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烟る霧の原野

 <暗黒樹の森>を抜け、俺たちは<烟る霧の原野>へ入っていた。

 中央大陸に広がる草原と湿地帯が交互に交錯するファンタジーではありふれた風景だった。

 情報が正しければ、ここを抜ければアーステリアにたどり着く。

 濃霧が立ち込めていて、足場は悪く、さらにエネミーとの遭遇率が高い。

 スティーブン・キングの中篇『霧』を思わせる乳白色の濃い霧が広がっている。

 <烟る霧の原野>は亜人種のエネミーの巣窟だった。

 その出現率は異常と言ってもいい。

 特に豚鬼オーク小鬼コボルドなど亜人種の出現が目立つ。

 エネミーの中では雑魚の部類には違いないが、大量に来られると辟易した。

 さすがは、強豪ランカーがひしめき合う激戦区の大陸である。

 俺とマリナはアイテムの一つである『テント』を張り、消費した資源の回復を行なっていた。

 テントは前回のキャンプに相当する回復アイテムである。

 ちなみにこれに相当するような魔法も存在するらしいが、まだ体得していない。

 テントももうこれで最後の一つであり、何が何でもアーステリアにたどり着かなければならなかった。

 貴重なアイテムであるテントを使用したもう一つの理由が、混沌の力が強くなっていた。

 混沌の力が強くなれば、法側のプレイヤーはステイタスが低下し、さまざまな状況で不利になる。

 戦闘時の攻撃力の低下や、エネミーとのエンカウント率や予想外のことが発生する危険性が高くなる。

 少しでもやり過ごす為の、時間稼ぎだった。

「ここを超えれば、アーステリアですね」

 狭いテントの中で、マリナが言った。

「そうだな」

 俺は話をしながら、直前の戦闘で入手したアイテムやオーグメントを確認していた。

 やはり、あまりめぼしいものが無い。

 街に着いたら、即売却処分が相応のものばかりだ。

 所詮ザコエネミーのドロップアイテムなど高が知れている。

 俺は憂佳との事を思い出してた。

 CM終了後、俺と憂佳はメルアドと電話番号を交換していた。

 トラブルがあったものの、撮影はいちお終了し、約束どおり会話をした。

 次のスケジュールが詰まっていてマネージャーがせっつく中、あまり話はできなかったが、アーステリアにつくことができたら、合流して一緒にプレイすることを約束していた。

 その際に浮遊魔法に関しての情報も教えてくれるという。

 結局はお預けを喰らった形になったしまった。

「……この前の暗殺士なんなんでしょうね」

 マリナがぽつりと言った。

 やはりその話題が出てきた。

「色々恨みを買っているらしい」

「えっ? 誰にですか……?」

「前作の攻略チーム連中やゲーム運営関係者――」

「……逆恨みでしょ? それって……」

 俺は何も答えられなかった。

 ナーヴァスが大きく関わっている――そんな気がした。

 エウロパの忠告も無視できないものになってきた。

「もう、一緒にプレイしない方がいいかもな」

「……またそんなことを言う」

 俺言葉にマリナは険しい顔をする。

「足手まといだって言いたいんですか?」

「まさか、君は相当の腕を持っていることはよく理解している」

 嘘偽りの無い言葉だった。

「よく考えた方がいい。今の俺はクリアの障害になりかねない。俺の周りは無用な敵が多いからな」

 俺は注意を促す。

「アーステリアに着けば、とりあえずは互いの当初の目的は終わるだろ?」

「そうですけど……」 

 マリナは口を尖らせていた。

「本気でクリアを目指すなら、相手を選んだほうがいい」

 憂佳のように、ネットで募集している別のプレイヤーと組んでプレイする方法もある。

 俺の言葉にマリナは大きく息を吐くと、「アーステリアに着いたら考えます。急ぎましょう。ぐずぐずしてたら、全滅ですよ。せっかくここまできたんだから」と答えると、テントを出た。

 俺も何も言わず、テントを出る。

 テントが背後で消滅するのを感じながら、俺は周りを見た。

 霧は相変わらず濃い。

 方向感覚と視界を奪うほどの濃厚さだ。

 そして、混沌の力も依然強いようだ。

 不用意に歩を進めれば、迷ってしまうだろう。

 センシング能力の強い魔道司祭だけが頼りだった。

 その肝心のマリナは落ち着かないように周囲をキョロキョロしていた。 

「どうした?」

 俺は尋ねる。

「……近くに気配が」

 マリナがそう答えたとき、白い霧の中から人影が見えた。

 三人のプレイヤーらしき連中だった。

 三人組の男で、戦士風の男が二人、残りが魔術師風の男だった。

 明らかに、混沌側の属性を備えたプレイヤーだった。

 三人全員が何故か、にやにやしている。

 あまりのタイミングの良さに、俺はただならぬ不安を覚えていた。

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