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トリップ? 入れ替わり? そして知らない人と知った事(前)

「……だ……うしよっか」

「……がない………えばいい」


 誰かの話し声が聞こえる。会話の内容はあまり聞き取れない。

 そういえば、私は……そうだ、気絶して、それから……。


「うーん、でもさ、可哀想でしょう? 人違いで連れ去られてさー」

「だからと言ってだな、コイツにも力が無い訳ではない。確かに、俺達の探しているヤツよりは弱いが」


 連れ去られる、人違い……つ、連れ去られた? ちょっと待て、連れ去られたって、人違いで? え、誰が?

 会話している人達がどんな人かを見ようとして目を開けようと試みるが、体はまだ眠っているらしく、開いてくれない。確かこういう状態ってなんていうんだったか。金縛り?


「でもさ、いきなりこんな所に気絶させられて連れてこられて、しかも『この世界が危ないから世界救って』なんて言われたらどう思う?」

「気絶させられる前に抵抗した、を付け足すと……ああ、理不尽だな」

「うわ、何その理不尽」

「でしょ? だから帰してあげようってアタシが提案してるん……って、起きてたんだ」


 心の中で思っていた事が口に出てしまい口を手で塞ぎ、いつの間にか開いていた目を閉じるも時既に遅し。激しく後悔する。

 やばいやばいやばい。やばそうな会話に口を挟み、やばそうな人達に気づかれてしまった。

 焦って焦って気付かなかったが、もう体は動いてくれるらしい。もっと寝てくれてたらよかったのにと思う。


「あ、え、っと。オハヨウゴザイマース」

「うん、おはよう。起きてたなら言ってくれればよかったのに」

「だな。連れ去られた本人の前ではしていけない会話をしてしまったしな」

「こら! そういう事言うと怪しがられたり怯えさせたりするから黙っといて!」


 ……杞憂だったかもしれない。私の考えていたような人では無かった。無駄な心配をしてしまった。

 ホッと息をつくと、優しそうなお姉さんが困ったような笑みを浮かべながら私に向かって何か呟いた。呟いていた事はあまり聞き取れなかったがそんな事は今の私にとってはどうでもいい。命の危機には―――

 確か世界を救って、だとか、そんな事を言っていたような気がする。

 それだけじゃない。よく考えてみれば、二人の服装はゲームに出てくるキャラクターの服みたいな、いや、まんまそれだ。

 コスプレだ。いや、コスプレなんだ。きっと私はそれに巻き込まれているんだ……! そんな、ゲームの中に入ったとか、そんな、アニメやマンガじゃないんだからさぁ……!

 無理やり答えを出し、一先ずは落ち着く。


「あのね、君は、元の居場所に帰りたい?」

「え? えーっと……」


 急に振られた質問で戸惑う私。お姉さんはとても真剣な目で私を見ている。状況が飲み込めない。

 目線を泳がしながら「えっと、そのー」などを繰り返している私を見てお姉さんは小さく笑う。


「ふふふ、そうだよね。だって物凄く抵抗してたもんね。……そうよね」

「はぁ、これで降り出しに戻るのか」


 お姉さんは状況を分かっていたらこっちも悲しくなるような顔で俯き、雰囲気的に怖そうな男の人は溜息をついてそっぽ向き何かを考えるかのように手を顎に添える。


「あ、えっと、そうじゃなくてですね……そ、そうだ、あの、突然ですけど、名前はなんですか?」

「えぇ? あー、名前ね。確かに言ってなかったよね、ごめんごめん。アタシはジェードっていうんだ」

「ジェードさん、ですか」


 内心男っぽい名前だなと思いつつ、男の人に「あなたは?」と問いかけるような視線を送る。

 それに気づいたように、男の人はこっちをみる。


「俺? 俺の名前は村で言ったと思うが」

「あれ、そうなの? じゃあアタシも言ったかも……」

「え? あ、えーっと」


 まさかの事実に戸惑う。いや待て。別に隠す必要はないんじゃないだろうか。こう、自分の置かれている状況を聞いても殺される訳じゃないし。

 そうだ、気絶だとか不穏な事を言っていたし、混乱していると取ってくれるはずだ。


「あの……すみませんが、私の置かれてる状況って……」

「え? も、もしかしてさ、記憶……無い?」


 無い訳じゃない。気絶する前の事は覚えているし、三日くらい前までの記憶ははっきりと覚えているつもりだ。

 でも、辻褄が合わない。気絶はした。でも抵抗はしていない。連れ去られた、というのは今ここにいる事が証拠だ、多分。

 はいかいいえで答えるのは無理だったので「多分」と答える。


「えー……ちょっと、力の加減間違えたんじゃないの?」

「まさか。俺は倒れるくらいの力でコイツの体を押して、それからお前に貰ったどんな弱い力で殴っても気絶しちゃうくらいの威力を生み出すハンマーで殴っただけだが」

「押す力が悪かったのか、それとも殴った所が悪かったのかな?」

「それのどれかだとしてもどれも俺が悪い事になってるよな。作ったお前が多少悪いっていう考えはないのか」


 私にはあまり意味の分からない事を話し続けている二人を見て色々考えてみる。

 今の私について。そうだ、これが疑問だったんだ。もし、もし本当に星と月と人間物語の中に入っているんなら。私の姿は男主人公か女主人公かの姿になっているはずだ。しかし残念な事に、私のいる部屋は窓も鏡も、自分の姿が写るような物が無かった。むぅ、と口に出すのが恥ずかしい、子供みたいな唸り声を心の中で出してどうするか考える。

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