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トリップ? 入れ替わり? そして知らない人と知った事(後)

 この部屋から出れば、鏡とか窓とか。そういった物があるのだろうか……。自分の姿を確認できる物―――

 ハッとする。そうだ、確かに水面も自分の姿を確認できる物じゃないか! 早くも答えが出てしまう。ちょっと前の自分が恥ずかしい。


「あ、あの」

「うひゃあ! あ、そうだった! ごめんね、また話が逸れちゃった。えーっと、確か置かれている状況だよね。と、その前に。ほら、名前言いなさい!」

「痛! 叩くな! あー、俺の名前はモミジだ。

 ……えーっと、お前、マコトは、南部スラムから中央都市にあるノード城に連れてこられた訳だが……かなり強引、かもしれない手を使った。まず一つ、謝らせてくれ」


 「ごめん」と一礼された後、モミジは話を再開させる。私の話は……。


「連れてこられた、ではなく連れ去った、か。まぁどちらでもいいか。俺達は南部スラムにあるお前の家に訪れ、そこで来た訳を話した。しかし、お前は余程ここが好きなのか『嫌だ! 私はここにいる!』と家を飛び出した。それでまぁ追いかけて……捕まえた。そこでさっきの会話だな。お前をフラッとさせるほどの力加減で押し、不思議なハンマーで頭を叩いた。……後は分かるか」

「でもさぁ? このハンマー、自信作なんだよ? 試しに使ってみたけど記憶が飛んだ事はない。……とすると、モミジ。全部君が悪いよね。って、マコトちゃん? 顔色悪いよ? ……大丈夫?」


 やばい。やばいやばいやばい。二人の見ている前で思わず頬を抓る。痛い。でも信じたくなくて次は叩いた。とても痛い。……夢ではない。

 いや、現実では有り得ない話だ。だって、ゲームの世界に入ったんだ。いや、でも科学やら技術やらが発展すれば有り得る話になるのだとしても、私がいる現代は残念ながらそこまでの技術は持ち合わせていない。そんなゲームがあるという話も聞いたことがない。むしろそういうゲームがあるならCMで流れているはず。

 待て、待て、落ち着け。深呼吸だ、深呼吸。

 …………そうだ。もう起こってしまったんだ。有り得ないと思っても今現在、こうやってゲームの中に入っている。入ってしまっている。というか、何故今まで気付かなかったんだ。もしもこのままゲームが進むとすると仮定する。ならば。

 クリアしてしまえばいい! クリアして元の世界に戻らなかったら。その時はその時だ。

 今までの不安、焦り等が急に楽しみ、ワクワクに変わっていく。だって、ゲームの主人公に実際になって、戦って、キャラクターを話して、一緒に過ごしたりできるんだ。こんなの、人間なら一度でもしてみたいと思うはずだ。いわゆる、二次元に行きたいというあれだ。私はそれを実際に体験してる!

 前向きになったところで、ジェードさんに体調を聞かれたのを思い出す。


「いえ、大丈夫です!」

「あれ、そう? ならよかった」

「……じゃあ、聞こう。これは数分前に、ジェードがお前にした質問だが」


 モミジさんはコホンと咳払いをし、私の目を真剣な目で見る。私もそれに負けじとモミジさんの青みがかった緑色の目を真剣な目でみる。


「お前は、元の居場所に戻りたいか?」


 戻りたいか。そう聞かれるのは分かってはいたが、どう答えるべきかは考えてはいない。

 私の体験している事は本当は私ではなく本当の主人公、マコトが体験するはずの事だ。たとえゲームであっても。主人公マコトの性格だとか、そういうのは全く分からない。

 なんて、そういうのを考えたって仕方がない。本物に悪いからなんて理由で何も答えていないと、シナリオを進める人がいなくなる。そうだよ、これはゲームの中なんだ。きっと、ここに選択肢がある。と思う。

 そうなんだ、今の主人公は私、だ。私は思いつく選択肢の中、意を決しその問いに答えた。


「えっと、戻りたい、というか……挨拶をしたいというか」

「挨拶? ……あ、そっか。確かにこれから預からせていただきますを言ってなかったね」

「は? お前済ませてなかったのかよ」

「え? 言ってなかった? そう言う暇も無かったんだよ。その日の夕方、月の魔物がここに近づいてくるっていう反応があったんだもん。……反応誤動作だったけど」


 ほら、とジェードさんは何か書かれている紙をモミジさんに見せる。「うわあ……」とモミジさんは顔を歪ませる。

 月の魔物が何なのかは分からないけど、会話を聞いている限りは敵だと思う。星と月と人間物語、だから星とか月とかが関係しているのかもしれないと購入前に考えたがこういう事なのか。


「凄い数だな……こんな数が一気に来たら、町一個は滅ぼせそうだ」

「そう考えると誤動作でよかったって思うけどね。アタシだって最初は誤動作かもって考えたんだよ? そんな、200体も探知するんだもん」


 町一個滅ぼせる数って、どんなにいるんだろう。どうせ何百体とかそんだけだろう。そう思っていたが、本当にあっていたとは。別に驚きはしないが。

 ジェードさんは「でも、挨拶行けるねよかったね」的な事をいい私の頭を撫でる。まさかの子供扱いで私は愛想笑いを浮かべながらその手を軽くあしらう。


「じゃあ、明日出発! かな。早めに行動して早めにやった方がいいもの」

「だな。ここ最近平和だな。お前のその……月の魔物を探知だか察知だかする機械の誤動作さえなければな」


 嫌味であろう言葉にジェードさんは「もう!」とモミジさんのほっぺを強くつねる。いたそうだ。10秒くらいすると手を放し、そっぽ向く。何だろうこの二人は。犬猿の仲というヤツだのだろうか。


「……はぁ、とりあえずマコト。お前は今日一日はここにいとけ。それがいやなら書庫に行って本でも読んでろ」

「え? は、はい」

「あ、もし読書が飽きたらならアタシのいる部屋においでよ。外の城下町に行こう!」


 ジェードさんに何枚か地図を渡された。一枚は世界地図、二枚は多分、城下町の地図。三枚目はこの城の見取り図っぽい物。多分どれも手書きだと思う。

 しかし、ジェードさんのいる部屋というのがどれか分からず聞こうとすると、モミジさんは地図のある部分を指差す。一階の西側にある客間、だ。


「その部屋がジェードが寝泊りしてる部屋だ」

「あ、そうなんですか。……モミジさんの部屋は?」

「俺は……ここだ。ここの宿に泊まってる」


 モミジさんは城下町の地図の北北西の所に指を刺した。そこをよく見てみると『風の宿』と書かれている。


「そこの4号室に泊まってる。用があるなら来い」

「ただし! アタシも連れて行く事!」

「はぁ? 何言ってんだ。確かにこの宿は裏路地を通らないと行けないような場所だがそんな危なくないぞ。静かで落ち着けるしな」


 ジェードさんの急な発言にモミジさんは少々驚きつつもそう返す。冷静だなと思いつつジェードさんを見ると、子供みたいに頬を膨らませ、今にもモミジさんに飛びつきそうだ。


「もう! 分かったよ! じゃあアタシ、部屋に戻っとくね。マコトちゃん、アタシの部屋に来るの、いつでもいいからね。あ、でも今日の夕方までね! 夕方以降はやる事があるから。じゃねー」


 ジェードさんはそそくさと部屋を出て行く。町を探検、か。確かに、この世界、といか世界設定? 的なものを知るのにいいかもしれない。

 モミジさんも「じゃあ、俺も戻る」とだけ言って部屋を出て行った。

 ……そういえば、自分の姿確認せずゲームの中だと確定しても……うん、いいんじゃないだろうか。大丈夫、現実世界での冴えない私じゃないさ。ちょっとした疑問を抑えて「町の探検か」と呟いた。

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