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待ち伏せ

 俺とマリナは三人組と対峙していた。

 まだ戦闘には入っていないが、今の状況では戦闘ステージの属性も混沌側だろう。

「……随分、タイミングがいいな」

 俺は自分の疑問を素直に口にしていた。

 利き腕は剣を掴んでいない。

 すぐに臨戦状態に入るべき相手にはとても見えなかった。

「まあな」

 戦士風の男が含みがあるように笑いながら言った。

 プレイヤー名は「アイバ」。

 職業は、魔道剣師である。

 他の二人は、魔道剣師の「モリケン」に、神官風の男が高位魔術師の「マサ」という名だった。

「待ち伏せしていたということか……?」

 俺の指摘に悪びれることなく、三人組はただ笑うだけだった。

 俺は相手プレイヤーの装備品に眼を走らせる。

 どの装備も金で入手できるような程度のものだった。

 おそらくアーステリアに向う新参者プレイヤーを襲撃して、ポイントを稼ぐ下衆な連中の類だろう。

 お世辞にもプレイマナーがあるような連中には見えない。

「……女と一緒にプレイかよ」

 モリケンがマリナをじろじろ見ながら言った。

「畜生、結構カワイイじゃねえか……」

 高位魔術師マサの言葉に、マリナは顔を歪めた。

「モテるんだな、さすがは四英雄様だ」

 魔道剣師アイバの言葉に、俺はハッとなった。

 目の前の男達は、俺のことを知っている……?

「俺たちは黄昏の騎士団の残党さ」

 アイバが意外なことを言い出した。

「なんだと……?」

 俺は思わず聞き返した。

 黄昏の騎士団――前作で巨大勢力を誇っていた攻略チームだ。

 カリバーンという名のプレイヤーランキング一位の男がリーダーを勤めていた。

 しかり、カリバーンの正体はNPCで、ゲームバランスを司る管理AIでもあった。

 カリバーンの正体発覚後、黄昏の騎士団は急速に求心力と勢力を失っていった。

 当然、優勝レースから離脱する形となる。

「四英雄の一人、クロムがアーステリアに向っているっていう情報をある筋から入手して、な。こうしてわざわざ待ってたって訳だ」

 モリケンが絡むように言う。

 俺の情報を流している人間がいるということに、改めて戦慄を覚えた。

 明らかに狙われている。

 ノエルの顔が過ぎった。

 彼女が俺の同行を探り、こういう連中に情報を流しているのだろうか……?

「……お前、四英雄とか言われていい気になってるけど、お前ら恨んでる連中は多いんだぜ」

 マサが絡むように言ってきた。

 マサは特にガラが悪かった。

 敵プレイヤーは徐々に本性を見せ始めてきた。 

 いつもならこういう状況に物怖じしないマリナも今日はすっかり口をつぐんでいる。

「お前達のせいでよ。貰えるはずだった賞金はパーだ」

 アイバが俺を睨みながら言った。

「逆恨みもいいところだな」

 俺は反論した。

 前作ゲームを一番にクリアした者には、副賞として賞金一千万が掛かっていた。

 本命のはずだった攻略チームが賞金をとりっぱぐれ、そのことを快く思わない所属プレイヤーがいてもおかしくは無い。

「しかも、カリバーンは人間じゃねえ、AIだった……俺たちはとんだ笑いものだぜ。機械の言う事に従ってたんだからな」

 モリケンが恨み節を言う。

「自業自得だろう……? 群れて行動するからそういう目に会う」

 俺はあえて相手をしなかった。

 強いプレイヤーに群がり、依存し、そのおこぼれを貰う。

 ゲームやRPGは自ら努力した過程を経て、初めて感動が得られる。

 ゲームを皆で楽しむということが目的ならばともかく、優勝を狙っているのならば、まず自己のスキルアップが最も近道だろう。

「お前、ナーヴァスって言うらしいな」

 俺はアイバの言葉に大きく反応した。

 連中はナーヴァスの存在を知っている……?

「ナーヴァスだと、ゲームじゃ色々有利になるんだろう……?」

 俺はアイバの言葉に無言だった。

「キッタねえよな……」

 モリケンが続く。

「……このチート野郎が」

 マサが吐き捨てるように言った。

 初めての感覚だった。

 謂れの無い差別を受ける経験は今まで少ないが、これほどの敵意を向けられるとは思わなかった。 

 いずれこの嫉妬は差別のみならず、ナーヴァス排斥に繋がる。

 前回の暗殺者ノエルの襲撃の件もそうだ。

 そんな予感がした。

 一般人からすれば、ナーヴァスの能力はやはり特権と思われても仕方がない。

 この敵意が伝播すれば他のユーザーからも迫害の対象になる可能性がある。

 新たなる種。

 新たなる価値観。

 新たなる争い――。

 旧人類と新人類の戦争という、安いSFのテーマのようなことが今この場で起きている。

 さらにエウロパの存在が頭をめぐる。

 エウロパの言葉通り、ガラテアの復活はナーヴァスを護ることに繋がるのだろうか……?

「――でどうするんだ? やるのか、やらないのか? はっきりしろ」

 俺は三人組に尋ねていた。

 向けられた敵意に、屈する理由は無い。

 アーステリアが目前にある以上進むしかない。

「やるに決まってんだろ。舐めんなよ……?」

 アイバが唾を吐きながら言った。

「こいつ、混沌側が有利に働く状況が分ってんのかね……?」

 呆れながらモリケンが言った。

「……フルボッコにしてやるから、覚悟しろよ」

 マサが鼻で笑いながら言った。

 俺が柄に手を掛けると、バトルフィールドが形成されていった。

 戦闘開始だ。

「一気に片をつけるぞ」

 俺はすぐ様マリナに指示を出す。

「了解です!」

 マリナは頷く。

 相手からさほどプレッシャーを感じるようなことはない。

 おそらくランクはD級、相手にするまでもなかった。

 ステージ属性は完全に混沌状態だが、恐れることは無い。

 短期決戦を仕掛ければ問題ないはずだった。

 先に仕掛けたのは相手側だった。

「行くぜ!! チート野郎ども!!」

 相手プレイヤーの一人、高位魔術師マサが杖を掲げた。

 俺と敵プレイヤーの間に、光で描かれた魔法陣が出現する。

 召喚魔法だった。

 相手は、俺たちとは逆に長期戦に持ち込むつもりのようだ。

 魔法陣からエネミーが沸くように出て来る。

 呼び出されたエネミーは、豚鬼だった。

 ただし、数は全部で15体と決して少ない数ではない。

「……やっぱり混沌サイドだから、魔法の効果が上がってるみたいですね」

 マリナの分析に、「だな」と俺は同意した。

 ボーナス効果の付与による魔法の強化は明らかだった。

 混沌の力が大きく働いている。

「……ブタ野郎には、ブタ野郎がお似合いだな」

 アイバの嘲笑を無視しながら、俺は虚空皇の剣を構える。

 荒い鼻息をしながら、オークが棍棒を手に、一斉に襲い掛かってきた。

 俺は虚空皇の剣を振るい、オークに斬りかかり、蹴散らしていく。

 だが、呼び出されたオーク達は混沌の影響により、いつもより手ごわくなっている。

 剣での攻撃も思ったほどのダメージ数値が出ない。

 ザコと思っていた相手が、属性の影響により耐久力や攻撃力を増し、手ごわくなっている。

 これが今作の怖いところだ。

 相手がこの流れを読み、俺たちに戦いを仕掛けてきたのならば、中々の策士だ。

 オークの出現で、互いの陣営に距離が生まれていた。

 オークと格闘しながら、魔道剣師アイバの顔が眼に入ってきた。

 すでに勝利を確信しているのか、どこか余裕に満ちている。

 剣を構えているが、魔法剣を仕掛けてくるわけでもない。

 俺たちの様子を伺っていた。

 疲弊したところを一気に仕掛けてくる腹かも知れない。

 マリナが爆発系の魔法を使用し、オークを狩る。

 強力な魔法で一気に始末するのではなく、詠唱コストが低く、発動時間の短い魔法を選択するのはさすがだった。

 相手側の魔法の成功率が上がっている一方で、法側の俺たちの魔法成功率は下がっている。

 強力な魔法の使用は、今の状況ではギャンブルだった。

 俺も魔法剣を控え、あえて剣で勝負する。

 当然攻撃力も下がっているが、それでも武器による直接攻撃が一番有効だった。

 オークの最後の一匹を始末し終えた時、マサが魔法を使用した。

 「オラ!! もういっちょいくぞ!!」

 再び魔法陣が浮かび上がる。

 マサが使ったのは、またしても召喚魔法だった。

 俺は思わず舌打ちする。

 マサの言葉と共に、魔法陣から大量のオークの群れが出現する。

 長期化していく戦闘に、思わず苛立ちが募る。

 ステージ属性に変化は無い。混沌側のままだ。

 チームプレイと戦術に作戦に、俺たちはすっかり翻弄されていた。

 雑魚には雑魚の戦い方があるということだろうか。 

 考えてみれば、連中は事前に俺達の情報を掴んでいる。

 戦術で勝負するチームなのだろう。

 黄昏の騎士団時代に身につけたのだろうか、いずれにしろ油断が招いた結果だった。

 オークを相手にしながら、俺たちは後退していた。

 オークがいる以上、敵プレイヤーに攻撃を仕掛けることができない。

「今度は俺だ!!」 

 そう言いながら、魔道剣師モリタケが攻撃魔法に入っていた。

 モリタケの頭上に出現しているのは魔法触媒だった。

 俺とマリナの顔に緊張が走る。 

 核爆の魔法だった。

 爆発系でも強力な攻撃魔法である。

 モリタケは魔法剣より、魔法を多用するプレイヤーらしい。

 そもそも魔道剣師は攻撃魔法を体得できる戦士系上級職である。 

 高位魔術師でないにしろ、そこそこの魔法が使用できる。

 特に今の状況で核爆の魔法を喰らえば、致命傷になりかねない。

 ボーナス効果により、ただでさえ強力な魔法がさらに勢いを増し、クリティカルと化す危険性がある。

 魔道剣師アイバも魔法剣の構えに入っていた。

 魔法によるダメージ後、ダメ押しにと一気に畳み掛けるつもりだ。

 目的地を目の前に、全滅という状況が現実味を帯びてきた。

「――法の神を召喚します」

 マリナの言葉が、俺の耳に飛び込んできた。

 法の神の召喚は今まで使用せずにとっていた、マリナの切り札だった。

「出し惜しみしている余裕はありません……!うまくいけばステージの属性を変えられるかも……」

 魔法成功率が下がっている今の状況で、法の神を呼び出せるのだろうか……? 

 だが、ほかに選択肢もなさそうだった。

「……分った。俺が壁になるから、キャンセルだけは絶対に避けろよ」

「はい! 何が起こっても恨まないでくださいね……!!」

 マリナの言葉に、俺は苦笑した。

 ディフェンスに徹しようと、マリナの前に出る。

 聖皇の楯を構えると、俺はアブソリュートディフェンスを発動する。

 資源が消費され、俺とマリナの周りに魔法障壁が広がっていく。

 俺の背後で、マリナは魔法の詠唱に入っていた。

 法の神を呼び出す為に、マリナから多大な資源が失われていく様子が伝わってきた。

  成功して欲しいと強く願った。

「無駄なことしやがって……! オークども行け!!」

 マサが命令すると、オークが一斉に襲い掛かってきた。

 形成された魔法防御の周りを群がり、障壁を破るように、棍棒を叩きつける。

 アブソリュートディフェンスのアーマークラス引上げ効果がいつもより薄い。

 障壁越しに俺の身体に小さいダメージが累積していき、生命力という資源が失われていく。

 マリナのほうをチラッと見る。

 目を瞑り、杖に念を込めている。

 まだ魔法は発動しない。

 魔法行使のための詠唱コストと時間を有するのは言うまでもない。

「ディフェンスで乗り切れると思ってんのか……? 甘めえんだよ。本当に優勝プレイヤーか……!?」

 アイバがそういうと、モリケンが笑う。

 魔法触媒の形成は終了している。

「オラ!!」

 モリタケが核爆の魔法を放った。

 魔法触媒が魔法城壁に直撃し、周囲が爆発のエフェクトで白色化する。

 やはり魔法は混沌の力を得て、威力を増していた。

 障壁では防ぎきれず、大ダメージが俺とマリナに刻まれていく。

 俺が回復魔法を使用しようとした時、巨大な魔法陣が展開した。

 頭上から光が降り注いだ。

 白い衣装を纏い、額環や耳飾、ブレスレットやアンクレットなど金や銀に彩られた装飾具を全身に身につけ、右手には杖を持っている女性だった。

 黄金の髪を靡かせて、神々しい光を体から放っていた。

 マリナの魔法は成功していた。

「やりました! 法の神です……!!」

 マリナの言葉通り、法の神が降臨していた。

 三人組も予想外の出来事に、色を失ったような顔をしている。

 法の神たる女神が杖を掲げる。

 杖から更なる眩い光が放たれた。

 混沌の力が打ち払われ、フィールド内の属性が「法」一色と化していく。

 放たれた法の力により、オークが全て消失し、さらに俺とマリナの生命力が回復していく。

「……形勢逆転だな」

 俺の言葉に、マリナは微笑んでいた。

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