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三ノ肆

 その顔は不機嫌そうで眉間にはしわが刻まれており、僕を睨んでいた。

 何故に不機嫌? 変な誤解をしてるのかな、ああ、誤解をしてるなこれは、完全に。

「学校ずる休みして、何してるの?」

「夕莉、ど、どうしてここに……?」

 メールまで送ったのに、彼女がここにいるのが不思議でならない。

「お前、天元夕莉か!」

 ブラウは警戒態勢に入るが、まったく気にせずに夕莉は僕の前へと歩み寄る。

「遅刻してきた榛名さんが明人を街で見たって。誰かに連れられてたって言うから、何かあったのかと思って学校早退して探したのに……私に嘘ついて、学校を休んでまでデートなの?」

 榛名さんが遅刻か、前の榛名さんなら一週間に一回は遅刻が当然だったけど今の榛名さんなら遅刻はしない印象だったのでちょっと意外。

 しかし何故夕莉に言ってしまったのか。夕莉が心配でもしてた? 何らかの事情がある的なのを察して黙っていてて欲しかったな、おかげで僕は非常に面倒な状況を迎えてるよ榛名さん。

「これにはですね、事情がありまして……」

「どんな、事情?」

 とてつもなくどす黒いオーラが纏っている、ように見える。

「おい、無視するなよこの野郎!」

 ブラウはカブトムシを呼び出して夕莉の鼻へ。

 カブトムシは鼻の頭をかぷりと噛み付き、

「痛い痛い痛いっ!」

 慌てて僕はカブトムシを取ってやった。

 まずいなあ、ブラウと夕莉が接触するのは本当にまずい。

「……ふぬぬっ」

 夕莉は右手に青白い光を宿し、地面へ光を落とすとその光から骸骨の手だけが出てきてブラウのすねを思いっきり殴りつけていた。

「ふぎゃあ! やったなこの野郎!」

「貴方こそ!」

 両者にらみ合い。

 火花を散らす二人の視線の間に僕は入り込んで仲裁へ。

「待って待って! 落ち着いて!」

「明人は黙ってて!」

 はい、すみません。

「いい機会だ! 天元夕莉! お前を変異世界に連れていくとしよう!」

 悪役としての威厳を復活させるも言下にブラウは僕を見て、両手両足をもじもじさせて威厳を雲散させてしまってから言う。

「あ、明人、とやら、お前は、じゃ、邪魔するなよ?」

 いやあ、邪魔しないといかんのですよ。

 ていうか態度の変わりようがなんだか忙しいね君って。

 わき道や電柱の裏、壁の亀裂や側溝から虫が現れ始めた、ブラウはやるつもりだ。

 夕莉も両手に青白い炎を宿し、地面へ落とす。

 けれど、ここは街と住宅街の境目。

 すぐ僕達の後方には大通りが見えており、夕莉の後方には住宅街が見えている。

 近くにはファミリーレストランがあり、人目という人目につきやすい場所だ。

 そんな場所で戦闘を? 駄目だよ、絶対に駄目。

 ふと、妙な視線を感じた。

 住宅街の均等な距離で立てられている電柱、僕の近くから三本目の電柱に人影。

 こちらを見ていて、耳に何か当てているが携帯電話かな、身長は高くしわの無い黒のスーツを着ているが社会人ならば朝から電柱の影に隠れてこちらを見て連絡するなんていう行為はしない。

 ならば、魔術師か?

 連絡されてる? 誰に? 魔術師協会に?

 ……大ごとになりそうだ。

 僕の心配をよそに、そして途端に、

「下手に動くなよ! こっちには人質がいるんだぞ!」

 腕を掴まれて、引っ張られて、ブラウの隣に。

「卑怯っ!」

「なんとでも言……うぐう……」

 すると、ブラウは体を屈めて表情を歪ませた。

「大丈夫かい!?」

 僕は倒れそうになるブラウを支えると、夕莉は面白く無さそうに頬を膨らませていた。

 あの、君もどうか今は敵なんていう意識をせずに助けてくれないかい?

 腹部を押さえている、どうしよう……救急車を呼ぶ? さっきの人影が魔術師であればこれを機会にブラウを倒しに掛かるかもしれない、それは……なんか嫌だ。

 夕莉の治療してくれる骸骨ならすぐに処置できる、一番いい方法はこれだが夕莉は治療してくれるかな。それと、魔術師達は治療する僕らを見てどう思うかな。

「夕莉、あの骸骨を使って診てくれないか?」

「……でも、敵なんだよ?」

 僕の支えも及ばず、すでに地面へ倒れこんでいるブラウ。

 額からは汗がにじみ出ていた。

「うん、敵だ。敵だけど……」

 ここでは目に付く、すぐ傍の駐車場、そこまで連れて行こう。

 車両はいくつかあったが奥は無かったのでそこへ運び込み、塀に凭れさせた。

「なんか、光ってる」

「な、なんだこれ……」

 夕莉が指差したブラウの腹部は薄っすらと赤く、円のような形で光っていた。

 手の平くらいの大きさか、恐る恐る服をめくってみる。

 勝手にめくって何か反応されやしないだろうかと不安にブラウの様子を伺うも彼女は痛みでそれどころではないようだ。

 うーん、可愛いお腹。

 って考えている場合じゃなくて。

「明人」

「あ、はい、いや、なんでもないんです、決してやましい事なんて」

 顔に出てたかな?

 それより、だ。

 腹部を見てみると、あからさまに危険ですといわんばかりの模様が腹部には浮かんでいた。

「これは……何?」

 僕は、考える。

 何故彼女の腹部に模様が浮かんでいるのか。

 何故今痛みを訴えているのか。

 ……物語を作る側として、彼女にそうさせる理由は?

 先ず真正面から答えを探しても登場人物には分からないようにはするだろう。

 それらしいヒントは周囲にあるはずだ、登場人物に伝えるのではなく読者に伝えるためにもそうする必要がある。

 ブラウにこうする事で、何らかの物語の変化を与えているとしたら、少なくともこれはただ事ではない。

 物語の展開に関わる事だ、このまま放っておく? それともなんとかする?

 くそっ、こういう時に原稿があればいいんだけどなあ……。

 どこかに落ちてないかな、探している暇も無いから今は考えよう。

 ――考える余裕も無いかも。

 模様の光が先ほどよりも強くなっていた。

「夕莉、頼む……ブラウを助けてくれ」

「……治したら襲ってくるかも」

「僕が説得する」

「明人、人質に取られるかも」

「人質に取られないように、気をつけるから」

「虫に襲われるかも」

「殺虫剤、買ってこよう」

「……分かった、やる」

 何を言っても折れないのを悟ったのか、僕の説得を諦めた夕莉は骸骨を呼び出した。

 腹部に青白い光を骸骨は宿らせて処置を始める。

 どこかで……見た事がある模様だった。

 赤い円、棘のようなものがそれを取り囲むかのような、模様。

「君」

 すると、先ほどの人影と思われる人物が僕らに近づいてきた。

 その男性を見て、やはり――と僕は心の中で呟く。

 ――やはり、魔術師なのだろう。

 言葉を付け足す。

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