乱戦になったらAとBがごっちゃになるしな。マーキングはあった方がいい。


「いつも通り、ちょっと肩慣らしするからCC抜きでよろ」

「うぃうぃ。変態モードガンバーww」

「変態紳士に変態って言われたくねぇよwww」

「いやー、僕も変態だと思うけどねwあれ絶対酔うよ。なんであの状態で体ちゃんと動かせるのか理解できない。人間なの?ww」

「πひでぇwwwまあいきま。『ハイド』」


 横並びになっている内、左にいた武官Bの後ろに移動する。

 発動するのは勿論『首狩り』だ。

 反撃の振り向きながらの横薙ぎをバックステップで回避し、今度は右にいた武官のAに突撃。

 相手の背後に一瞬で移動できる『アンブッシュ』からの『バックスタブ』でHPを削ってヘイトを稼ぐ。

 Aは刺突。Bは剣を振り上げながらこちらに移動してきているので、振り下ろしか。

 体を半身にして刺突を回避すると、ワンテンポ遅れてBの剣が振り下ろされた。

 短剣を剣に当て攻撃の軌道をずらし、生まれたスペースに飛び込む。

 これで俺はAとBの間に入ったことになる。

 カメラの位置は高めにしているので、手前からB、俺、Aという順番で見えている。

 練習の時間、開始。

 ゼノンの範囲攻撃がAを中心に放たれ、Bを巻き込んでダメージを与える。

 派手なエフェクトが吹き荒れる中、Bは剣を寝かせて体をひねっており、Aは再度刺突の姿勢を取っていた。

 Bの横薙ぎの位置は高そうだと当たりを付け、倒れ込むようにしながらAの刺突を払う。

 直後に振るわれたBの剣は予想通り高め。

 俺の髪を数本斬り飛ばすものの、ダメージは入らなかった。

 反撃とばかりにAに斬撃を浴びせたところで、変態紳士が『ブレイドテンペスト』を使用する。

 AとBの武官はHPを着実に減らしていくが、それでもまだ5割ほど。

 硬くて面倒である。

 Aの足払いをジャンプして飛び越え、Bの指弾を首を傾げて回避。

 腰辺りを横薙ぎされればバク宙し、袈裟斬りには体を傾けつつ腋の下をすり抜けるようにやり過ごす。

 逃げ場を潰すような斬撃と指弾の組み合わせには、1.5秒だけ無敵になれる『インビジブル』を使用して対応。

 勿論避けるだけじゃなく、適当に攻撃は入れていく。ヘイトを稼がないとタゲが移るからな。攻撃もさぼれない。

 大道芸のような戦いは20秒ほど続き、そこでAが死亡。

 難易度が下がってからは10秒かけてBを倒した。

 あー。集中力使うわ。マジしんどい。

 とはいえ、2階はこんな戦闘ばかりなのだ。

 むしろ今のは2匹だからまだマシ。

 一番きついとこで文官、武官、銃士、銃士とかのセットがあったはず。

 エンジンあっためていこう。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 たまにポカして攻撃をもらいつつも、結局誰も死なずに3階のボス部屋である王の間の前へと到達。王がこのIDのラスボスだ。

 2階の中ボス?

 まぁ強いのは強いんだけど、名前が「狂気の騎士団長」で行動パターンがほぼ騎士と一緒なんだよね。

 たまに雑魚召喚とかはするけど、その程度。

 モーションが騎士と一緒なんだから見飽きてる俺に当たるわけもなく、一方的にボコりましたよ。えぇ。

 ここに来るまでに2時間40分ほど。

 ラストのボスは15分程度あれば倒せるはずだ。

 問題はどちらかというと集中力、だな。


「じゃ、5~10分ほど休憩すっかー。俺飲み物飲んでくるわ」


 宣言してから席を外す。

 最初にトイレに寄り、紅茶を飲んで気分をすっきりさせる。

 ついでにしっかり目のマッサージをして、目薬を差してから席に着く。

 BWOVRでは、リアルタイムでの発言は耳に聞こえるが、一応ログも残るようになっている。

 ログを見れば残念な会話が残っていた。


 スク水は正義:いてらー

 ドラグノフ :てらー

 3.141592  :いってらー

 ゼノン   :てらん

 ドラグノフ :俺もトイレいくわー

 スク水は正義:だしてらー

 ドラグノフ :あ、でかい方だから5分超えても許せww

 スク水は正義:そんな情報誰も求めてねぇwwww

 ドラグノフ :便秘気味だったんでこのチャンスは逃せない(キリッ

 スク水は正義:だから言わなくていいってwww

 3.141592  :はやく行ってwww

 スク水は正義:どんだけ女捨ててんだww

 ゼノン   :あんまきゃぴきゃぴされるよりはマシじゃ?

 3.141592  :まーねー。やっぱ男女関係がギルドとか壊れるトップレベルの原因だしねぇ

 スク水は正義:え、そういう意味じゃ俺らがここまで関係続いたのってトリガーハッピーの性格のお陰?wなんかそれ嫌なんだけどwww

 ゼノン   :全部とは言わないけど、一因ではありそう

 3.141592  :ゲーム上手いし、話してて楽だし、いいんじゃないかな。僕もちょっとジュース飲んでくる

 ゼノン   :てらん

 ドラグノフ :いやー出たわーwww

 スク水は正義:いてらー

 スク水は正義:早いよwwww報告も要らねぇよwwww

 ドラグノフ :いや、報告したい気分にもなるってwwwお前便秘になったことあんのかwww

 スク水は正義:ねぇよww

 ドラグノフ :ふぁ○っくwww快便野郎ふざけんなwwwはげろwww

 スク水は正義:○で何も伏せれてねぇよwwそして残念だったな、ふっさふさだわwww

 ゼノン   :ドラグノフ、手洗った?

 スク水は正義:……おい?

 スク水は正義:反応ないwww

 ゼノン   :……洗いに行ったか

 スク水は正義:最低すぎるwwww

 スク水は正義:しかしスク水着た美少女でもトイレ(大)行って手洗わないのは……いや、案外ご褒美か?

 ゼノン   :ねぇよ

 3.141592  :もどりー

 ゼノン   :おか

 スク水は正義:おかー

 3.141592  :……僕のログには何もなかったということにするよ

 スク水は正義:まあ平常運転だしなww

 ゼノン   :そうだな。ある意味いつものことだ

 ドラグノフ :洗ってきたYO!

 3.141592  :僕の気遣いを返せwww


 ……うん、ホント残念だ。

 まぁこんくらいのノリの方が気を遣わないし、バカ話っぽくて好きなんだけどな。

 戻ったことを告げ、ちょっとだけバカ話に混ざって一息をつく。


「おし、落ち着いたか。準備おk?」

「あ、ちょい待って。バフ切れそうだし更新かけとく」


 全員に必要なバフがかかったことを確認。

 念のために装備の耐久も確認して、いざ、ラストバトルへ!


「今度こそクリアするぞー!」

「「「「おー!」」」」


 扉を開けて全員で王の間に入ると、イベント発生。

 勿論即行でスキップすると、部屋の中央には「狂気の王」と「狂気の近衛」2匹が立っている。

 近衛はそれほど強くないんだけど、倒されれば倒された分が追加され、更に王のHPが75%、50%、25%になるたびに1匹ずつ増える面倒な仕様だ。

 倒すだけ無駄だが、放置して俺を狙われると避けきれないので、こいつらの面倒はπが見てくれることになっている。

 なので、俺が相手をすればいいのは王だけだ。


「『癒しの調べ』」


 このタイミングで俺にかけられたのは、30秒間徐々にHPが回復するバフ。

 今の俺は体力全快なので、回復目的ではない。


「いきま! 『アンブッシュ』からの『バックスタブ』」


 一瞬で王の後ろに回り、デカい一発を当てる。

 残念ながら近衛は『ハイド』を見破るので、FAはこれで取るしかない。

 のんびり歩いてると王が遠距離攻撃かましてくるし。

 戦闘に入ると、王は当然のように俺をタゲり、近衛は一瞬だけ俺をタゲった後、すぐにπにタゲを変えた。

 そう、回復バフによるヘイトである。


「『ウサギとカメの歌』」


 続けてπが弾くのは移動速度変化の曲。

 曲を弾き続けている間、一定範囲内の味方の移動速度を増加させ、敵の移動速度を減少させる効果がある。

 効果的には適当なんだが、名前が追い抜かれそうな雰囲気あるのはどうにかならないのか。

 πはそのまま近衛を王の間の端へと誘導すると、俺が1階でやっていたようにひたすら逃げ出した。

 近衛がたまに矢を撃ってくるので、それを避けるために後ろ歩きで逃げているのが器用だと思う。

 っとと、πばっか見てたらまずいな。

 王が右手で持っている剣を俺に向かって振ったので、体を半身にして避ける。

 反撃で攻撃を一発入れると、王は左手の杖を一瞬強く握り、杖が青い光をまとう。


「水弾!」


 言うと同時に、杖は横薙ぎに振るわれる。

 そのころには俺は地面に伏せているので、杖には当たらない。

 杖からは水弾が5発、扇状に広がって飛んで行った。

 光弾の先にはゼノンがいるが、これはシューティングでの自機狙い5Wayみたいなもの。

 ゼノンが一歩横にずれただけで水弾には当たらなかった。

 俺は飛び上がるように起きると、また攻撃を入れる。

 序盤の王の攻撃パターンは多くない。

 剣による近接攻撃と、杖による4属性の魔法弾だけだ。

 もっとも、この魔法弾はそれなりに厄介で、まず飛ばす対象がランタゲ。

 杖が青く光ると水で、さっきみたいに5Way。

 赤く光ると炎で、軽い追尾性能がついたもの。

 黄色く光ると土で、直線だが一定距離で拡散するものが放たれる。

 そして今杖が光った色は緑。


「風弾!」


 風弾が描く軌道は渦巻き型。

 11回目と12回目で全滅したのは、πがこれに当たって近衛に追いつかれ、殺されたことが原因だ。

 撃たれた直後は意識するのだが、これは対象に届くまで時間がかかる。

 しかも正面からは来ず、見えづらいため、慣れていないと急に横や後ろから襲われることになってしまう。

 軌道が特殊過ぎるから、ランタゲである意味ないんだよなぁ。だから余計に察知しづらいんだけどさ。

 まぁ避けてくれることを祈るしかないな。

 俺は追加で2発攻撃を当てると、他のみんなに合図を出した。


「ヘイトおk。攻撃よろ」


 そう、最初は攻撃を自重して貰っていたのだ。

 基本俺からタゲが外れることはないんだけど、念には念を、という感じで、最初にヘイトを余分に溜めさせてもらってる。

 この手間を惜しんで逆にタゲがぶれる方が面倒だしね。

 変態紳士が風弾を避けながら前進し、ボスの裏側に位置取り攻撃を開始する。

 ドラグノフとゼノンはそれぞれで距離を取り、こちらも攻撃を開始した。

 距離を取るのは範囲攻撃に巻き込まれないため、だ。

 細かいことだけど、全滅の可能性は1%でも避けたいからな。

 昔は同じ範囲攻撃に巻き込まれそうになって、逃げる際に方向をミスって正面衝突、そのままお陀仏、なんてこともあったから仕方ない。

 剣と杖を避けながら着実に攻撃を重ね、杖が光ったらその色を伝達していく。


「炎弾!」

「土弾!」

「風弾!」

「あっぶね! 今かすった!」

「こんな序盤で死ぬとか勘弁な!」


 そして王のHPが76%の時点で、俺は声をあげた。


「π、残り76%!」

「ういういー。『癒しの調べ』」


 πは近くに移動してきて、俺にバフを入れてくれる。

 75%で出現する近衛のヘイトを得るためだ。


「『スナイプショット』!」


 ドラグノフの弾丸が王の脳天に突き刺さる。

 普通に考えれば即死だが、そこはゲームだ。

 それで王のHPが75%に到達し、近衛が1匹増える。

 しかし、変化はそれだけではない。

 王の攻撃パターンも変化するのだ。

 王は一時的に無敵になると、何やら魔法を唱え始める。

 ちなみにこの間、俺らと近衛は動けるので、時間を無駄にはしない。

 πはまた『ウサギとカメの歌』を弾きながら、近衛を引き連れて離れた場所に移動していった。

 俺は王の真後ろに、変態紳士は逆に王の正面へと移動。

 ゼノンは無敵が切れる瞬間に発動するよう強力な魔法を詠唱している。

 そして、ドラグノフはあくびをしていた。……おい。

 詠唱が終わった王は剣と杖を合わせる。

 すると、剣と杖が合体して、何故か槍になった。


「くくく、貴様らはワシを怒らせた」


 このよく分からん口上が終わると、王の無敵は切れる。

 残念だけどここはスキップが出来ないんだよ。


「この精霊から祝福を受けしエレメントスピアでいたぶり、殺してやる!」


「る」と同時に『バックスタブ』『スナイプショット』『メテオフォール』『居合・一閃』が放たれた。

 エフェクトは一番派手な『メテオフォール』で埋め尽くされている。まぁ他のは地味だから仕方がない。単体技ばっかだし。

 ちなみに、王のHPは70%まで減っていた。

 王は俺の方に振り返ると、すぐさま槍で足払いを仕掛けてきた。

 さっとジャンプで避けたその槍は赤く光っており、当たっていれば炎属性の追加ダメージが入っただろう。

 この状態の王の攻撃パターンも多くはない。

 剣術が槍術に代わり、魔法弾が使われなくなる。

 その分使うようになるのが魔法柱だ。

 王が槍の柄で地面をドン、と突いた。

 槍の色は緑。


「風柱!」


 緑は染み入るように床に流れると、魔法陣を形作り、フィールドにランダムに配置されていく。

 その数4つ。魔法陣が足元に配置されたπは、慌ててその場を離れる。

 全てが配置されると、魔法陣は輝き、魔法陣のあった場所に風の柱、つまり竜巻が出来ていた。

 この魔法柱、設置数は2~5個で毎回ランダム。

 配置位置もランダムだが、これまたランタゲで確実に誰かの足元に1つは配置される。

 その場を動かなければ、当然ダメージを受ける。

 しかし、これで面倒なのはそれだけではない。

 火柱は単純に範囲が他より広くなっているだけで、まだマシ。

 風柱は周囲に強い風が発生するため、吹き飛ばされはしないものの、移動速度に影響がある。

 土柱はしばらく障害物として残り続ける。視界が悪くなって、邪魔なのだ。

 水柱は周囲に水をまき散らすため、足が滑りやすくなってしまう。事故死の原因になる。

 今回はπが風柱の影響を受けて移動速度が減少しているが、曲のお陰で追いつかれてはいない。

 だが、このモードは1分1秒でも早く終わらないとまずい。

 土柱と水柱の影響は、かなり長い間残り続けるのだ。

 足が滑りやすい中で避け続ける、なんてことはかなり厳しいからな。

 再度王が地面を突く。

 今度は赤か。


「炎柱!」


 狙われたのは変態紳士。

 だが、魔法陣が大きいために俺も範囲内に入っている。

 内心で舌打ちしつつ、少し下がって位置調整を行う。

 射程外に出た俺を追うように、王も槍を突き出しながら前に出てくる。

 変態紳士は王から離れるように移動したため、炎柱が消えるまでは戦闘に参加出来ないだろう。

 突き出された槍を避け、王にダメージを積み重ねていく。

 炎柱が消えたら変態紳士も再度合流。

 遠方からは射撃や魔法も飛んできている。

 65%、60%、55%……。

 削りは順調だが、俺にはあまり余裕がない。

 気付けば後方には土柱が2本立っていて下がる方向が限定され、足元は水浸しになっているからだ。

 そして案の定というべきか。

 53%の時点で、足が滑った。

 王は躊躇いなどなく槍を横薙ぎに振るう。

 半端な状態でギリギリ避けれるか、と考えてしまったのは俺の甘えだろう。

 避けきれず、風属性のついた一撃を右足に受けてしまった。

 基礎の物理ダメージで60%、属性の追加ダメージで20%のHPが一瞬で消し飛ぶ。

 次を食らったら間違いなく死ぬ。

 だが、ここでまだ王の攻撃は終わらない。

 攻撃を受けたことによって俺には硬直が発生し、その間に王は次の攻撃モーションに入っているのだ。

 硬直が解除されるのは王が槍を突き出す瞬間。

 今から普通に回避行動をとったのでは間に合わない。

 だから。


「『アンブッシュ』!」


 スキルで位置を変えることで回避する。

 ついでとばかりに『バックスタブ』をぶちかまし、HPPOTを使用して少しでもHPを回復させる。


「心臓に悪いことするのやめろwww」

「さーせんwwwww」


 余裕があるわけじゃないが、変態紳士と一緒に笑う。

 まだ笑える。大丈夫。勝てる。

 そう自分に言い聞かせ、CTが終わるたびにHPPOTを使用していく。

 51%の段階でまたπを呼び、『癒しの調べ』をかけて貰ったところで丁度50%になった。


「貴様ら調子に乗るなああああああ!!」


 王が叫ぶと、全身からオーラを放つ状態に変化する。

 残念ながら髪は金髪になってないし、ツンツンヘアーにもなってはいないが、これが王の50%を切った段階だ。

 セリフはこれだけで、無敵時間もないため先ほどのようにはならない。

 地味に増えた近衛がπに向かって走っていったくらいだ。

 この状態の王は、通常攻撃全てに最初の魔法弾が混ざってくる。

 モーションは変わらないのだが、対処するものが増えた分面倒さが増している。

 また、魔法陣も変わらず使用してくるが、頻度は半分以下に落ち、その代わりに結界魔法を使用してくる。

 これはランダムな対象を一時的に身動きが取れなくするため、危険過ぎる攻撃だ。

 万一俺が食らったら、そのまま回避できずに死ぬの確定だからな。

 まぁこれはモーションがちょっと長めだから――


「動きを止めよ! 結界ま」

「『トランキライザーバレット』!」

「Zzz……」


 こんな感じでスキルキャンセルを入れてやることで対応できる。

 王にはCCの効果時間が1/10しかないから、スキルキャンセル以外にはCC使えないけど。

 立ったまま寝るという器用な王を全力で斬りつけ、叩き起こす。

 青く光った杖をしゃがんで避ければ後方に5Wayの水弾が飛び。

 赤く光った杖を横にずれて避ければ後方に炎弾が飛ぶ。

 魔法弾の頻度が高すぎるので種類をいちいち伝達できない。

 たまに食らった音が聞こえるのはしゃあないので、各自で死なない程度に避けてくれることを祈るしかない。

 HPの回復は基本自前のHPPOT頼みになるからな。

 πも余裕があったら『癒しの調べ』を使ってるみたいだが、基本逃げるのが仕事なのであまり依存出来ない。


「動きを止めよ!――」


 王が詠唱を始めると、俺の足元に魔法陣が作られていく。

 どうやら今回は俺狙いらしい。

 だったら。


「結界ま」

「『ハイド』」


 対象が消えたことにより、スキルキャンセルと同等の効果を発生させる。

 このまま消え続けると他の誰かにタゲが飛ぶので、すぐに王の後方に移動。

『首狩り』でダメージを与えて、再度俺にタゲを引き戻した。

 よし。


 そうして大きなミスなく順調に戦っていき、30%の時点。

 空気が変わった。


「動きを止めよ!」

「『イビルドリーム』」

「動きを止めよ!」

「げぇ……『スタンバレット』!」

「動きを止めよ!」

「頻度高いわ! 『音断ちの剣』!」


 いや、マジで頻度高い。

 CCが入れられるスキルのCTは長めに設定されているから、これはまずい!


「動きを止めよ!」

「うあああ全部CT!」

「こっちも無理。対象は!?」


 俺とπの足元を確認するが――よし、魔法陣はない。最悪の状況ではないな。


「あー、俺だ。援護は出来るしマシ、かな?」

「結界魔法!」


 ドラグノフの体が、炎のドームに包まれた。

 このドームは触れると即死するので、中の対象が動けなくなってしまう。

 ただ、中からの攻撃とかは普通にできるので、そういう意味で確かにマシだな。

 そう思ったのは一瞬。

 王の槍が緑色の光を放っていることに気付いて、俺は顔をひきつらせた。

 体を伏せて、槍を避ける。ここまではいい。


「風弾だあああああ!」


 問題は、放たれた魔法弾。

 王の向きを誘導してドラグノフに向かって弾が飛ばないようにしていたのだが、風弾だけはその軌道故に意味がない。

 しかも最悪なのが、今のドラグノフのHPが半分以下だということ。

 今からHPPOTを連打したとしても、まず間に合わない。当たったら死ぬだろう。

 加えてπの位置はドラグノフから遠い。

 バフも間に合わない。

 当たらない可能性も十分あるが――。


「あー、当たる軌道だわ。さーせん、後頑張れwww」


 ドラグノフの声が現実を突きつける。

 ドラグノフの火力抜きでかかる時間を考えると、今回は厳しいな。

 残念だが、運が悪かったということだろう。

 俺が諦めかけたその時、変態紳士の声が響いた。


「『アサルトダッシュ』! 『疾風の太刀』!」


 突撃しながら到達点にいる敵を叩き切るスキルと、移動しながら途中にいる敵を攻撃するスキル。

 空打ちした際には移動スキルになるそれらを使って、変態紳士はボスから大きく離れた場所――ドラグノフの近くに移動した。

 直後、軽い音とともに変態紳士はダメージを受けながら吹き飛ばされる。

 どうやらその身を盾にしてドラグノフを守ったらしい。


「GJだが……変態紳士がカッコいい……だと……」


 ゼノンのつぶやきが、俺ら全員の気持ちを代弁していた。

 いやー、ホントビックリ。そういうキャラじゃないと思うんだけど。


「うおおお、ありー! マジかっこよくてびっくりしたよ。彼女いない歴=年齢とは思えんwww」

「ふざけんなww俺彼女いるんでww」

「マジかよwwふぁ○っくwwwリア充爆発しろwww」

「ゼノンとかメーデーに彼女がいても違和感ないけど、変態紳士に彼女とか……」

「あれ、俺ディスられてる? ウサギとカメをBGMにディスられてる?」


 何やら戦闘中とはかけ離れた雰囲気になってる。

 各自やることはちゃんとやってるから、別にいいんだけど。

 あと、変態紳士はID終わったら吊し上げよう。


「変態紳士、その彼女って画面外の存在か? 『フロストエッジ』」

「ゼノンひでぇwwwちゃんと三次元だっつのww」

「ダウト!!!」

「πは決めつけんなwww『居合・一閃』」

「いやー、変態紳士は絶対独り身だと思ってたのになぁ。『スナイプショット』」

「動きを止めよ!」

「『ハイド』『首狩り』とりあえず変態紳士はID報酬なしでいいよな?ww」

「いやいやww俺にも分け前よこせよwww」

「彼女いるくせに我が儘な……あ、π、26%なった」

「ほいほいー」

「全然関係ないだろwww我が儘じゃねぇwww」


 そして、25%に到達。


「絶対に許さんぞぉぉ!!」

「ほら、王にも言われてるw『癒しの調べ』」

「ただ設定されてるだけのセリフじゃんwww」

「そろそろ真面目にやんぞー」


 相変わらずπが近衛を引き連れて歩き回る中、王はセリフを続ける。


「来たれ精霊! 我が身に宿り、この世界を破滅へと導くのだ!」


 今回も演出と無敵時間は長めなので、ドラグノフ以外は全員準備に動き出す。

 王の持つ槍が砕け、中から出てくるのは4匹の巨大な精霊。

 そいつらは順番に王に取り込まれていき、その反作用でか、王の体は瞬く間に醜い巨大な肉ダルマへと変貌した。

 槍がなくなった王の攻撃パターンは、これから大きく変わる。

 槍術や魔法弾、魔法陣は一切使わなくなり、その巨大な腕や足を振り回す攻撃を行う。

 避けるだけなら簡単……に思えるのだが、腕が地面に当たると衝撃波が発生し、その際ジャンプしていなければ短時間のスタンを受けるのだ。

 スタンを受けたら次の攻撃を避けるのがぎりぎりになるため、必然ピョンピョン跳ねながらの戦闘になる。

 だがピョンピョン跳ねているとやっぱり避け辛いので、見た目以上には辛い。火力も異常に伸びていて、俺が当たったら即死するし。

 加えて、20%、15%、10%、5%になるたびに王に取り込まれた精霊が解放されるのだが、その際にどでかい攻撃をかましていく。

 それがまた辛いんだよな……。


「素晴らしい、素晴らしいぞ……! この力さえあれば、貴様らなど!!」


「ど」と同時に『バックスタブ』『スナイプショット』『メテオフォール』『居合・一閃』が放たれた。

 やることは変わらないので、そりゃこうなる。

 これで王のHPは20%。早速最初の精霊、土の精霊が解放される。

 土の精霊が起こすのは大地震だ。

 足元が揺れ、立つことすら困難になるほどの大地震。

 そんな中でも、卑怯なことに王は平然とこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 死にもの狂いで避けるが、大地震の影響はそれでは済まない。

 天井が崩れ、王の間の右端と左端に天井の一部が落下し、シャンデリアや天井の装飾品なども落下してくる。

 どれに当たっても低くないダメージを受けるため、全員が必死だ。俺も攻撃を避けるため、『アンブッシュ』や『インビジブル』を使ったし。

 πは追いつかれそうになっていたが、他のみんながヘイトを取りすぎない程度にCCを近衛に入れていたため、なんとか耐えていた。

 14回目でのπの死因はこれだったからな。みんなフォローはきっちり入れてくれている。

 大地震が10秒ほど継続すると、土の精霊は力を使い果たしたように消えて行った。

 何とかやり過ごせたか……。

 まともに動けるようになったことで、王との殴り合いが再開される。

 頭上に振り下ろされた巨腕を掻い潜りながらジャンプする。

 脇腹を切り裂きつつ後ろに回って、CTの終わっている『バックスタブ』を使用。

 砂でもかけるかのような後ろ蹴りは数歩下がって避け、足が戻るのに合わせて前進。

 適当に数発斬りつける。

 そうやって地道に削り、16%になった時点で声掛けを行う。


「16%なったんで、近づいて」


 遠距離職が王に近づくのは危険だが、15%で解放されるのは水の精霊。

 そいつが出たときに王から離れすぎていると、ほぼ確実に死ぬのだ。

 危険でも寄らざるを得ない。

 全員が王の正面側、10m以内の範囲に収まったことを確認すると、王を殴って15%にする。

 そうして解放された水の精霊は寄り添うように王の背後に移動すると、両手を前に出し、その両手から超高圧のウォーターカッターみたいなものを噴出させた。

 ウォーターカッターは壁のようになり、俺たちはV字の中に閉じ込められたような形となる。

 そして、水の精霊は体をゆっくりと回転させていく。

 ウォーターカッターに当たると死ぬので、俺たちも回転に合わせて移動し、王の衝撃波に合わせてジャンプする。

 近衛は当たり前のようにウォーターカッターを無視して攻撃してくるので、適当なCCをかけて放置だ。

 そうして、回転は少しずつ速くなっていく。王から離れすぎていると、この速度に追いつけずにウォーターカッターに当たって死ぬことになるのだ。

 ちなみにこのとき王の背中側にいると、回避不能なウォーターカッターが放たれて即死するらしい。14回目の変態紳士がその被害者だ。

 πが死んでからπの代わりに近衛を引き受けた結果らしい。

 まぁこれは攻略方法が分かったら楽な方だろう。

 πの移動速度バフがなかったら、全員もっと王に近づく必要があるので、難易度は上がりそうだけど。

 王の間を小さく3周したところで、水の精霊は力を使い果たしたように消えた。

 その後、継続して順調に攻撃を行い、王のHPは10%に。

 解放されるのは風の精霊で、こいつは王にバフを入れる。

 単純だが効果が絶大なバフで、その効果は攻撃速度増加。

 この状態の王だと、衝撃波でスタンが入る=攻撃を一撃貰うという図式が成立してしまう。

 だが、これは簡単に対処できた。


「『凪の歌』」


 バードには相手のバフを消すスキルがあるからだ。

 このゲーム、消せないバフも結構多いので、まさか効果がないだろうとダメ元で使ったのが15回目。

 消せたことに爆笑してた変態紳士がボスの攻撃を避けそこね、死んでしまったというオチがある。

 つまり、バードがいれば10%でのイベントはないようなものってことだ。

 普通の構成でバードを入れると、火力的に厳しそうだけどな。

 元通りに戻った残念な王を、ペースを変えずにボコっていく。

 そうして、5%。

 解放された火の精霊は、溶岩を発生させた。

 王の間の奥側から、勢いよく手前に流れてくる。

 15回目で全滅した理由がこいつだ。

 溶岩は当たり前のように触れたら即死。

 対処方法はぶっつけ本番だが、これしかない、と全員で意見を一致させている。

 それは、地震で崩落した天井の瓦礫に乗ることだ。

 死んだあとの引いた画面で見た感じ、そこまで溶岩は届いてなかったからな。

 シャンデリアとかは一瞬でなくなっていたから、それ以外はダメだろう。

 俺以外の全員が左側の瓦礫に向かった。

 俺が近いのは左側の瓦礫だが、瓦礫の上はそれほど広くない。

 王を一緒に連れて行くと、攻撃が避けきれずに死人が出るかもしれない。

 なので、遠い方の右側の瓦礫へと走った。

 ギリギリ間に合うはずだ。

 距離は後10mほど。

 がむしゃらに足を動かす。

 8m。

 対象がいない状態で移動できるスキルが欲しい。

 後、5m。

 そんなときに、俺はスタンを食らった。

 しまった、と思うがもう遅い。

 長丁場で集中力が欠けてきたせいか、衝撃波を食らってしまったのだ。

 スタンはすぐ解けるが、もう目前に溶岩が来ている。

 どう足掻いても瓦礫には届かない。

 反射的に『インビジブル』を使用。

 1.5秒の猶予を得るとほぼ同時に、足が溶岩に浸かった。

 どうやら『インビジブル』中であれば即死はしないらしい。

 だが、この時間では瓦礫まで移動できない。

『インビジブル』の効果が切れる直前にジャンプする。

 しかし、溶岩はそう簡単に冷え固まってくれない。

 このまま着地すれば、それで死亡するだろう。

 だから俺は、ダメ元で『アンブッシュ』を使った。

 王の背後を取り、短剣を背中に突き刺して、醜い背中にしがみつく。こんな状態では『ハイド』も使えない。

 足掻いているだけの延命処置。

 このまま王の一撃を食らって死ぬか、振り払われて溶岩に落ちて死ぬかの二択。

 だが、足掻いた価値はあったらしい。

 王は脳天に銃弾を受け、眠りについたのだ。

『トランキライザーバレット』の効果時間は10秒。

 1/10になるので、1秒だけ安全が確保できた。

 溶岩は未だに熱を放っている。1秒で冷めることはなさそうだ。

 しかし、その1秒でゼノンは詠唱を終え、魔法を使ってくれた。


「『フロストウェーブ』」


 溶岩が一瞬で冷え固まっていき、ただの地面へと変わる。

 正に九死に一生を得た、という感じだ。


「マジGJwwww」

「お前もよく粘ったなwww俺なら死んでたわww」


 軽口を交わしながら着地する。

 ダメージなどは皆無だ。

 王が再始動するが、もう恐れるものなんてない。

 銃撃が。魔法が。斬撃が。王のHPを確実に削っていく。


「『ハイド』……とどめだ。『首狩り』!」


 そうして。

 俺たちは無事、王の討伐に成功した。


「「「「「おっしゃあああああああああああああああ!!!」」」」」

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