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呪いの発現

 ソフィアが右手を頭上へと掲げると、振り下ろした。

 戦闘開始の合図だった。

 俺とユウカは刃を合わせる。

 重い剣だった。

 先日戦った偽ナーヴァスとは比べ物にならないくらい太刀筋に濁りが無く、重みがある。

 ユウカは横に剣を薙ぐと、剣から発せられる炎が鞭のようにしなる。

 炎皇の剣が、俺にマスターデモンを思い出させた。

 マスターデモンはフレイムブレードという魔法剣を得意とする悪魔系エネミーである。

 フレイム・ブレードは、剣に炎の魔法を付与させ、焼くと斬るとを同時に行うことで、相手に大ダメージを与える魔法剣である。

 だが、この魔法剣の恐ろしさは、火による攻撃ではない。

 剣という武器の欠点である間合いや距離の概念が解消されると言う点だ。

 魔法の攻撃射程は通常中距離から長距離の範囲であるのに対し、剣は接近戦のみである。

 だが、フレイムブレードは接近戦では斬撃と炎を同時に放つことで、ダメージ数値を引き上げ、中距離の場合は炎を放出させることにより、攻撃範囲を拡大できる。

 剣の打ち込みで魔法を放つことで、プレイヤーのタイミングで炎を放つことも可能だ。

 炎皇の剣は同様の特性を持ち、それを常時攻撃可能とするということだ。

 さらに、魔法剣との併用により、炎の複合魔法剣を放つ事も出来ると予想される。

 炎皇の剣もまた虚空王の剣と同様、近距離から長距離への攻撃を可能とする武器であることに、俺はようやく気が着いた。

「大したものだ」

 俺は素直に感心していた。

「余裕見せてる場合ですか……?」

 ユウカは冷ややかに言う。

「……十分、焦ってますよ」

 ユウカは炎皇の剣を完全に使いこなしている。

 油断していたら、忽ち勝負はつく。

 ユウカが仕掛けてきた。

 マキシマムソニックブレードだった。

 さらに炎皇の剣の付随効果が加わった複合攻撃だった。

 ジンやカリバーンのフィロソフィーブレードを想起させるような攻撃だった。

 炎を帯びた連続高速剣に、俺はプレッシャーブレードを放つと、牽制しながら距離をとる。

 ユウカは好戦的で積極的、攻撃の手は一切緩めない。

 ユウカのプレイスタイルは、どうやら『攻撃は最大の防御』が身上のようだ。

 普段の彼女とはまったく違うプレイに、戸惑いつつ俺も応戦を続ける。

 ユウカは俺の剣を横に払い、後方に下がると、突然宙に浮き上がった。

 浮遊魔法だった。

 俺は舌打ちする。

 ユウカはいよいよ勝負に出るようだ。

「行きますよ!!」

 ユウカがそう言うと、剣を構えながら、魔法を放っていた。

 魔法の矢(マジックミサイル)の魔法だった。

 俺は聖皇の楯を構え、応戦する。

 アブソリュートディフェンスは使用しなかった。

 すぐに次の攻撃スキルを放てるように、ここは温存することにした。

 ビームかレーザーのような光の矢が、俺に向ってきた。

 中々の精密射撃だった。

 魔法の矢を楯で防ぎ、必死に耐えた。

 宙に座するユウカを仕留めるには、もはやディメンジョンブレードしかなかった。

 魔法の矢を耐えきり、楯を下げ、剣を構えた時、ユウカは剣を真っ直ぐに俺に向けた。

 火炎放射器のように、炎皇の剣から炎が放出された。

 竜の吐息のような、突然の炎の放射に、俺は一瞬に飲み込まれた。

 魔法の矢は囮で、炎の攻撃が本命だということに、俺はようやく気がついた。

 火の力が宿っているのだから、火の魔法が使用できるのも当然だった。

 詠唱時間がない分、発動時間も短い。

 魔法耐久力が高い聖皇の鎧もこればかりは例外なのか、炎皇の剣が生み出す炎には意味を成さなかった。

 炎をまともに浴び、ダメージが加算された時、俺の身体に激痛が走った。

 実際の痛みが身体を苛むなど、ゲーム内でありえない現象だった。

 呪いの発現――!?

 俺は自身の身に起こったことをすぐに理解した。

 呪いがこんな形で現れるとは……!?

 俺はその場に膝を屈した。 

「クロムさん!!」

 マリナが声を上げる。

 これからは攻撃を全てかわさなければならないらしい。

 痛みに耐えながら、俺は必死に頭を切り替える。

 だが、すぐには攻撃に移れなかった。

 ユウカが再びマキシマムソニックブレードを放ってきた。

 本来接近戦の技が、剣の力により、炎が幾重にも放たれる。

 飛来する炎を無様に避けながら、俺は体勢を立て直そうとする。

 ディメンジョンブレードはいつでも放てる体勢だった。

 最近気が付いたことがある。

 ディメンジョンブレードは剣技と考えるべきではないということに。

 むしろ銃のようなものだ。

 しかもライフルのような長距離射撃だ。

 中距離から長距離への攻撃を可能とする魔法剣は、ロングレンジであればあるほど効果を発揮する。

 炎皇の剣よりも射程範囲および攻撃距離も広く長いはずだった。

 狙いを定め、俺は一撃の元に決めるつもりだった。

 クズクズしている暇はなかった。

 痛みで攻撃が狂わないうちに決着しなければ、勝機はない。

 気合を込めると、俺はディメンジョンブレードを斬り放った。

 天と地をつなぐような軌跡を描きながら、空間断層の刃が疾走した。

 空中での急激な回避は適わず、空間断層の刃がユウカを切り裂いた。

 逆に痛みで集中力が高まったのか、命中率と切れ味が増したような感覚を覚えた。

「……うっそ」

 そう言い残すと、ユウカは砕け散り、消滅した。

 クリティカルヒットだ炸裂したようだ。

 ズキズキと続く頭痛に耐えながら、俺は再び膝を屈する。

「……大丈夫ですか?」

 観客席から飛び降りると、マリナが心配そうに駆け寄ってきた。

「ああ」

 そう答えるだけで精一杯だった。

「……この前の?」

「そうらしい」

 痛みを強制的に感じさせる違法コンバットシミュレータープログラムを接続された経験があったが、呪いの正体がこれとはまったく想像していなかった。

 痛みがある一定のレベルを超えればショック死を引き起こす可能性もありうる。

 オイジュスの呪いの恐ろしさに、背に氷を差し入れられた思いだった。

 いつしかソフィアは我々二人の前に降り立っていた。

「――見事だ」

 ソフィアが口を開いた。

「不利な状況に屈することなく、勝利を得るとは……。さすがは四英雄。悪神より世界を救いし者よ」

 ソフィアがそう言うと、俺の足元に宝箱が出現した。

「……受け取るがよい」

「確かに」

 俺が宝箱を開けようとしたとき、ソフィアは「特別に、汝に宣託を授けよう」と言った。

「宣託……?」

「混沌の勢力を打ち破る神器を集めよ」

 明らかにゲーム攻略のヒントだった。

 俺もマリナを居住いを正し、身構える。

 どうやら法の女神ソフィアもNPCらしい。

 彼女も聖人なのだろうか。

 前回と同様、タロットカードのナンバーと役割を課せられているのかもしれない。

「両性具有神の聖剣か……?」

 俺は思いつくまま、ソフィアに尋ねた。

「違う」

 俺の言葉をソフィアはすぐに否定した。

 両性具有神の聖剣――前作の最強の剣である。

 レアアイテムを三つ集め、精製を成功させて、始めて得られる武器で、攻撃力はいうまでもなく、究極の魔法剣にして高コストスキルであるフィロソフィーブレードの使用コストを低減させ、さらにディメンジョンブレードのスロットを追加する。

「両性具有神の聖剣はガラテア無くしては存在しない。調和神が揺蕩い、美睡を貪る今、その力も眠りに着く」

 ソフィアは答えた。

 両性具有神の聖剣はどうやら今回は登場しないようだ。

「四つの法の神器<エレメンタル・スート>を集めよ」

 ソフィアはそう言った。

「法の神器……?」

 俺は聞き返す。

「四大元素たる聖物……剣と聖杯、護符と杖を」

 俺はすぐにピンと来た。

 石に刻まれしマークが頭を掠めると同時に疼痛が走った。

「……トランプのスートか?」

 俺の言葉に、ソフィアは頷く。

 スートとはトランプのマークのことである。

 小アルカナなども言われ、タロットとの関連も深い。

「剣は風を、聖杯は水を、護符は地を、杖は火を司り、それらが一つになりし時、完全元素たる第五元素へと還元される。第五元素は更なる上層への道標を、そなた等を指し示すであろう――」

「第五元素? 更なる上層……?」

 今度はマリナが尋ねていた。

「アクシスムンディ――法と混沌の神々が集い、男性原理と女性原理を睦み合い、調和神が眠る永遠の宮殿。世界軸アクシス・ムンディが存在する百万恒河沙の無限に等しい、多次元宇宙の中心オムファロスに位置する不変の聖地――」

「そこが最終ステージという訳か……?」

「――しかり」

 ソフィアは頷いた。

 四大元素の象徴であるスペードとダイヤ、ハートとクラブといったそれぞれのマークや属性が入ったアイテムを集めるのだろうか。 

「そして、<エレメンタル・スート>は混沌の側にも存在する」

 俺はソフィアの言葉にハッとなった。

「俺は混沌側の地の精霊石――混沌のアイテムを持っているがどういうことだ?」

「――混沌側の宝物が混沌側に現れるとは限らない。それは法側の宝物も同じ」

 ソフィアは言った。 

「互いに奪い合えということか……?」

「――しかり」

 ようするに混沌側にも四大元素が課された宝物があるということだ。

 この時点でアイテム争奪戦の様相を見せてきた。

「待ってくれ」

 俺はとっさにソフィアの身体に触れる。

 グノーシスリングがソフィアをファイルチェックする。

 診断結果は陰性ネガティブだった。

「……何か?」

「いや……」

 ソフィアはただのNPCのようだ。

 そう都合よくは行かないらしい。

 俺には今すぐ解決しなければならない別の問題もある。

「この呪いを解除して欲しいのだが……」

 俺はソフィアに思わず頼んでいた。

「呪い……?」

 ソフィアが怪訝な顔をする。

「悪質プレイヤーにおかしなプログラムを施された。GMでNPCならばどうにかして欲しいのだが……」

 俺はNPCに頼み込む。

 ソフィアは俺の手を取る。

 全身を撫でられるような感覚が走った。

 今度はソフィアが俺の托身体をスキャンする。

「……たしかに托身体に異常があるようだ。判別できないプログラムが強制的に形成されている……」

 ソフィアの言葉に俺は舌打ちした。

「だが、下手に取り除こうとすると、データがデフォルドする可能性がある」

 思わず溜息が出た。

 育成し、獲得したレベルやアイテムが失われるのは、御免こうむりたい。

 マリナも心配そうに俺を見ていた。

「少し時間を頂きたい。事実関係を運営側に報告し、確認後、返答する。よろしいか……?」

 ようはソフィアも運営側に伺いを立てないと、何もできないらしい。

 当然の対応だった。

 俺は頷く。

「エレメンタルスートはどこに……?」

 俺は別の質問をしていた。

「……水晶の竜を探すがよい。それ以上は答えらることは許されていない。あとは汝らしだいだ――」

 そう言うと、ソフィアは浮き上がった。

「法の戦士達よ、法の神々の祝福あれ――」

 ソフィアは最後にそう言い残すと、俺達の前から姿を消していった。

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