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冷泉院3
源氏 そうそう、そう言えば美しさが増すというものよ。
中宮 あと一つお聞きしたいことがあります。
源氏 母上とのことか?何も聞いておらんのか?
中宮 いとしいお方というばかりで、どこがどういいのか、どうして
そうなったのか、一度も聞いたことがございませぬ。
N(源氏はうなづきながら間をおいて)
源氏 若き頃、六条の御息所は我ら若者のあこがれの的じゃった。
東宮亡き後、つまりほんとは皇后になられたお方。今の六条院の
秋の邸宅はすべて御息所のものじゃった。若者はそこに集い
御息所はこのわしにお目を止められたのよ。
中宮 父上の若いころは玉のようないい男、そう申しておりました。
源氏 ところがわしは一番年下で、妻の葵上は、お前は知ってか藤壺
も五歳上。御息所は何と七つ上。何かと引け目もあったようじゃ。
中宮 野々宮で。
源氏 そう、夕顔と葵上の怪死は御息所の怨霊、そう告白された。
いとしいおかたじゃったよ。
中宮 愛しておられた。
(ト源氏は大きくうなづきながら泣く。中宮、にじり寄って
源氏の涙をふく)