12月31日(大晦日)の物語
29歳の大晦日 ―――12月31日(大晦日)―――
『もう、待ってるのに疲れたの』
今度は俺が君を待つよ。それがもし、許されるのなら。
「ほんとに待たされないんだ」
大晦日。
急な誘いに快く応じてくれた結衣ちゃんに対して俺は、絶対に待たせないように作戦を練った結果、結衣ちゃんの家まで迎えに行くことにした。
『いいよ、駅まで行くから』
「お願いだから家まで行かせて?」
『十分くらいなら待っててあげる』
「いいから、家まで迎えに行くから」
『駅でいいってば』
「絶対に一秒も待たせたくないんだよ」
結衣ちゃんを待たせないことに結構必死だったのに、最後には電話の向こうで結衣ちゃんが笑い出した。
「結衣ちゃん?」
『彰ってこんな強引だったっけ?』
「とにかく、家まで行くからね!」
必死な俺をひとしきり笑った結衣ちゃんに若干の不満を残しつつも、俺は約束より十分早く彼女の家に着いた。
「で、ちょっと待ってて、バック持ってくるから」
俺は大学時代に何度か来たことのある結衣ちゃんの家の玄関で彼女が下りてくるのを待った。
「お待たせ」
結衣ちゃんからこういわれる日が来るなんて・・・。
「家の人は?」
「兄は3年前から一人暮らし。両親は親戚の家に行ってるの」
「そっか・・・結衣ちゃん、どこいきたい?」
「うーん・・・イルミネーションがきれいなところ・・・とか?」
デートに誘ったはいいけど、いつもながらのノープランできてしまう俺。だから、結衣ちゃんの行きたいところに行こう。
「都内もいいけど疲れちゃうからな・・・あ、御殿場とかどう?」
結衣ちゃんの家からなら都内に行くのも御殿場に行くのもいい勝負の距離だ。でも、御殿場に行くなら・・・。
「車でいこっか?」
結衣ちゃんが家から少し離れたところに停めてあるリーフグリーンの軽自動車を指さす。
「じゃあ、今日一日、あの車、俺に貸して?」
大学時代のデートは電車移動だった。免許は持ってたけど、車はなかったし。って、これは今も同じ。実家も大学も今の職場もアパートも全部が東京都内の俺にとって、車はあまり必要ない。
「人が運転してくれる車なんて、なんか久しぶり」
助手席の結衣ちゃんはクリスマスが終わったのに、楽しそうにクリスマスソングを口ずさんでご機嫌な様子。
「今日の富士山超きれい!」
晴れ渡った青い空に、真っ白いその姿がくっきりと浮かんで、雪の反射が眩しく感じられるほどだ。
「じゃあ、ここでちょっと休憩」
途中の観光用ビュースポットに寄り道して車を停めると、結衣ちゃんが驚いたように目を丸くした。
「え?どうしたの?」
「あ、ううん・・・」
そういいながら、腕時計に目を落とす。待ち合わせが昼過ぎだったから、時間が気になるのかな?
「時間が気になる?」
「あ、ううん・・・別に」
「じゃあ、時計、外しなよ。休みの日くらいのんびりしたら?」
まあ、俺は結衣ちゃんの分も時間管理をするべく腕時計してるけど。結衣ちゃんには時間を忘れて楽しんでもらいたい。
「そうだね。ありがとう」
外した腕時計をバックにしまって、結衣ちゃんは車から出てきた。今日も彼女はとてもヒールの高い靴を履いている。だから、俺は彼女が転ばないように所々で手を貸しながら、富士山を眺めて散歩をした。
「暗くなるの早いね」
「その分星を眺められる時間が長いと思えばいいよ」
「彰って案外ロマンチストだよね」
大学時代、おしゃれなデートなんて計画できない俺と結衣ちゃんのデートは大半が空を眺めることだった。海辺だったり、河原だったり、どこかの展望台だったり、場所はいろいろだけど、ただ並んで空を眺めている時間が多かった。俺の中の結衣ちゃんは空を眺めるのが好きだった。でもきっとそれは、不可抗力で、デートのたびに俺が遅刻するから、遠出ができなかっただけなのかもしれない。そう気づいたのは、彼女に振られたずっと後のこと。
イルミネーションはものすごくて、俺はあまりの眩しさに目をつぶりそうになって、結衣ちゃんは子供みたいに喜んではしゃぐから、俺はあちこちで写真を撮った。
「あの、撮ってもらってもいいですか?」
イルミネーションが途切れた駐車場への裏道で俺は前を行く結衣ちゃんを立ち止まらせて通りがかりの人に写真を撮ってもらった。
「どうして、あんなとこで?」
「いつか教えるよ」
俺と結衣ちゃんの間には大きな赤い矢印入りの一歩通行の看板。
俺→結衣ちゃん。
いつかこの矢印が両想いになったら・・・。