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暗黒樹の森

 森に入ったとたん、俺は夜が突然訪れたような錯覚に囚われた。 

 樹木が垂直に伸び、枝葉が複雑に絡み合い、日の光を遮る天井と化している。真昼間でありながら、日の光が一切差さない、暗黒の世界であった。

 暗黒樹ダークウッドの森――闇の妖精王が支配する闇妖精族の領土である。

 武器屋の主人が言った危険地帯の一つだった。

 俺とマリナはアーステリアへ向けての旅を行なっていた。

 ブラックサン市で回復用の魔法薬ポーションやステイタス異常を回復する回復用アイテム、さらにHPやMPを回復する天幕テントなどの宿泊型アイテムなどを大量に買い、旅に臨んでいた。

 アーステリアへの道中は、岩山に囲まれ、遮られているため、かなりの迂回を余儀なくされる。

 「馬」などの高速移動型手段が存在するらしいのだが、今の段階では入手することはできない。

 マリナが体得している空中浮遊魔法は戦闘限定で、移動の際には使用できない。

 もっともその移動を可能とする長距離非行型の魔法もあるらしく、さらには瞬時に街々を移動できる魔法も存在するらしい。

 森内は闇そのものであった。

いや、密集した樹木が原因だけではない。

 肌寒い。気温が低く、冷気が漂っている。

 まるで夜そのものだった

 俺は暗黒の森の中を歩んでいた。

「こんな所通り抜けるのやだなあ……」

 マリナは文句を言いながらもついて来る。

「回避するルートは無い。ここを抜けるしかなさそうだ」

 視界は悪く、見通すことはできない。

 属性を確認すると、混沌だった。  

 幹の高い木々が密集し、樹海を形成している。樹海内は瓦礫と化した遺跡群が散見している。 

 遺跡も形を留めているものは少なく、ほとんどが破壊されている。草木や苔に侵蝕されているものがほとんどだった。

 かろうじて形を留めている門や公共広場、列柱回廊など点在している。

 セネトと同様、古代魔法王国として栄えた跡地にできた森という設定だった。

 事実、遺跡群はかつて王国の名残で、魔法による未曾有の人的災害が起こり、王国が滅んだと伝えられている。

 草木に紛れ、遺跡の残骸が覗いている。 

 奇怪な木々が根を生やし、植物は遺跡に絡みつき、貼り付き、侵蝕している。

 森の中を歩みながら俺は植物を観察した。葉はびっちりと牙のような突起を生やし、奇怪な形状となっている。

 森の木々は激しく変貌している。高く聳え立ち、枝や嶺は奇怪な形状と化し、渦を巻き、複雑に絡み合い、蔓が伸び、這っている。

 地表は草木や苔に犯され、毒々しい花を咲かせている。

 奇怪な木々にに心を奪われていると、思わず方向感覚を失いそうになる。

 エネミーとの遭遇エンカウント率も相当高そうだ。

 暗黒樹の森は、樹木で作られた迷宮そのものだった。 

 俺は前作の地下迷宮を思い出していた。

「……なんか、結構迷いそうですね」

 マリナは感想を口にしていた。

「確かに簡単に抜け出せそうにないな」

 もしかしたら、樹海内を何泊かこの中で過ごす事になるかもしれない。

 視界が悪い以上、身体でルートを覚えていくしかない。

 ブラックサン市へ戻ることも止む終えないようだ。

 そもそも戻ることはできるのだろうか。

「……君は、マリナは前作もプレイしているのか?」

 俺は歩きながら、マリナに尋ねた。

「ええ、いちお」

 マリナは笑顔で答えた。

 いつも笑顔で対応してくれる

 そうそう、できる事でないことに気が付いていた。

「そうか」

「ソロプレイで? それとも誰かと……?」

「今日は随分質問してくるんですね」

「……いけないか?」

 マリナの切り替えしに、思わず返す。

「いいえ、うれしいです。わたしに興味を持ってくれるなんて――」

「そういう意味じゃないが……」

 俺は否定したが、マリナは楽しそうだった。

「サークルみたいなところに入ってたんですけど、ほとんどが出会いとかナンパ目的で……。こっちは真剣にプレイしているのに……鼻から真面目にプレイする気が無いんですよ」

「みんなそんなもんだろ」

 俺は苦笑した。

「だから業者にいいように荒らされちゃうんです」

 マリナは憤慨したように言った。

「俺だって偶然だった……いい仲間に恵まれたと思ってるよ」

「どうしてその人たちと今回も一緒にプレイしないんですか?」

 マリナの問いに、俺は言葉を一瞬詰まらせた。

「……忙しいのさ、みんな。前回の優勝をきっかけにいろんなチャンスを掴んだからな」

「チャンス……?」

「ゲーム会社やスポンサーが付いて、海外に遠征するようなプロゲームプレイヤーになったり、芸能事務所にスカウトされ、タレントになったり、ライター兼リポーターになった奴もいる」

 俺は自分のことのように言っていた。

「……俺だけが何も掴めていないな」

 自虐に等しい言葉だった。

 コンプレックスというほどではないが、ただ、多少引け目を感じることはある。

「クロムさんらしくもない……」

 そういった途端、マリナの動きが止まった。

 エネミーとの遭遇だった。 

 突然、人の形をしたものが地中から出現していた。

 身体は腐敗し、皮膚の表面は崩壊し、汚汁を撒き散らしている。

 臓物の一部は皮膚を突き破り、垂れ下がっている。

 眼球は白く濁っていて、垂れた皮膚や内臓を引きずりながら歩いている。

 マリナが思わず短い悲鳴を上げる。

 この辺は演技では無いらしい。

 エネミー――生ける屍(リビング・デット)であった。

 生ける屍はどんどん出現し、その数を増す。

 バトルフィールドの属性は、若干混沌よりだが、それほど影響力はなさそうだ。

「……うわーっ、あまり相手にしたくないなあ」

 顔をゆがめながら、マリナは言った。

「とっとと終わらせるぞ。長期戦になると面倒になる」

「わかってます、解呪ディ・スペルを掛けますよ」

 マリナが魔法の杖を握りなおす。

「了解した。同時に仕掛けるぞ」

「はい!」

 マリナが後退しながら、魔法の杖を構え、解呪の準備に入る。

 俺も後ろに下がり、腐人達と一定の距離をとりながら、解呪の施行に入っていた。

 エネミー達が一斉に襲い掛かってきたタイミングに、俺もマリナも解呪を放った。

 聖職騎士や魔道司祭などの僧侶系魔法を駆使できる職業は、解呪と呼ばれる技を持つ。

 死霊使い《ネクロマンサー》の魔法たる闇の力により生み出された不死怪物や付帯魔法を、神の力により解除、成仏浄化させる技である。

 だが、当然強力なアンデットや魔法になれば、解呪はそれなりのレベルが必要になってくる。

 また解呪したエネミーは経験値やアイテムは一切入らない。

 それでも数十体の大群を相手にするよりは遥かによかった。

 特にリビングデットは特殊攻撃の一つである麻痺パラライズを持つ。

 しばらくの間、身動きできなくなる厄介な状態だ。当然攻撃も逃走も不可能になる。

 ステイタス異常になると回復にアイテムや魔力を消費する。

 何が出るか分らない危険地帯で、命取りになりかねない。

 二人が放った解呪がリビングデットが次々に魔法を打ち消し、元の死体へと戻していく。

 エネミーが次々と塵と化していった。

 だが、解呪では全てを斃すことはできなかった。

 何体かは解呪できなかった。

 俺は鞘走らせ、剣を抜こうとして時、俺の横を走りすぎていくものがいた。

 灰色の頭巾の付いた外套を纏ったプレイヤーであった。背から剣の柄が生え出ている。 頭巾をすっぽり被っている為、表情が確認できない。 

 灰色の外套のプレイヤーは背負った剣を鞘から抜くと、刃を振るった。

 逆手で構える高速の剣捌きは、腐人の首を次々と跳ねていく。

 ジンのソニックブレードを髣髴とさせるような速さだった。

 動きと身のこなしから、おそらく暗殺士であろう事は予想がついた。

 腐人たち残らず全て始末すると、プレイヤーは再び剣を治めた。

 俺はハッとなった。

 目の前のプレイヤーがブラックサンの武器屋を出たときに会ったプレイヤーであることに、俺は気が付いていた。

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