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次の日。
僕たちは、美島公園の噴水前に集まっていた。
日曜日ということで、カップルなんかがちらほらとベンチに座り、穏やかな朝の時間を楽しんでいる姿も目につく。
「ほら、翔くん。瞳さんに、ちゃんと言ってあげて」
「うん、わかった」
「私と恋人同士だってことをね♪」
「違うでしょ!」
しれっと言ってのける清美さんには、すかさずツッコミをぶつける。
水沢さんも翔くんも、苦笑いを浮かべていた。
まったく、困った人だ……。
やがて翔くんは、水沢さんの正面に立ち、そっと口を開いた。
「え~~っと、清美から聞いたけど……。その……。心配かけてごめんね」
「ううん、いいの。私のほうこそ、ごめんなさい。なんか勝手に誤解しちゃって……」
「これからは、心配させるようなことはしないって、約束するよ」
「うん。……私も」
ふたりはどちらともなく近寄り、お互いの手を握りしめる。
「これで、ハッピーエンドってわけだ」
「うん、よかった」
僕と夕時も、初めての依頼がよい方向で終わって、心から嬉しかった。
「ほら、翔くん。アレ、渡さないと」
「あっ、そっか」
清美さんから指摘され、翔くんはポケットから、可愛らしいピンク色のリボンのついた包みを取り出した。
「瞳。これ、プレゼントだ」
恥ずかしいのか、ぶっきらぼうに言って、水沢さんに差し出す。
「あ……ありがとう。……開けてもいい?」
「ああ」
包みから出てきたのは、可愛い猫のブローチだった。
「猫、好きだろ、お前。だから」
「うん、ありがとう。……でも、どうして? 誕生日とかでもないのに……」
「……瞳と最初に会った記念日、だよ」
翔くんは照れくさそうに顔をそむけながら、そう言った。
「あ……そっか……。ありがとう。ほんとに、嬉しいよ……」
今にも喜びが溢れ、涙がこぼれ出しそうな様子の水沢さん。
「これからも、よろしくね、瞳」
「うん!」
初夏の清々しい日差しを受けた噴水の水しぶきがふたりを祝福するようにキラキラと輝く中、ふたつの笑顔はそれ以上に明るいきらめきを放っていた。
☆☆☆☆☆
「えっと……ありがとうございました」
翔くんの横にぴったりと寄り添いながら、水沢さんがぺこりと頭を下げる。
「いやいや、いいんだよ」
「うん、でも、ほんとに、よかったね!」
「はい! ……あっ、そうそう。今日もお弁当作ってきたんです。今日は、翔と清美さんの分も一緒に!」
水沢さんはバッグから五つのお弁当を取り出すと、笑顔でこう続けた。
「みんなで一緒に食べましょう!」
「あはは☆ 今日は翔くんとふたりきりのほうがいいんじゃないの~? いろいろと募る話もあるでしょうし♪」
清美さんはニヤニヤしながら茶化す。
「そうだな、それがいいかもな」
それに同意する夕時。僕もその意見には賛成だった。
「一緒に食べたら、いちゃいちゃしてるところを、これでもかと見せつけられちゃうもんね☆」
「あはは、確かにな!」
清美さんの言葉に夕時はすかさず同調する。
このふたり、ちょっと性格悪い者同士、結構気が合うのかもしれない。
そんなわけで、僕たちはここで解散することになった。
「みなさん、ほんとに、お世話になりました」
改めて深々と頭を下げる水沢さんと翔くん。
「これからも仲よくね!」
「はい!」
声を揃えて返事をするふたり。
その表情は、今日の天気のように晴れやかだった。
「それじゃあ、私もこれで帰るわね。さようなら」
清美さんも笑顔のまま別れの挨拶を済ませる。
「お弁当はじっくり味わって、評価をつけさせてもらうからね! 私の評価は辛口だから、覚悟しておきなさいよ、瞳さん♪」
「あぅ……」
「あはははははは!」
「ふふふっ!」
僕たちの心からの清々しい笑い声が、そろそろ中天に差しかかる太陽に照らされた明るい公園内に、大きく響き渡った。