二ノ伍
「なっ!?」
右下から刀を振り上げる。
どうしていいか解らず僕は左手で防御の構えをするが、刀に対してそれはまったく意味の無い行為。
ザクン、と斬られたかと思いきや、刃物が当たる音――夕莉の刀が目の前にあった。
「ほう、反応するか」
「あ、明人は私が守るっ!」
「女に守られる男、とは」
やめてください言わないでくださいよお願いします。
一瞬だけ後退し、距離を取って双華さんは刀を構えなおした。
そして――瞬時に距離をつめて夕莉へと刀を振り下ろし、夕莉はそれを受け止め、僕を後ろへと後退させた。
リストは変わらず僕をじっと見ている、僕の後退に合わせて数歩近づいてきたくらいだ。
どうしようか、リストは僕の瞳の中――ならばこのまま僕は協会へ逃げ込むのが一番の手だが、双華さんは簡単に逃がしてはくれまい。
――携帯電話。
躯真さんから頂いたこれで連絡したいが、目の前で戦闘が行われている状況では隙を見せられない。
僕も夕莉を助けたいが、僕の戦闘力といったら双華さんにとっては無いに等しいだろう。
夕莉の足を引っ張るくらいしかできない。
「一人軍隊、その力はこんなのじゃないでしょう?」
「えっ……あのっ」
「ちょっとの事で隙ができると容易く刀で撫でられるわよ」
おそらく手加減をしている、相手の力量をはかり、油断せずに確実な勝利を得るために様子を伺っているのだ。
そういう設定だから、解る。
「少し、出すっ」
夕莉は右手から青白い光を出すや、地面に触れた。
「ふっ、でたらめな」
まさにその通りだ。
地面から骸骨が数体出現し、それぞれ武器を構える。いつでも何処でも、夕莉が望めば出てくる軍隊、
「その……やっちゃって!」
命令。
骸骨達は一斉に双華さんへ向かっていった。
今出したのは七体、双華さんは斧を、剣を、鈍器を、全て寸前でかわしてみせた。
当たったのは前髪くらい?
はらりと前髪の一部が宙を舞う――それが落ちる前に、三体の骸骨は双華さんが腰に差していた刀で切り刻まれた。
「あは、はっ。いい運動になる」
余裕はたっぷり、それもそうだ。一番力が弱い骸骨では歯が立たない、もっと莫大な数で押し込まない限りこの人は赤いマントで牛を挑発する闘牛士のように、かわしては斬るを繰り返すだけ。
まだ骸骨と闘っている、今のうちにと僕は躯真さんへ連絡をした。
「もしもし!」
『何かあったか』
「はい、目の前に山儀双華さんがいます! あとリストも!」
『GPSで場所は把握できる、すぐ向かう』
「お願いします!」
ハイテクな機能を使いこなす魔術師はかっこいい。
躯真さんが来るまであと何分かかるかは解らない、今は夕莉に頑張ってもらって、僕はリストがこのまま瞳の中にいるのを願うだけだ。
「もっと、もっと出てこない? 足りないよ、全然足りない」
双華さんは嬉しそうに言い、楽しそうに舞う。
骸骨達は次々と縦か横かに真っ二つとなり、数秒後には最後の一体となった。
夕莉は新たな骸骨を出そうとするが、躊躇していた。
彼女の迫力に圧し負けたのか、召喚しようとした時に斬りかかられるんじゃないかという不安が体を縛ってるのかもしれない。
「全力を出して欲しい」
「あ、うっ……」
このまま逃げ出したい気分だ。
双華さんは最後の一体を容赦なく真っ二つにし、それぞれの骸を踏みつけて僕らへあまりにも不気味な、恐ろしい笑みを見せた。
一歩でも動けば斬られる――そういった不安が僕達を縛っていた。
それが、よくなかった。
一瞬にして彼女は距離を縮めて、刀を振り下ろす。
刀は僕へ振り下ろされていた。
その一瞬――夕莉は僕を突き飛ばして僕が倒れこむと同時に、彼女は斬られた。
「う、くっ……?」
最後に疑問を抱いたのは夕莉と、僕。
斬られたのに、夕莉は一滴も血を流していなかった。
「持ち替えたの、見えていなかったかな?」
持ち替えた?
何を?
――刀?
「あ、ああっ!」
夕莉は斬られた左腕を見て驚愕、左腕は僕が見たところなんとも無い、がしかし彼女は確かに斬られた――双華さんの魔力が込められた刀によって。
「ひ、左腕、が……」
遮断された、左腕の神経が。
その遮断は強力だ、夕莉にとっては左腕が無くなったように見えるほど……!
双華さんはその動揺と戦力の低下を狙って刀を持ち替えて確実なる勝利を目指す。
ならば、次に双華さんがする行動は、夕莉へ実際に肉体を斬れる刀で攻撃する事っ!
カチンッ、と音がした。
同時に僕は夕莉へと飛び込んで、今度は僕が夕莉を突き飛ばした。
「うぐっ……!」
背中に感じる痛み、しかし深くは無い。
「おや……」
「くはっ、あ、明人!?」
「驚いた、私の攻撃を読んで避けるとは……」
次に何をするか解ってたからね、とはいっても斬られたのは変わりない、とても痛い。
覚悟は必要だった。
その結果、予想以上に肩を掠める程度の軽傷で安心したが、今からほっと安堵のため息をつこうかとはならない。
危機は去っていないのだから。




