雪色の魔女19
愛と云う少女を救うべく裕二はいけにえの儀式へと割って入りに行った。
そこでは参列する街の者、そして親族達がしめやかに並び、静かに神主の祝詞を聞いていた。
多分、ここに立ち入るのは至難の技だろうと思えた。
裕二は弔問客を装い、この中に混じっていった。
「愛ー、定めとはいえ。あんたを失うのは口惜しい。」
「わしもじゃ。
代われるものなら代わりたい。
じゃが、この老いぼれには何もできんのじゃ。」
そう皆、悲痛な面持ちで愛という少女の事を悼んでいた。
裕二は前に前に足を進め大蛇の神と云う大きな彫像の前へといった。いろいろな奉納品、全ては愛と云う少女を忍ぶ遺品、その中心の拝殿部分にとうばが立てられ、戒名もそこにはしっかりと書かれていた。
裕二は拝殿に手をあて祈るを捧げた。今が決行の時だ。
裕二は、このしめやかな空気の中でこの時代錯誤的儀式をぶち壊すべく狼煙をあげようとした。
丁度その時だった。
「あれを見ろ大蛇だ。」
誰とも言えず大きな悲鳴をあげ、パニック状態になるかに思われた。
しかしその事を承知してか、申し合わたように誰一人としていなくなってしまった。
「ハハハ、ハハハ。」
裕二の目には街の者達の薄情さが目に見えて分かった。
そして自分自身もこんな手がこんだ事をしないでさっさと決行すればよかったと反省した。
しかし大蛇がそこまで来ていた。裕二は取りも直さずすぐさま少女を縛っている荒縄をほどいた。
「これで生きていける。逃げなさい。」
でも少女は困惑した面持ちで、そこから逃げようとしない。
見ると足のけんが切られ逃げられない。
「あの野郎ー。」
裕二はここの街の人々に深い憤りを覚えてしまった。
「お兄ちゃん大蛇よ。
私を置いて逃げてー。」
その言葉は裕二には通らず、愛と称する少女もろとも大蛇に飲み込まれてしまった。その後の記憶はまるで無い気がつけば、どす黒い大蛇の臓物の中だった。
つづく