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一ノ肆

「最近敵とか出てきたりしたー?」

「いいや何も。平和だよ」

「そっかあ、よかった。大河っちは心配よん、明人ちゃん弱いし」

「……まあ」

 今まで体を鍛えるなんてまったくしなかった、運動も然り。

 どちらかというと僕は貧弱だ。

「わ、私が守るもんっ」

「ありがとう、夕莉は本当に頼りになるよ」

「女に守られる男って」

 大河さん、そんな頼り無さそうな奴を発見した視線を僕に向けないでっ。視線が痛い!

「明人はやるときはやる!」

「そ、そうだよ。今はまだ本気を出していないだけさ」

「いつでも本気出しなよんっ」

 この前は本気を出したよ。

 その結果、骸骨に殴られて壁に叩きつけられたんだけどね。

「そういえば君の中にいる榛名さんは?」

「相変わらずだお。心の中で呼びかけても死ねだの馬鹿だのアホだの言ってくるばっかでいらたん!」

 いらたん?

 榛名さん自体の人格は消えていないのは不安要素として残るな。

「主導権は大河っちがちゃんと握ってるよん、表に出て来れはしないから安心してちょーだい」

 大河さんのその口調が安心を削いでしまうんだよなあ。

「前のが、榛名さんで、今が、大河さん?」

 事情が詳しく飲み込めない夕莉には時間が経ったとはいえふと考えればややこしいものでしかないようだ。

「今が大河っちなのさあ。夕莉っちは可愛いねえ、可愛いねえ、はむはむ」

「み、耳を甘噛みしないでっ」

「こねこね」

「ほ、頬をこねくりまわさにゃいでっ」

 女子が二人いちゃつく光景、眼福ものである。

 このまま学園ラブコメの流れを維持したいですね、はい。

 まだラブな展開は無いけれど……これから、ね?



 校門近くのガードレール、そこに腰を下ろして煙草を吸うスーツが似合う女性は一目見ただけで僕の考えた物語の登場人物だと解った。

 襟をすっぽりと隠すくらいの黒髪。

 鋭い目つきにやや褐色がかった肌の色。

 十分すぎる膨らみのある胸にくびれた腰。

 それが凪島摂理なぎしませつりだ。

「やあ、久しぶりだね」

「あっ、ど、どうもっ!」

 彼女にとっては久しぶり、僕にとっては始めまして。

「夕莉、君は先に帰っていてくれ。私達はそこの喫茶店で話をする、ブラウを頼む」

「……解った」

 最後の言葉が無ければ夕莉は待っていてくれたかもしれない。

「行こう」

 緊張するなあ。

 道路を渡った先には小さな喫茶店、そこに入るのは初めてだが颯太の設定を考えるに利用していてもおかしくはない。

 特に変わらぬ態度、これを維持しなくては。

 喫茶店っていうのはどこもおしゃれなものなのかな。

 茶色を基調とした店内、クラシックと共にコーヒーの香ばしい香りが漂っている。

「煙草、吸っていいかい?」

 店に入る前に煙草を吸い終わったばかりだというのに、着席するや次の煙草に火をつけようとするとはね。

「どうぞ」

 ヘビースモーカー、彼女の設定を考えている時に何気なくそんな設定を書いた記憶がある。

 それが活きているんだな。

 何故にヘビースモーカーなんて設定をつけたのかは、登場人物の設定は読者に少しでも印象に残るように個性を強くしたいからっていう理由だ。深い意味は無い。

 二人分のコーヒーが届き、摂理さんは口に含んで喉へそれを通したあたりで口を開いた。

「先ずはありがとう、夕莉が色々とお世話になったようで」

「いえいえ、僕は特に何かしたってわけじゃあ……」

「君がした事は一つの革命よ。異術師と魔術師が協力し合えるきかっけを作ってくれた。喜ばしい、実に喜ばしいわ。こんな日が来るなんて嬉しい、実に嬉しいわ」

 笑みを見せるも鋭い目つきが変わらないから摂理さんの笑みはちょっと怖いな。

「まさか敵も丸め込んで味方にするとは、君は本当にただの人間か疑ってしまう。実は能力者なんじゃないのかい?」

「ただの人間です」

「そう、残念。聞くに、異術師や魔術師について豊富な知識を持っている、とか」

「そうですね、豊富です」

 豊富すぎて貴方のスリーサイズもお答えできますよ、なんて。

 ちなみに上から89、58、84。

「何故今まで教えてくれなかったんだい?」

「えっと……」

 なんて答えよう。

 あなた方が接していたのは颯太であって、自分は颯太の立ち位置だけを引き継いだ別人で、しかも物語の製作者ですっていうのが正しい答えだ。

 言える? 言えるわけがない。

「き、聞かれなかったから!」

「……そうね、聞かなかったわ。ふふっ、何か深い理由があるのかと思ったが」

 果てしないくらいに深い理由は胸の中に秘めてます。

「どこでその知識を?」

「それは……色々と」

「色々、ね」

 僕の脳みそとノート、知識はそこからだ。

 説明できないものが多くて困ってしまう。

「人は聞かれたくない質問に対してはよく“色々と”を用いる。この場合、聞かないほうが君はほっとしてコーヒーを口にしてくれるのだろうか」

「そうですね。そうなればコーヒー、頂くと思います」

 魅力的な香りが鼻腔をくすぐっている。

「頂いてくれても構わない」

「頂きます」

 うん、ほろ苦い僕好みのコーヒーだ。

 彼女は質問を止めたようで、煙草の火を消すもすぐに次の煙草。

「不思議な子だね君は」

 その瞳はやや訝しさを醸し出していた。

「そうですか?」

「異術師側と魔術師側から君の話を聞いたが、まるで全てを知っているかのようで普通の人間だとは思えなかったのだよ」

「僕は本当に普通の人間ですよ」

「そのようだ」

 納得はしていないと言いたげな目線。

 僕は目を合わせていられずテーブルへ視線を落とした。

「本題に入ろう」

 煙草の火を消す摂理さんの次なる言葉を僕はじっと待つとした。

「この街には魔術師協会の本部が設置されている、その支部へ私と共に来て欲しい」

「支部に、ですか?」

 確信した。

 物語は進行している、作者である僕を置いてけぼりにして、だ。

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