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29歳の大晦日  作者: 白石 玲
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12月29日の物語

   29歳の大晦日   ―――12月29日(月)―――



『期待してる』



 その言葉は、本心?


「こんなことなら・・・」

 こんなことなら、主任にわがままを言ってでも、大晦日か元旦を休みにしてもらえばよかった。


 クリスマスの日。結衣ちゃんが突然訪ねてきたときには心底驚いた。最初に入ってきた彼女を見たときは、誰かとクリスマスデートの待ち合わせなのかと思って、声をかけないですれ違おうと思ったのに、目の前で転びかけられたら、俺はとっさに彼女を捕まえていた。


『また誘ってもいい?』


 なんて言ったけど、よく考えたらこの年末年始が差し迫った時期に、ホテルのフロントの、端っこあたりではあるけど、それを任されている俺に休みなんてありはしない。就職して7年・・・いまだあのフロントで最も下っ端である俺は当然のことながら毎年の大晦日と元旦の勤務の連続記録を樹立している最中だった。

「・・・年明けかな・・・」

 ため息とともに缶コーヒーを開けようとしたところで思いがけず肩をたたかれ、不覚にも俺はコーヒーを落とした・・・大丈夫、まだ開けてないから。

「何ため息ついてんだよ!」

田部井(たべい)さん・・・!」

 振り向けば年齢はひとつ上、専門卒だから2年分ばかり先輩であり俺の教育係でもあった・・・今現在も半分そうだけど・・・田部井さんがいたずらっ子みたいににやにや笑って俺をどかすような勢いでベンチの隣に無理やり座った。

「彼女と喧嘩でもした?」

 美人なのに気取らないうえに結構平気で訊きづらいこと訊いてきたりするんだ、この人は。

「いや、っていうか、彼女とかいないんで」

「ええ?だって、噂になってるよ」

「何がですか?」

「藤堂がクリスマスにものすごい美人の彼女、ラウンジで待たせてたって!しかも3時間も!」

 美人なのに近所のおばちゃんみたいな話口で言いながら、俺の背中をバシバシと叩いてくるあたり、田部井さんがみんなにかわいがられている理由だと思う。

「あー、彼女は・・・」

 7年前に振られた元カノなんです・・・。っていうのもどうなのかと思って。

「彼女は?」

「恋人じゃなくて、口説いてる最中です、っていうか・・・」

「は?」

 ほらね、美人なのに、おっさんみたいな声出しちゃうし。

「いや、その、つまり・・・」

「うん、じゃあ、そんなことよりさ」

 自分で話振ってきたのに、俺の恋の悩みは田部井さんに“そんなこと”の一言で流された。

「大晦日と元旦の勤務代わってよ」

「・・・いいすっよ・・・って、無理ですよ、俺、今年もどっちも当たってますもん」

 田部井さんの頼みだからって聞こうと思ったけど、これは無理。だって、身体ひとつしかないからね。

「知ってるよ。だから、代わって。私、どっちも休みだから」

「はい・・・って、え?」

 田部井さんだって、去年までは俺と一緒に毎年大晦日&元旦勤務の常連だったはずだ。今年はどうしてもって主任に掛け合って休みをもらったんじゃ・・・?


「田部井里佳、昨日付でフリーになりましたので、大晦日も元旦も予定なし!というわけで、働きます!」


 驚く俺をよそに、田部井さんが宣言した。

「はい?」

「・・・別れちゃったの」

「へっ?」

「今度こそ結婚できると思ったのにな~。人生そんな甘くないみたいよ?でね、実家帰っても『結婚しないのか?』って言われたり、『相手はいないのか?』って言われたり、居づらいのよね~」

 俺が知る限り、田部井さんの彼氏は割ところころ変わっていたけど、ここ3年くらいは同じ人と付き合っていたはずだ。

「主任には私から言っとくから」

 俺より後に来たのに、俺よりしゃべってたのに、あっという間にコーヒーを飲みほして田部井さんはさっさと行ってしまうらしい。ちなみに俺はまだ、開けてもいない。

「せっかく代わってあげるんだから、ちょっとは頑張りなさいよね!」

 言いたいことだけ言って、田部井さんは俺を残していってしまった。



 神様、今度は俺に味方してくれるんですか?


   明日に続く・・・






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