序章 削除→ニューゲーム
ゲーム制作会社のロゴが何秒か表示され、ブラックアウト。OPは無いらしく、落ち着いた音楽と共にタイトルが表示される。ゲームタイトルは星と月と人間物語。略してほつにも。特に意味も無さそうなタイトルだ。
このゲームはあまり有名では無い。そしてクソゲーと思う人、神ゲーと思う人で分かれる。ネットで検索しても公式HP、Wiki、考察サイト、某掲示板のスレなど、そういう類のものしか見当たらなかった。
「うーん、500円で買った中古品だからなぁ。やっぱり前の人のデータあるよねぇ……って、しかもクリアデータじゃん! 消すの勿体無いなぁ」
一つしか作れないセーブデータを見てため息をつく私。データをよく見てみると、【名前:イオン|13週目|プレイ時間:99時間99分】という文字。本当に勿体無いくらいやり込まれている。泣きそうだ。
そうだ、ほつにもについて私の知っている事を整理しよう整理。そう思い、一旦テレビを切り暖かい絨毯に寝転ぶ。
星と月と人間物語とは。シミュレーションロールプレイングゲーム。ハマる人は何周でもやり込むし、ハマらない人は放置。そこからが神ゲー派とクソゲー派で分かれるのかもしれない。
確か、あらすじは、寂れた村で過ごしている、大変だけど幸せな生活を送っている主人公。その村に王国の立派な騎士と取り巻き数名が主人公の家に訪れ、王都に無理やり連れて行こうとする。友人、身内との別れを嫌がり抵抗するも気絶させられる。そして、主人公が目を覚ました所は城のとある一室。そこで主人公は魔法使いを名乗る者からある事実を告げられる。と、まぁ私からしたらクソシナリオのように感じられるようなあらすじだ。
主人公は男と女で選択出来て、EDも仲間になるキャラ毎にED、トゥウルー、ハッピー、バッドと、色んなバリエーションがある。キャラEDは少々甘い、らしい。
周回プレイは引き継ぎや性別変更、最初は無かったイベントを見れるなどがある。容量は大丈夫なのだろうか……。バグは少ないとネットで見たが進行不可能になるバグがあるらしい。
私の知っている事は多分これだけだ。情報整理を終えテレビの電源をつける。画面はタイトルメニューを移している。
「なんというか、心が痛むなぁ。でも仕方ないか……よし」
意を決して、説明書に載っていたデータ消去のコマンドを打つ。すると画面が黒くなり「データを全消去しますか? ※今までやってきた事が白紙になります!」という文字。例えが面白いなと思いつつ、あえて下に設置された「はい」を選択する。珍しい事に二回目の選択肢が無く、「データを消去しています…」という文字と共に読み込み画面が映し出される。3分くらいすると「消去しました」の文字。
長いな、と思いつつ決定キーを押す。タイトル画面の代わりに主人公の性別選択画面表示される。私は女なので勿論女を選ぶ。すると画面にはショートヘアーの活発そうなキャラクターが現れた。
カワイイなー! と心を躍らせつつ決定キーを押す。次は名前入力だ。
「名前、名前か……似合う名前がいいよね。ひらがなは論外だし、やっぱりカタカナかな」
自分でも驚く程名前がたくさん思いつくがこれもだめそれもだめで、最終的には自分の名前をカタカナにした「マコト」を入力する。
「自分の名前って結構恥ずかしいなぁ……ま、いっか」
軽い気持ちで、そしてやっと本編を始められるという気持ちで「けってい」を選び、キー押す。ローディング画面が映し出される。
しかし、大体5分経ってもまだローディング画面だ。少々イライラしてきた。私ってこんなに短気だったか。
もしかしてフリーズしたのかと思い画面をよく見てみても、デフォルメ風のモンスターが右から左へとちょこちょこと走っている。
イライラが頂点に達しそうになり、もう消去したし、それにもう22時だし。明日も休日だから明日またこの続きをやろうという考えにたどり着き、自分の寝床へ移動しようと立ち上がる―――はずが。
ゴン! という鈍い音と共に、頭に痛みが襲ってくる。やばい、と私の本能が告げる。いや、本当にやばい。私はそのまま床に倒れた。
ふと、違和感のような物に気づく。私の倒れた地面は、私の部屋全体の床に敷いてある暖かい絨毯ではなく、道路のゴツゴツとした冷たい地面だ。―――気づいた時には遅かった。
今にも無くなりそうな意識をどうにかつなぎ止めて、今見える範囲を見る。ベージュ色の壁が、どんどん灰色の石壁に変わっていく。
ここはどこ? ゲームやめて寝ようとしたのに。私の部屋はこんなのじゃない。この痛みは? 色々混乱してきてパニックになる頃には私の意識はもう無かった。