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二ノ伍



 ……どうなった?

 耳鳴りがして、周囲の音が聞こえづらかった。

 耳鳴りが止んでも、少しの間は耳栓をされてるかのようで聞こえづらかった。

 上体を起こしてあたりを見ると、骸骨の残骸が散らばっており、夕莉の周囲には特にそれらが多い。

 骸骨達が彼女をかばったと思われる。

 僕の周囲にはそれほどなく、僕も彼女同等に守ってくれてもいいんじゃないかなとちょっと不満。

 おかげで僕は夕莉よりも数メートルは吹き飛ばされて背中を打って痛かった。

 それ以外の怪我は頬を擦ったくらいで、意外と軽傷。

 残骸も、無事に立っている骸骨達も沈むように消えていった。

 それは敵を完全に無力に出来たという証。

「いたた……」

 背中を押さえながら僕は夕莉の元へ。

 廊下を歩いている感覚はもう無い、旧校舎は見事に吹っ飛んでしまって、足元は更地のようになっていた。

 寂しく立っている柱は数本あるものの、今にも折れそうだ。

 夕莉の能力、ちょいといわゆるチートな能力にしすぎたな……。

 これもまた、榛名さんがつまらないと感想を言った理由だったのかもしれない、ヒロイン強すぎと彼女は言っていたし。

 やはり弱い側として、敵と交戦していくたびに強くなるみたいな、成長を見せたほうがいいのかな。

 最初から強いんじゃあ敵が出てきたところでみんな噛ませ犬でしかないよなあ。

 そんな物語の戦闘に何の意味がある?

 ……無いね、そのチートな能力を持った人物を自慢するための披露宴だ。

 次に書く物語ではやりすぎた能力は禁止でいこう。

 そんな事を考えながら僕は土埃が舞う中を手で扇ぎながら足を進めると夕莉の姿を捉えた。

「夕莉?」

 彼女は、薄っすらと笑みを浮かべていた。

 ……笑みを、だ。

「夕莉!」

「……明人?」

 彼女を現実へ引き戻す。

 彼女の中には、とある衝動が潜んでいる。

 それは異術師ならではの衝動で、呼び起こしてはならないものだ。

 我に返った夕莉は今まで何をしていたのかと周囲を見回して、把握して、青ざめる。

「……あれはなるべく使わないでね」

 夕莉は必死に首を縦に振った。

 彼女自身、こうなるとは想像すらしていなかったようだ。

 改めて周囲を見回して、見渡しやすくなったここら一帯に僕はため息を漏らした。

 そうだ、微影さんはどうなった?

 彼女のいた場所を見てみるも、更地のみ。

 ……待てよ。

 その奥に、瓦礫の山が出来ている。

 吹き飛ばされた瓦礫は旧校舎の角の柱に引っかかったのかな、今にも折れそうだが一応柱としての原型は保っていた。

 その瓦礫の中に、足が一本。

「……あれって」

「……わ、私……あの人を……」

「いやいやまだ分からないよ! 生きてるかも!」

 僕達は慌てて瓦礫の山へと駆け寄った。

 長い木材の板が積み重なっていて、一つずつなるべく衝撃を与えないよう慎重に取っていく。

 足はぼろぼろ、黒タイツは悲惨なくらいに破れていた。

 ちょっと魅力的な破れ方でもあるが、それはいいとして。

「微影さん! 大丈夫!?」

 足が微かに動いた。

「生きてる!」

 すぐさま夕莉へ報告。

 掻き出していくと、彼女の顔が出てきたので肩の部分を予測してまた掻き出した。

「……この、化け物、が」

 意識はある。

 口を切ったようで血に塗れていたが構わずに口を開き続けていた。

「あたしのために、死ね、死ななきゃ、殺す、絶対、殺す」

「ご、ごめんなさい……」

 夕莉は彼女を瓦礫から引き上げようと手を伸ばすも、微影さんはその手を払いのけた。

「触、るな」

「あの、私の力で治療を……」

「……いら、ない」

 しかしそう強がっていられるほどの傷ではない。

 全身切り傷で特にこめかみあたりの切り傷によって激しい出血、右腕は変な方向に曲がっていて完全に折れているのが分かる。

 激痛が全身を駆け巡っているはずだ。

「あたしの、負けだ。好きにしろ」

「好きに? どうしろっていうのさ。貴様には死んでもらうとか言うと思ったの?」

「……何?」

「命を奪うとか、そんなやり取りなんか絶対にしない。夕莉の治療を受けなよ、彼女が君にしたい事はそれなんだ」

「それは、嫌だ。死んでも」

 君という性格はこうも頑固なものにしたかな? したかもしれない、書き直す機会が与えられるのならばきっと僕はこの子をもう少し素直な性格にするかも。

 微影さんは深々とため息をついた。

 覚悟をしてきたのに、空回りしたと言わんばかりのため息。

 彼女の心情は簡単に分かってしまう。

 今考えているのはきっとこうだ。

 ――こいつら何なんだ、敵と思って襲ったのに敵らしい感じが一切無い。それどころか治療を受けろ? 異術師は皆凶悪な奴等ばかりと聞いたのに、あたしの母さんだって、酷い殺され方をしたのに……。

 といったところだ。

 面倒になって、それについて考えるのはやめて、次は話を変えてくる。

「……あたしの読んでた、本……は?」

 ほらね。

 ようやくして、上体を起こすも痛みに表情を歪めていた。

 立ち上がろうとはしなかった――出来ないのだろう、足も重傷と思われる。

「分からない、飛ばされちゃったかな」

「くそ……お前のせいだ、弁償しろ」

「見つけたら、すぐ、私の力で、直すからっ」

「買って、弁償しろ、お前の能力は、お断りだ!」

 微影さんは口内に溜まった血を吐き出して、夕莉を睨みつける。

 夕莉は、その視線に怖気づいて僕の後ろへと隠れるように身を寄せた。

「……異術師のくせに、何なんだ」

 自分の知っている異術師と、目の前にいる異術師との違いに彼女は困惑しているようだった

「……あの、それより、やっぱり、私、傷、治す」

 夕莉は諦めずに、彼女の傷を治そうとしていた。

 本当に、優しい人だよ君は。

 君を殺そうとした人の傷を治そうとするなんてさ。

 まあ、僕がそういう性格にしたのだけどね。

「寄るな」

 言葉と鋭い眼光で夕莉を遠のけた。

「治療魔術を持つ奴は、いる。すぐに来るよ、仲間を連れて、ね。いいの? ここに、いて」

 この場を離れなければまた面倒な事になりそうだ。

「本当に、すぐ来るんだね?」

「来る」

「夕莉、行こう」

「あ、でも……」

 彼女の手を引いてこの場を離れようとするが、夕莉は数歩重ねては足を止めた。

「その、ごめんなさい……」

 振り返って、微影さんに深々と頭を下げて謝罪。

 彼女らしい行動だ。

 微影さんは特に何も言わず、しかし最後の魔力を振り絞ったのか、小さな影を出して拳の形を作って夕莉の頭を叩いた。

「あうっ」

 何度も叩いてくるので、夕莉は逃げるようにしてその場を離れ、僕は少々心配ながらも最後に彼女をちらりと見て、奥の茂みから数人の人影が目に入ったので慌てて夕莉を追った。



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