らせつの雪
蠢く虫達のように、あんなにも容易く終われば、どんなに楽だかしれない。
だが、わたしは人間だ。
世間的付き合いも、それに伴う煩わしさも、ずっと引きずっていかなければならない。
小夜子は、言った。
「人並みの生活と旦那様に恵まれら後は何とも要らない。」
「どうしようも無い甘ちゃんと付き合わされた日にゃあよ。
・ ・ ・愚痴か。
つまらない娘とつるんでいたから、脳髄まで甘くなってしまった。」
この時、アリサの脳裏にはありありとあの日の記憶が刻み込まれていた。
それは忌まわしいものだと承知し、らせつのように立ち向かって行ったあの日の事をそこはかとなくなく懐かしんだ。
「お母さま。」
「アリサや今日は、ピアノのレッスン。」
「はいママ。」
「アリサや今日は書道の先生の所にいくのよ。」
「はいママ。」
わたしは連日のように母に塾に行くように強要されていた。
何時も誰かの顔ばかり伺い作り笑いとか、お世辞を平気にしていた。
だから友達とかいなかった。
だって、疲れるだけな存在だから。
だが、そんな生活が一変したのは私がそう、雪女の引き継ぎの儀式が近々あるって母から聞いたときだ。
「アリサ、私達の村にはね。酷い習わしがあってね。
あんたぐらいの年齢になると、雪女にならなければいけないの。
出なければ家族ろうとう水にされてしまうの。変われたいけど変われない母の気持ちを分かっておくれ。」
「はいママ。」
この時わたしは、素直で母の言う事をすんなりときいていた。
あの非道と屈辱のなものを目の当たりにしなければ。
雪女になってから半年の間は、食うや食わずで何時もひもじさを耐えかねていた。
目の前には、数多くの餌がわんさと居ることにも関わらず、手を拱いていた。
良心の呵責か踏ん切りが着かなかっただけなのかもしれない。でも、あの日からわたしは変わった。
「ねえ、アリサちゃん今日は食べに行こうかね。」
ママが私と雪女の引き継ぎの儀式の時、精神交換した誰だかしれない赤の他人と事もあろうに食事に行こうとしていた。
あいつの正体もしらず、ただ言う事をきけばいいのか。
私の中で何かが、はじきれる音がした。そしたら何の躊躇いも迷いも消え、冷酷無比な雪女となれたのだ。
「母さん、私。
可愛い、今の私。
食事しに行くの。
私もなの。
お腹ぺこぺこ、分かるでしょう母さんも今私がいった意味。」
「知る訳無いじゃない。 アリサは、私とここに居るの。
昨日も今日も明後日も。」
半分、青ざめた顔で母は何を言っているのか耳を疑った。
「なら躊躇無く、あなたの生気吸えるわ。
だってあんた餌だもん。」
半狂乱なり、手足をバタバタしている母を尻目に、今冷静沈着な顔で母と元わたしに包容をし首筋から絞れる程の生気を吸い取ってやった。
だって餌をたべるのは生きていくうえで大切な事だから。
この後、わたしは男を知った。
そして、その味を知ったのだ。
小夜子には分かるまい。私の気持ちが親殺しがどんなに苦しいてならない事を今も思いだす度に感じるんだ。
蛇が頭の中を蠢き食らっているように、何時も。