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<均衡の戦士>の伝説

「……で、結局ダメだったんですね。エースさんは」

 杖を弄びながらマリナは言った。

「まあな」

 俺は言った。

 前日のジンとのやり取りをマリナに伝えたばかりだった。

 別のナーヴァスを探さねばならない。

 中々厄介だった。

 この広いフォーランドの世界において、希少な才能を持つ人間を見つけなければならないわけである。

 悩みは増すばかりである。

 マリナは視線を下げ、杖の先を地面に置きながら、左右の手で行ったり来たりさせている。

 自身の中で起こっている苛立ちを、物にぶつけている行為に見えなくもない。

 ジンが参加できないことではない。

 その原因はなんとなく俺には分っていた。

「それで彼女がその代わりいうことですか……?」

 マリナはチラッと見る。

 マリナの視線の先には、老人と話をしている戦士風の女性がいた。

「何か問題でも……?」

「別にありません」

 マリナは終始不機嫌だった。

 相談もなく、俺の判断で誘ったことが面白くないらしい。

 そこは俺の落ち度だった。

 マリナに一言断るべきだった。

 女性の扱いはつくづく難しい。

「皆さーん、おじいちゃんのお話が始まりますよ。色々教えてるみたいです、一緒に聞きましょ」

 女性戦士は、右手を口の前に立てながら大きな声で呼んだ。

 ユウカだった。

 手を振りながら、笑顔で俺達を誘っている。

 対照的にマリナは無表情で、しぶしぶ歩を進める。

 この先思いやられる予感がした。

 つくづく悩みは尽きないようだ。


「かつて神と人の世界の境界が曖昧だった頃の話じゃ……」

 両手に杖を持ち、椅子に腰を降ろしている老人は、静かに語り始めた。

 この老人型NPCは、リゼン村の元村長で、現在は引退し隠居の身らしい。

 世界の伝承や伝説に詳しいが、何かと気難しくて人嫌いの毛があり、コミュニケーションが難しい……という設定である。

 リゼン村の一番奥にある家が老人の住まいだった。

 木造の粗末な家屋、小さな庭があり、犬を飼っている。

 俺達は庭先で、元村長の話を聞くことになった。

 ユウカはニコニコしながら老人の話に夢中になっている。

 女性用の聖皇の鎧を全身に纏っているのはそのままだが、装備も若干変更されていた。

 腰には剣を二本下げ、額飾りやイヤリング、バングルなど装飾品などが前回とは違っている。

「――マイゼン村の西に水晶の山が存在する……文字通り、山そのものが水晶でできた美しい山でな、かつて神々が住み着いておった場所じゃった」

 老人は伝説語りに花を咲かせていた。

 ユウカは眼を輝かせ、両手を前に添えながら、

 老人の話に完全に引き込まれている。

「水晶の山は、人が住む世界に神がひと時の間、滞在するための聖地じゃった。法と混沌の神々すら簡単には立ち入れぬ場所のひとつよ」

 俺も老人の話に静かに聞き耳を立てている。

 俺達はここ数日、レベルを上げながら、水晶の竜に関する情報を集めていた。

 まずはリゼン村へ行き、現在そこを拠点としていた。

 用意と機が熟し次第、この後マイセン村に向う予定である。

 マイゼン村の近くには渓谷や森が近くにあり、そこを越えた先に水晶の竜がすむ山があるらしい。

 マイゼン村とリゼン村はいわば中継ポイントといってよい。

 リゼン村はあくまで通過点、通り道なのでイベントらしいイベントはない。

 リゼン村周辺のエネミーはプレイヤーの進行を食い止めるようなボスキャラはいないが、一方で大型種が多く、手ごわい敵が多かった。

 魔法耐久力の強い敵ばかりで、打撃戦が物を言う。

 攻撃魔法の効果が薄い以上、魔法オンリーの職業は後方支援に回りがちになる。 

 バトルフィールドの属性変化は比較的安定して予測不可能なことはあまり起こらないが、パーティープレイが重要になってくるようだ。

 いわば、山を攻略するための前哨戦であり、二つの村を行き来しながら、装備や仲間、そして情報を集めなければならないようだ。

 リゼン村は田舎の村ではサルバキア帝国の侵攻に住民達は不安を募らせている様子が話の端々から伺えた。

 事実、水晶の山を越えると、完全にサルバキア帝国の勢力下に入る。

「絶えず湧き出るマナに溢れた美しく清浄なる地は、調和神の系譜に連なる神々達に導かれるが如く、その恩恵にあずかろうと地水火風の四大元素を司る精霊の王達が行き交い、祝福する光に満ちた神々が住むにふさわしい場所じゃったそうな」

 話の途中、老人は突然咳き込んだ。

 ユウカは背中をさする。

「すまんのう」

「いいえ。おじいちゃんこそ大丈夫ですか……?」

 AI相手でもユウカの対応は優しかった。

 ユウカの性格の良さが滲み出ている。

「……大丈夫じゃ。美人が相手だと口が軽くなり、話も弾むわい」

 そう言いながら、老人はユウカの手を握る。

「ありがとうございます。おじいちゃんもとっても素敵ですよ」

 ユウカは嫌な顔をせずに、微笑む。

 ユウカの笑顔に老人の顔もほころんでいる。

「さあ、もっとお話聞かせてください」

 老人へ眼をキラキラさせながらユウカが尋ねる。

「……鼻の下伸ばしちゃって。何ですか、あれ?」

 マリナは不満を顕にしながら、小さな声で俺に言った。

「本当にNPCなんですか……? わたしが質問した時はあんな話しませんでしたよ。全然態度も違うし……」

「そうなのか……?」

 俺は聞き返す。

「……ええ。超そっけなかったですよ。運営側ゲームマスターが演じてるNPCとかじゃないですよね……?」

「いや、おそらくはAI型のNPCなんだろうが……」

 俺も確証がもてない。

「あの老人に限らず、どのNPCも前作より人間的になってる感じですけど……でも、人によって会話の内容を変えるなんて、AIのくせに可愛くない……まるで人間の男そのものじゃないですか……?」

「まったくだな」

 俺は苦笑した。

 リゼン村にはAI型NPCの住人ばかりだ。

 プレイヤーは思っていたより少なく、様々は噂で溢れかえっている。

 さまに玉石混淆で、今後のプレイヤーの行動の指針となるような情報から、あいまいなで意味不明な内容も数少なくない。

 だが、浮遊城に関しての情報は殆ど出てこない。

「確かにコミュニケーション機能が前作より発達しているようだな。もしかしたら、こちらの質問の仕方や態度によって、提供する情報に差異が生まれるのかもしれない」

 俺の言葉にマリナの顔には疑問を示す表情が浮かんでいた。

「情報提供用のNPCたちからから上手く話を聞きだすことが、今回のゲームにおいて攻略の重要な要素となっているかもしれないってことさ」

「えっ……?」

「一種のゲームバランスの調整だろうな。前作のデータをそのまま引き続き、参加しているプレイヤーも多い。当然、新規のプレイヤーとハンデが生まれてしまう。だが、攻略情報に差が生まれれば、新規参入者でもチャンスが生まれてくる」

「そこまで考慮されているんですか……? でも、ユウカさんだって前作からプレイしている人でしょ……? わたしと何が違うっていうんですか……?」

「男は美人に弱いからな」

 俺の言葉にマリナは口を尖らせる。

「……不愉快なことサラッといいますね」

「僻むなよ。例えばの話だ。それに彼女はまかりなりにも芸能人だ。人気女優に言い寄られたら、悪い気にはならないだろう……? それに彼女の天真爛漫さは、ピュアでイノセントな印象を与える……男には魅力的に映るだろうな」

「……どうして男ってこうなんだろう? 

 マリナは頭を抱える。

「わたしだってその辺のスキルは持ち合わせていますけど……?」

「彼女は良くも悪くも何の作為なくそういう風なことが自然にできるのさ。女性の君ならよく理解できるだろう……?」

「……ようは天然ってことじゃないですか。なんかタチ悪そう……」

 マリナは警戒心を顕にした。

 女性にとっては極めて危険なタイプの女性といえる。

 男もそうだ。

「君だって相手によって態度を変えるだろ……? そういう部分を読まれているのかも、な」

「そこまでNPCって頭がいいものなんですか……?」

 マリナは強い口調で反論した。

「さあな」

 AI達の性能に関しては、前作で十分に理解していた。

 特に倫理観や善悪を判断する能力は人間をはるかに超えている。

 AIの発達……いや進化には眼を見張るものがある。

 俺は聖人エウロペを思い出していた。

 最近は姿を見せないが、何をしているのだろうか。

 そして、AIたちを見つけられるのだろうか。

 それがナーヴァスを守ることに繋がる。

 自らに向けられた敵意と悪意――はやく手を打たなければ、手遅れになるような気がした。

「まあ一種のゲームバランスの調整というのが妥当だろう。頭のいい、特に仕事のできる娘にヒントはいらないだろう……?」

「……上手いこと言ってもダメですからね。全然フォローになってませんから」

 マリナはそっぽを向いた。

 俺は苦笑した。

 聞き分けの良い娘のはずだが、今日はどうも扱いづらい。

「……根に持つなよ。ゲームが攻略しやすくなれば君も楽になるんだ」

 俺に言葉を無視するように、マリナは老人の方に視線を向ける。

「下界と神の国とを繋ぐ聖地であるあの山には、本来は下界のものが濫りに立ちいることは許されぬ、神の治める領域よ」

 老人の話はまだ終わる様子はない。

 老人の長話まで再現しているとは、驚きだ。

「そこに入ることを許された傑出した力と才能に溢れた人間達が集っておった。力もさることながら、平和を重んじ、高潔なる魂を持つ、偉大なる魔法使いや戦士など、そして、神に身を捧げた巫女たる戦乙女達など人でありながら、神に等しい、神々に認められた者たる存在、<均衡の戦士イクイリブリアム・ウォーリア>だけが出入りを許され、行き来しておった」

「イクイリブリアム・ウォーリア……?」

 俺は思わず老人の言葉を口にしていた。

 新たなるゲーム内の単語に俺は食いつく。

 マリナのほうを見ると、彼女も聞いた事がないというように首を振る。

「<均衡の戦士>、あるいは<調和の守護者>と呼ばれるものたちのことよ。調和神の代行者として、世界の安定と均衡をもたらすために、宇宙の理を学び、神自身から手ほどきを受け、今では失われた魔法や武術を身につけると共に、調和神から授かった神々の力が宿った武具や道具を用いて、たびたび訪れる悪鬼や魔神などの異界からの脅威や災厄から、神に成り変わってこの世に平穏と安定をもたらすための役目を担っておった――」

 老人の話に、俺は<両性具有真の聖剣>のことをすぐ様連想した。

 両性具有真の聖剣――前作のゲームクリアに関係する重要必須アイテムにして、最強の武器である。

 超レアアイテムを組み合わせることにより、製造できる。

 素材アイテムをめぐり、他のゲーム攻略チームと死闘を繰り広げた。

 ウロボロスリングにより得られるシークレットスキルやシークレットマジックのことを差すのだろうか?

 <魔人皇の剣>もこれに連なる武具なのだろうか……?

「数百年に一度起こる『宇宙の蝕』がその時も起こり、調和神は眠りに着いた。法と混沌、それぞれの陣営に属する神々の力の均衡が乱れ、宇宙の均衡を司る、時代の天秤が激しく傾しぎ、揺らいだ。混沌の神々は、自らの尖兵となる者達を招聘し、また、法と秩序の神々も戦士達を召喚した。法と混沌の世界を巻き込む大きな戦は共に激しく消耗し、結果的に神代の時代を告げる形となった。<大いなる黄昏グレート・トワイライト>のことよ」

 老人の話にまたしても聞き慣れない用語が出現する。

 <大いなる黄昏グレート・トワイライト>――ウィザードブレードの世界観を彩る用語に、俺は興奮を抑えられなかった。

 まったく幾つになっても男はガキのままだ。

 こういうジャーゴンには、とても弱い。

「マナが減少し、神々は下界にとどまる事ができなくなった。それに伴い、魔法文明も衰退し、人々も神や魔法の加護や恩恵に与れなくなった――」

 フォーランドの黒歴史ともいえる魔法文明の滅亡譚が語られる。

「調和神の眷属が去った後、山の環境は激変したが、以前ほどではないにしろ、マナの噴出は続き、まだ残っておった。法と混沌の勢力は、水晶の山に眼をつけ、この世界において、自らの活動の拠点とし、膨大なるマナとその恩恵を自らの掌中に収めるために、互いに激しく争った。法や混沌の勢力が入り込み、その影響により、かつての聖地は汚され、山の自然は悪化の一途をたどった。そんな中、偉大なる竜が訪れ、自らの巣としたのじゃ。まるで神の代わりに山を護る為にのう……」

 老人の長い話はようやく終わりを迎えようとしていた。

「だが、調和神の眷属がおらぬ山の中は、もはや法と混沌の勢力が入り混じり、激しく入り乱れた安定を欠いた領域……異界か魔界そのものよ。この世であって、この世ではない。

古代魔法文明の遺跡に眠る魔法や宝物もまだ残っておるようじゃて時々、それを求め、筋の悪そうな魔法使いや盗賊どもが山の中に入っていきよるが、無事に帰ってきた還ってきた者は少ない。さらに竜に引き寄せられるように野生化した怪物共も住み着き、もはや人の立ち入るとことではないぞ」

 こんな言葉で怯むことは無い。

 煽っているのと同じだった。

 ここで逃げるようでは、ゲーマーではない。

 俺の中で、水晶山に早く踏み込みたい、攻略したいという欲求が大きく膨れ上がっていた。

「地元の連中は絶対に近づかん。恐ろしい目に会うでの。あんたらも気をつけなされ」

 我々に最後に釘を刺し、老人の話は終わった。

 俺はユウカのほうをチラ見した。

 ユウカの顔は紅潮していた。

 新たなる戦いを予感し、胸がときめいているようだ。

 ユウカも俺と同じ、根っからのゲーマーのようだ。

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