雪色の魔女7
あの日のあの光景がありありと思いだされ、なんだか遠い所まで来たようだ。
「小夜子。」
この女の名前を何度叫んでいたかしれない。
満天の雪と、ぐっと来る思い出の間で、私は過ぎ去りし日々、喧騒を幻想的なものにかたずけていた。
そして再び目を凝らしみると、昔のままの小夜子がいて、手を上げれば届く距離までいた。
「小夜子、小夜子、小夜子。」
私は再三再四、君の名を呼び、それに項をして君は舞い降りてくる。
それがどんなに美しいものなのか言葉では言い表せない。
だからこのまま君を見つめるだけ、私が若い頃とかわらぬままの君をを見つめるだけ。すると、あれほどまでも降り続いていた雪もやみ、代わりに靄が立ってきた。
あれほど見えていた小夜子の姿も覆い隠して。「雪ふらる雪ふられ
緑も青も白くして、私もふらる。雪ふらる。
あなたの街を白くして。」
辺りから、こんな歌声が聞こえ、気がつくと君が目の前にいた。「小夜子。」
それはまぎれもなく小夜子だった。
そして私達には遠く隔たりがあった。
今ここで一緒になれるのだろうか。
よくよく考えても、さして話を交わした事のない私達でしたが、しらぬ間に通いあっているものがあったのだ。
「ありがとう来てくれて、待っていたんだよ君の事を。」
「いいえ、私だって会いたかった。
でもあなたの親父さんや仲間の人達を殺してしまった。
今日はあの日の罪ほろぼし、けじめの為にきたの。
だから今から私を殺して、また嫌な人格が現れる前に。」 私はなんだか小夜子の事が哀れになってきて、その全身を包みこんだ。
そのあられのない体からほとばしるものは、冷たく心を閉ざした君だった。
「あの日の事は、忘れた。
これから僕達は、始まるんだ。」
「ありがとう。」
その後、長い沈黙の後、長い間、別れ別れなった時を埋めるように話をしたんだ。
しかし気がつくと朝になり誰もいない、あるのは君の死に装束とフルートと君の溶けた後だけ、私は心の中中で泣き、若き日々との決別をした。つづく