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雪色の魔女20クライマックス

油断していたとすれ、当初の目的通り大蛇の中へと潜り込む事ができた。しかし愛と云う名の少女を助ける事が出来なかった。

人間とは、あれほどまでに残忍になれるのだろうか、遺憾の極みとはこの為につくり出された言葉ではないかと思い悩んだ。


「何だ此処は、」


どす黒いぐにゃぐにゃとした、圧迫感が感じられる大蛇の臓物の中、裕二は足をとられ中々前に進む事が出来ずにいた。

そしてふと、足元を見れば、夥しい人の死体が散乱し異臭が立ち込めていた。

「愛さん、愛さんは、」


思い出したかのように、ついさっき自分と一緒に飲み込まれた愛さんと云う名の少女を目をこらして探した。



「ぎゃーー。

な、何て事だーー。

と、溶けてるよ。

な、無くなって行く。

嫌ーーーー。」



裕二はあの少女が吸収され無くなってゆくのを目の当たりにした。それは数時間後の自分自身の姿だと言えるからてもある。

この死をも凌駕する人知の知らぬ地で裕二はこれから何をしようかと対策に困窮する。

前みたいにアドバイスがあればよいのだが、まだなしのつぶてである。



裕二は発狂したかのように壁を叩いた。



「何をしているの貴方、小夜子助けたいんじゃないの。

自分勝手な事をするとよけい小夜子が心開かないじゃない、判る今貴方がしてる事、小夜子を叩いてるのも同然なのよ。」


辺りから反響する声に、ふっと我に帰り、気を落ち着かせた。



「そうか、でもそんな事を言ったとしても、この状況を見て何とも思わない方が可笑しい。

だってそうだろ、年端のいかない少女がいけにえにあって飲み込まれる世界、これが当たり前なのか!。

小夜子だってそうだ。

まだ花も恥じらう年頃、何がよくて雪女させるんだ。

俺には判らないよ。

大人達のエゴを全てしょいこます貴女達の社会わ。」


「分かったような事を言うな!

空も地もはたまた、この地球全てのものを歪み、淀ましたのは誰!。

あんた達、人間じゃないその結果、私達が生まれてきた。

あんた達が、のうのうと暮らして来たつけを全てしょい込んできたの。

判って貰えるとは思って無い。

でも私だって意思の通じあう人間よ。

あんた達、薄汚い人間のエゴを全て洗い流さなくちゃいけないの。」


大きな声で喚き散らしていた。

悲しい宿命に弄ばれた人達、裕二は深い罪悪感に囚われた。

人間のよりしろとして生まれた雪女、今どうこうする事も出来ない。

出来ると云えば小夜子を救う一点のみだった。

裕二は他の人間達、一人一人の罪をしょい込むのでは無く、一人の女の子を救う事だけを決心した。

それはもとより決めた決行事項のように思っていたが、足が覚束ず躊躇わしてきたのだ。


「叔母さん行こう、小夜子の元へ。」


「もう帰れないかもよ。それでも!」


「構わない。同情心とかその他の変な感情じゃない小夜子に会いたいんだ。

会って一言言うんだ。

好きだって愛しているって。」


「裕二さん・・・。」


この一時の間に何かものかさらない希望の光が生まれ落ちたかに思われた。

しかしそれは裕二の死といった最悪のシナリオと直結していた。

それでも裕二は躊躇わず小夜子一人の女の子の為に命を投げだす決心をしたのだ。


「叔母さんどうすれば。」


「あなたの着ている死に装束を脱ぎなさい。

そしてフルートに包んで祈りなさい。

後の事は知らないけど、大丈夫やれるわ。」


裕二は、この辺り一面に響きたつ声の言う通り、死に装束を脱ぎ、フルートに巻いて心を込めて祈った。


すると激痛を伴う痛みが裕二の体の中を走っていった。

そしてみるみるうちに体は朽ち果てていった。


でも今の裕二には、この痛みの全てのものは、小夜子の苦悩だと思え、何等痛いと表情にださなかった。


「伝え小夜子の為に私は君と共にいきる‐。」


裕二の体は一点のかけら残さず無くなってしまった。

つづく

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