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ぼくらの曇天戦争

ごっつ説明回ですが、世界観や重要な用語についてはこの一話と次の総集編にギュッと詰め込みましたので、後ほど設定が分からなくなったら、この2話を読み返すだけで分かるようになっている…と思います。

「どういうことだってばよ?」って感じですが、話が進むうちに、そろっていく状況と、ここでの説明で、ジワジワ分かりやすくなっていく予定です。

この時点では、晴光(しゅじんこう)自身もふわっとしたことしか理解していません。

 管理局いわく。

 あらゆる物語は、世界を構築する一部分として、知的生物の脳を介してエーテル的エネルギーとして注がれている。

 『エーテル』とは、空間に存在する『目に見えないもの』――――魂魄、精霊、幽鬼などを構成していると考えられている、『力学的理解では観測できない媒質』のことだ。

 この世は酸素と同じように、その『エーテル』で満ち溢れ、物質と物質の間を継ぎ繋いでいる。

 これはその『エーテル』を触媒に、世界が世界という形を構築するのに必要なエネルギーの一つに、いわば想像力といえるものが働いているという理論である。


 この世は生命で溢れている。中でも『思考』を持つ数多の生物たちの、なんという生命力! 産み、増え、肥やし、また産むのだ。世界を満たすその熱量の源は、その想像力にあるのだと管理局はいう。


 故に『筋書き』と呼ばれる法則性があり、通常、物質や生物はその『筋書き』に組み込まれて動いている。

 世界を一つの杯だとすると、この世とは杯があり、そこになみなみと満たされた水がある。

 それが『世界の筋書き』という世界の法則である。


 どの世界にも『筋書き』は存在し、筋書きの前身となった記録、物語が存在する。そのため、管理局はあらゆる物語を収集し、その知識を異世界探索のための武器としている。

 物体は筋書きから外れると、他の物質の流れを阻害する異物として判断され、排除される現象が起きる。

 イレギュラーとは、この筋書きに最初から組み込まれていない異物、または組み込まれていたが、何らかのトラブルで法則から外れてしまって筋書きに戻れなくなった存在―――――つまりは異世界人の総称である。


 我々は、イレギュラーとして生まれた瞬間から咎を負っている。

 なぜなら我々は、そこに存在しているだけで、世界を変える力を持つ。

 上限の定まった世界の中に、投げ込まれたたった一つの小石として、波紋を広げてしまうのだ。


 やがて器の水は溢れるだろう。


 ともすれば世界を壊しかねない我々は、故郷を胸に、新たな故郷を求めている。

 そんな故郷となろうとしているのが、『管理局』という組織である。



 ※※※※



『ふむ……、未だ理解が及ばないという顔をしているね。君は今までに見聞きした夢物語の詳細をすべて覚えているかい? すべてのタイトルを言えるかい? ……言えないだろう。世界に無数の物語があるように、異世界と一口に言っても様々だ』


 彼女の声は、機械的なエコーのかかった二重音ユニゾンで聞こえる。耳についた羽のような装置が、彼女の発声装置だからだという。

 病院にあるようなキャスター付きの丸椅子からズッコケそうになりながら、おれはどうにか、その突拍子もない話を詰め込もうと重い頭を上下に振った。

 目の前には白衣を着たひっつめ髪の女医。そう、ここは確かに病院の診察室のようなところだった。

 すでに体の中まで裏返すほどの大量の検査を、強制的に受けさせられたあとである。

 ぐったり疲れが残ったが、どこで付けたのか、血でバリバリになっていた服を着替えられたのは良かった。今のおれは、床屋で着るポンチョみたいな布を、ちょこっとだけ構造を複雑にしたようなものを着ている。

 異世界においても、利便性やらを求めると同じような形になるらしい。

 でもまあ、生物の進化にはそれは当てはまらないのかもしれないけれど……。


 ちょっと視線を下に向けると、スカートのスリットから覗く組まれた太腿はもちもちと白く柔らかそうで、男子中学生には眼に毒である。けれどもその膝下は、針金細工のような形をした金属的なフォルムをしているし、顔だって目尻の鋭い涼しげな目元をしているのに、明らかにその鼻筋はのっぺりと低い。さて、では下半分はどうなっているかというと、こめかみから顎にかけて、鳥のクチバシのように尖ったフォルムの白いマスクが女医の顔を覆っているのだった。

 彼女はおれの主治医。検査中たらい回しにされたたくさんの医者たちのトップにいる人らしい。


『見ての通り、わたしときみの肉体は一見にしても多くが違う。例えば、わたしという生命には両親というものは存在しない。父と呼ぶ製作者がおり、海馬の代わりに学習装置がある。脳の代わりに人工知能を搭載され、人工的に培養された細胞を有機ボディに貼り付け、四肢と五臓六腑にあたる箇所に各種機能を施して出来ている。きみの視点からわたしを一つの例とすると、【わたし】はサイエンスフィクション的な物語の世界の住人だ。色んな世界がある……わたしのような機械が生物よりも多い世界、物理的次元しか存在しない経済的な世界、賭け事で君主を決める世界、魔術や妖術が存在する世界。人種においても、エルフ、人間、獣人、小人、黒いの白いの茶色いのに、大きいの小さいの……あらゆる生物がここに集結し、異なる世界を行き来している。人智を超えた世の中というわけだ』

 そして、と女医は晴光を手で示した。


『きみもまた、我々から見た『人智を超えた世界』の住人の一人である。きみの肉体は、きわめて危ういバランスでここに存在している。それというのもね、異世界人には二つのパターンがあるのさ。いや……正確には、『異世界人になるには』二つのパターンがあるんだ。先天性か後天性……生まれつきか、そうではないか。この組織にいるのは、ほとんどが『先天性の異世界人』なんだが……きみは後者だ。後天性の異世界人。これが、きみがここに存在することの奇跡を物語っている』


「もしかして、おれが倒れたのと関係があるんですか? 」


『Excellent! 我々の用語で云うと、異世界からの異物のことをイレギュラーという。先天性のイレギュラーには、一つだけ共通した能力が備わっている。それは我々が『適応度』と呼ぶものだ。先に説明したとおり、それぞれ多種多様な環境の世界が存在しているわけであるが、先天性のイレギュラーの場合はその環境に『適応』する必要がある。『適応度』が高いほど過酷な状況でも生き残ることができ、低いほどに生き残ることすら難しくなってくる。とあるエイリアン映画ではオチで地球産バクテリアで侵略者たるエイリアンが自滅するんだが、このオチを我々流に言い換えると、侵略者エイリアンはバクテリアに感染してしまうほど『適応度が低かった』わけだ。そしてその重要な『適応度』は、後天性のイレギュラーには多くの場合そなわっていない。きみが昏倒し目が覚めたら二年経っていたという驚きの展開は、この世界に適応できなかったゆえに起こった現象だと予想されている』


 おれは慄いた。

「じゃあ、おれの体は今もやばいってことですか……? 」

『ウーン、どう説明したものか。ちょっと検索するから待ってくれ』

 そう言ったきり、彼女は一時停止したようにピタリと動作を止めた。瞬きすら止まり、発光する青い蜻蛉玉のような目がむき出しでちょっと怖い。


『……ふむ、きみ、ヨモツへグイとは知っているかな』

「し、知らないっす……」

『ムムム。きみの民族にある通説なんだが……では、こんな民話を知らないかな。とある夫婦が死に別れ、夫は死んだ妻を探して黄泉へ行った。無事で会えたわけだが、妻はすでに黄泉のものを食べてしまった後だったために、地上に戻れなくなってしまった。黄泉の(かまど)から食うと書いて、黄泉竈食いと謂う。異界のものを体内にいれると、その世界の住人として体を作り替えられてしまうのだね。ふつう低い適応度というものは上がるものではないし、無い適応度を備えることは出来ないんだが、方法が無いわけではない』

「それがヨモツへグイ? 」

『きみは覚えていないかもしれないがね。この異界のものを、ぎりぎりできみに与えたんだ。それにより、きみは『適応度』を備えてぼろぼろの体を再構築した。……二年の時をかけてね。言葉が分かるようになったのも、そのためだろう』

「それって……」

 思わず唇をさする。夢うつつに舌に当たった感触、味、感覚。おれが飲んだあれは……。

 そんなおれを見て、女医は苦笑した……ような仕草で目を細めた。


『覚えがあるようで。……そう、確かにこの世界は我々イレギュラーがワンサカ、歴史的にも異文化交流に余念がないんだが、こればっかりは純粋培養だ。さらに処女の血というのは、呪術的にも効果が期待されるらしい。きみが彼女のところに出現したのは』白い指が、おれの胸の真ん中を指した。『彼女が、『その体』の提供者だからだろう』


 おれはなんとも言えなくて、手持無沙汰に頭を掻く。おれの頭髪は、もとの黒髪が分からないくらいに真っ赤になっていた。

『『適応』によって、世界を渡るときに容姿の変化があるのは珍しいことじゃあない。その髪色は、この世界におけるきみの色というわけだろう。気に入らなければ、染めるための用意もできる』

「あ、いや……そうじゃないんス。もとの色に未練があるってわけじゃあなくって、ちょっと恥ずかしいなーって」

 バスケやっているやつが赤い髪なんて、狙ってやったみたいじゃあないか。でも仕方ないよなぁ。事故なんだから。

『遠慮はいらないよ。保護と支援は管理局の仕事だ。遠慮せず、困ったならどんな小さなことでも言ってくれればいい』

「いえ、確かにまだ混乱してるし現在進行形で困ってはいるんだけど……でも、髪はこのまんまでいいです」


 おれは夕日に染まったみたいに真っ赤になった頭を片手でかき混ぜて、勝手にニヤつく唇を曲げた。



ざっくり解説




世界の筋書き

  管理局が認識する世界の法則性。

  他の世界で「物語」としてあるものが、それを読んだ知的生物の発するエネルギーと混ざって、他世界を構成するイチ要素になっている。

  つまりはどの世界も、決まった展開と決まった配役で動いている。例外は異世界人だけ。

  筋書きが改変されるといくつかの現象が起きることがある。(それはこの先出てきます)



イレギュラー

  上記の「筋書き」から逸脱してしまった存在の総称。

  筋書きを乱すため、その世界から排除されることになる。(=ある日とつぜん異世界に!という事故がおきる)

  当然、その世界の筋書きにも存在していないため、排除は繰り返される堂々巡り。

  管理局は、そんなイレギュラーたちを回収し、異世界の研究をしたり、生活できる環境を与えている。



適応度

  イレギュラーは異なる世界環境に適応するために、その形を変える能力がある。その順応性を数値にしたもの。

  これが無いと、異世界に適応できなくてだいたい死ぬ。

  晴光は生まれついてのイレギュラーでないため、『適応度』を備えていなくて死にかけた。




本の一族

  万能薬になる一族。髪や目の色のバリエーションが豊富。細身で小柄、童顔、男女問わず長髪といった特徴がある。温泉が好き。

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