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29歳の大晦日  作者: 白石 玲
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12月30日の物語

   29歳の大晦日   ―――12月30日(火)―――


『やっぱり(あきら)なんだなって思って』


 それは今も、あの日の俺と変わってないっていう意味?


藤堂(とうどう)田部井(たべい)と代わったんだって?」

「あ、はい、なんか、そうみたいっすね」

 壁に掛けられたシフト表は田部井さんのでかくてきれいな字で書き直されていた。どうも俺は、本当に大晦日も元旦も、ここに来なくていいらしい。

「ま、せいぜいしっかりな」

「え?」

「主任が言ってたぞ。藤堂が年末年始に彼女と過ごしたいから田部井が代わったんだって」

「ええっ?」

 なんつー話になってんだ・・・。田部井さんはいったい主任になんて言ってシフト変更を願い出たんだろうか?聞く限りではろくな話ではなさそうだ。でもまあ、代わってもらってありがたいし、田部井さんが良ければ、理由はそれでいいか。

「プロポーズでもするのか?」

「いや、まさか・・・」

 プロポーズどころか、俺はまず『付き合ってください』っていうところから始めないといけない立場なんで・・・。


「田部井さん」

 急なシフト変更のおかげで、今日が俺の仕事納め。帰り際に、まだ忙しそうにしている田部井さんに、ちょっとだけと思って声をかけた。

「あ、お疲れ。今年もお世話になりました」

「いや、こちらこそ・・・田部井さん、本当にいいんですか?どっちかだけでも俺・・・っていうか、元旦まで働くってなったら、田部井さん、7連勤ですよ?」

 俺の知る限り、田部井さんは25日に休んで以来、今日まで休んでいない。

「大丈夫だって!」

「でも・・・」

「私は好きでここで働いてるの。そのフェミニスト精神は彼女のためだけに使いなさい!」

 小柄な見た目からは想像できない力で叩かれる背中。ああ、敵わないな。

「わかりました。ありがとうございます」

「じゃあ、よいお年を、ね?いい報告を待ってるわ」

「頑張ります。田部井さんも、よいお年を。お先に失礼します」

「お疲れ!しっかりな!」

 最後にもう一度背中を叩かれて、俺は従業員通用口から押し出される。



「もう、寝ちゃったかな?」

 ()()ちゃんはいつが仕事納めだったんだろう?一般企業だったら、昨日かな。今電話しようか、明日にしようか・・・そもそも、こんな急な誘いに応じてくれるのか・・・?


 あれからどうしてた?頑張ってた運転免許は取れた?今も空を見に行くのが好き?今でもたまに走りに行ったりする?仕事は何をしているの?



付き合っている男はいるの?



 訊きたいことは聞ききれないくらいあったのに、あのクリスマスの夜、俺は肝心なことは何一つ訊けずに、ただ彼女を眺めることに時間を使った。目の前の彼女を眺めているだけで、とても幸せだったから。

 でも、付き合ってる男がいるかどうかくらい、訊くべきだったよな。


『もしもし?』


「!」

 彼女の番号を眺めながら考えていたら、無意識に発信したらしく、電話の向こうから結衣ちゃんの怪訝そうな声が聞こえてきた。

「もしもし・・・あ、いや・・・」

『今仕事終わったの?』

「うん。急にごめん、いま、大丈夫?」

『平気だよ。どうしたの?』

「待たせない、デートの誘い」

『いつ?』

「急だよ」

『いつ?』

「明日か、明後日」

 テンポ良かった結衣ちゃんからの返事が途切れる。やっぱり、急すぎたよね。しかも、大晦日か元旦って・・・。

『いいよ、どっちも空いてる』

「本当?」

『うん』


 もう一度、君の隣を歩けるのなら・・・。





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