そんな酷い賭けなんて無効にしてやる
「来月のマラソン大会でクラス一位になった奴が告る権利を得る。それで決定だ」
とある高校のある日の昼休み、教室の隅に男子達が集まってひそひそと相談事をしている。
その中心にいるのはサッカー部の男子、高峰。インターハイ県大会ベスト四のチームのレギュラーメンバーではあるが、イケメンキャプテンエースストライカーなんてことはなく、ポジションはディフェンスでフツメンの男子高校生である。
「文化部には悪いが、前回はそっちが有利なルールだったから今回は運動部有利でやらせてもらうぞ」
「ふっ、文化部だからって油断していると痛い目を見るぞ」
「いや無理だろ。マラソンだぞ。流石に運動部の俺らがお前らに負けたらまずいだろ」
「だよなぁ、でも一応頑張ってみるさ。全員怪我するかもしれないし。ふふふ」
「こいつ怖え!」
すぐに声が大きくなり、隠そうとするそぶりは消えてしまう。その理由は隠したい相手が教室内に居ないからではあるのだが、この日はその人物がすぐに戻って来た。
「あっ……じゃ、じゃあそういうことでよろしく」
「ほーい」
対象が教室の入り口に現れたことに気付いた男子達は慌てて話を打ち切り解散した。
だがそんな怪しい露骨な行動に気付かない訳が無い。
「はぁ……」
男子達の方を見向きもせずに、溜息を漏らしながら自席に座る女子生徒、和食。
さらさらの黒髪に、制服を着ていても分かるほどに凹凸のある体つき。
整った顔は穏やかで優し気であり、男子達に人気がある。先ほどの男子達の『告る』相手はこの和食だった。
「はぁ……」
和食はもう一度溜息をついて、手にしていたノートを机の上に置き目を閉じた。
「(またやってる……どうしたら良いのかな……)」
自分が男子達の賭けの対象となっている。
勝負に勝利した人が告白する権利がある。
それが憂鬱だった。
好きでもない相手にまた告白されるかもしれないこと。
そしてそもそも自分を巡って勝負事が行われていること自体も嫌な気分になる。
友達の女子に相談しても『好きにやらせとけば良いじゃん』としか言われない。
それに反論して強く忌避しようものなら、モテるからって調子に乗っている、と敵視されるかもしれず、これ以上は相談もできない。
答えの出ない悩みから逃げるように、和食はチラっとある人物を見た。
「(…………久浦君、また寝てる)」
机に突っ伏して気持ち良さそうに寝ている一人の男子、久浦。
男子達全員が賭けに参加しているのではない。
単に興味が無い人や、恥ずかしくて参加出来ない人など理由は様々だ。
久浦の理由を和食は知らないが、休み時間に男子達と話をせずにいつも寝ているところから、参加はしていないと確信している。
「(夜遅くまでゲームでもやってるのかな?)」
だとすると生活態度が不真面目で遊んでばかりと思われてもおかしくはないが、授業態度は極めて真面目。むしろ一生懸命と言っても良い程であるため、悪い印象は無かった。
「(…………つ、次の授業の準備しなきゃ)」
このままずっと見つめてしまいそうな自分に気付き、慌てて久浦から視線を逸らした。
その顔からはアンニュイな雰囲気が消えていて、何処となく紅潮しているようにも見えたが、そのことに気付く者は誰も居なかった。
ーーーーーーーー
「はぁ……ホントどうしよ」
土曜日。休日。
和食は肩を落としてトボトボと公園内を歩いていた。
悩みの理由は、クラスの男子達への対応。
気分が良くないからそういうのは止めて。
そう言えれば簡単だが、ことはそう単純ではない。
女子の世界には色々とあるのだ。
「ここに来ればリフレッシュして集中出来るかなって思ったけど、全然だよ」
大きな池がある巨大な公園。
自宅の最寄り駅から二駅隣にあるそこは自然豊かで地域住民の憩いの場となっており、そこならば落ち込んだ気持ちを解消して本来やりたいことに集中できるのではないかと思ったのだ。
「ううん。こんなことに負けちゃダメ。ちゃんと勉強しないと」
和食は鞄からノートを取り出してベンチを探すと、池の近くは全部埋まっていたが、どうにか隅の方ならば空いていた。ベンチに座るとスマホを取り出し、何かを調べながらノートにひたすら書き込んで行く。
公園まで来たかいはあったのだろう。
適度な雑音が集中力を高め、脳内に漂う嫌な感覚は気付いたら消えていた。
そうしてどれくらい経ったのか。
くぅ、と鳴った可愛らしいお腹の音に気付き、顔をほんのり赤らめながら和食は勉強を中断させた。
「ん~、久しぶりにちゃんと考えられて楽しかった」
恥ずかしさを誤魔化すためか、周囲には誰もおらず誰も聞いていないのに、わざわざ考えを口にしてなんでもなかったかのように振舞う和食。そういうところがまた男子達の琴線に触れるのである。
「(お昼は池の近くで食べたいな)」
ベンチはまだ空いていないかもしれないが、念のためと思って池の方へと足を進める。
「(走っている人が結構いるんだ)」
池の周囲は一キロ近くはありそうで、ジョギングの人気スポットになっている。
土曜日ということもありそれなりに人の姿が目に入るが多すぎて嫌になるという程ではない。
「え?久浦君?」
ふと、視界の端に久浦らしき人物が走り去る姿が映った。
「(気のせいかな? 久浦君が走るとは思えないし)」
いつも昼休みにスヤスヤ寝ている久浦の様子はインドア派を想像させるもので、今も家の中でゴロゴロしている様子が脳裏に浮かぶ。
だが一つだけ、そんな久浦であっても走る理由として考えられるものがあった。
「(まさか久浦君も賭けに参加しているなんてことはないよね……)」
絶対にそんなことは無いと思っていた。
しかし、男子達がマラソン大会を賭けにしている中でここで走っているとなると、賭けのために練習しているのではないかとどうしても結びつけたくなってしまう。
「(そもそも気のせいかもしれないし、ちゃんと確認してからにしよう)」
まだ自分が見た人物が久浦なのかどうか確信を持てないのに邪推するのは良くないことだ。
そう考えて嫌な想像を強引に消してしまおうとした。
しかし。
「(やっぱり久浦君だった……)」
彼の人物が池を一周したところでもう一度確認したら、確かにその人物は久浦であった。
もちろん瓜二つという可能性も無くは無いが、和食は間違いないと断定した。
「(どうして……)」
久浦は賭けになんか参加しない。
そう思っていたのは単なる思い込みであって、そうであって欲しいと勝手に期待していただけなのか。
「(…………帰ろう)」
気分が滅入り、今すぐにでもここから逃げ出して消えてしまいたい。
ゆえに踵を返そうとしたのだが。
「(女の人?)」
走っていた久浦が足を止め、ベンチに座っていた女性からタオルを受け取って汗を拭きながら話をしている姿が目に飛び込んで来たのだ。
「……………………」
和食は悩む。
別に久浦が走っていようが関係ない。
だってただのクラスメイトなのだから。
別に久浦が誰と話していようが関係ない。
だってただのクラスメイトなのだから。
「(…………何やってるんだろ、私)」
気付けば和食の足は彼らの方へと向かっていた。
だが話しかける勇気など無く、丁度近くに身体を隠せそうな太い木があったため、そこでひっそりと様子を確認することにした。
その女性の正体が分かるまで。
それが分かればすぐに帰ろう。
そう思っていたのだが。
「あんたも馬鹿ねぇ。そんなに必死になるなら普通に告れば良いじゃん」
「べ、べべ、別にそんなんじゃねーし。ただ賭けとかムカツクから潰したいだけだし。帰宅部の俺がクラスで一番になれば運動部の連中恥ずかしくて告れなくなるだろ」
「(え?)」
賭けを、潰したい。
その言葉を和食はすぐには理解できなかった。
久浦も賭けに参加していた。
そのことに酷く落胆していたのだが、それが間違いだったのだとすぐに言われても都合が良すぎると感じたからだ。
だがすぐに思い出す。
賭けに参加しているかしていないかは、結局のところ和食が勝手に決めつけたことなのだ。
本人の言葉を聞いたのはこれが初めてであり、単にそれが真実だったというだけのこと。
しかしそうなると新たに疑問が湧いて来る。
賭けに参加しない、なら分かるが、潰したいというのはどういうことなのか。
「潰せるわけないじゃん。いくらあんたが頑張ったって、相手は運動部の連中なんでしょ。勝てない勝てない」
「だからそんなの分かってるって。これまでもそうだったし」
「絵も球技大会も勉強も体育祭も、ぜ~んぶ届かなかったもんねぇ。勝てないと分かってて良くそんな努力できるよ。お姉ちゃんには信じられない」
「だって俺にはそれくらいしかできないし……」
「(お姉ちゃんだったんだ)」
仲睦まじく話している相手は家族だった。
その事実に和食の心を覆っていたもやもやがまた晴れたのであった。
「(というか、絵、球技大会、勉強、体育祭って、もしかしてこれまでの賭けも全部こんな風に裏で練習してたの?参加して無いのに?)」
もやもやが晴れはしたが、疑問はまだ解消されていない。
全く別の種類の理解不能というもやもやが心を覆っている。
「陰で努力するのが格好良いって思いたがる年頃なのは分かるけど、お姉ちゃん的にはこんだけやってるなら少しくらいはアピールしても良いと思うんだけどね」
「べ、別に中二病じゃねーし。それに好きでも無い奴にアピールされても嫌なだけだろ。そんなことしたらあいつらと同じじゃん」
「賭けるのとアピールは全く別だと思うけどね。まぁあんたがそれで良いなら強くは言わないけどさ」
自分の魅力を相手に知ってもらい好感度を上げたい。
そんなこともせずに、あるいはそんな権利すらも賭け事にするような不誠実さとは訳が違う。
実はそれこそが久浦の努力の理由だった。
「にしても、告白の権利を賭けるとか、あんたのクラスメイトってマジでキモいね。逆効果だって分からないなんてアホすぎるでしょ」
「ほんそれ。抜け駆け禁止とか、告る権利を賭けるとか、和食さんの気持ちを考えろ。ゲーム感覚で告白なんかされたら普通は嫌だし、断るのも精神的に疲れるだろうし、和食さんが凄い辛そうだ」
「(……………………え?)」
思考が、感情が、停止した。
久浦が何を言っているのか分からなかった。
何故なら、これまでほとんど話したこともない相手が、休み時間にいつも寝ていて接点なんてまるで無い相手が、自分の気持ちを理解して共感してくれていたのだから。
「じゃああんたが男子達を止めなって言いたいけど、それは悪手だからねぇ」
「ほんっと、女子の世界ってマジで意味分からん。和食さんが嫌われないように現状維持が一番だなんて信じられない」
「しゃーないよ。可愛い子ってのはいつの時代も嫉妬されるもんだからね。今のままなら賭けに参加している男子が地雷だって女子的に分かり易くて便利だし、しかもそんな気持ち悪い相手に告白ゲームの賞品扱いされて可哀想って状況が嫉妬心を抑えてるからね。止めちゃったら普通にちやほやされて女子からの扱いが悪くなる可能性があるかな」
「はぁ……可哀想すぎんだろ」
「だからって、せめて告白されないように賭けに参加しないでクラス一番になって賭けを潰すってのもお姉ちゃん的にはどうかと思うけどね」
「しょうがないだろ。そのくらいしか思いつかなかったんだし。せめて告白を断る労力くらいはなくしてやりたかったんだよ」
「(どう…………して…………)」
そこまでしてくれるのか。
勝てないと分かっていても、自分のために必死に練習してくれるのは何故なのか。
体が熱い。
心臓が破裂しそうな程に鳴っている。
力が入らず木にもたれかかってしまう。
「ふぅ、それじゃそろそろ再開するわ」
「頑張るねぇ。というかいつも頑張りすぎ。この前のテスト勝負の時、夜中にトイレに行ったらあんたの部屋まだ電気ついてたじゃん。しっかり寝てるの?」
「寝てる寝てる。足りない分は休み時間に寝てるから。あ、授業は集中して受けてるぞ」
「そこは疑ってないけど、そんなんじゃクラスメイトと疎遠になっちゃうでしょ」
「ありがたいことに、その辺は案外なんとかなってる」
「ふ~ん、そう」
休み時間に話をしなくとも、ペアになってくれる男子は幸いにも何人かいる。
その点は恵まれていると言えよう。
「もういっそのこと、あんたが告れば? 付き合っちゃえば万事解決じゃん」
「ば、ばば、馬鹿なこと言うなって! お、俺はそんなんじゃ!」
「それだけ焦ったらバレバレでしょ」
「(ああ……うう……)」
自分の気持ちに共感してくれて、自分を助けてくれようと不器用にあがく男の子が、自分のことを想ってくれているかもしれない。
それは彼女を賭けの対象として扱っている男子達とは比較にすらならないほどに彼女の心に響くことだった。
だがそれは今この瞬間にそうなったわけではない。
あくまでも元々の気持ちをより強めた結果になったにすぎない。
「だから違うって! 俺は和食さんの夢を応援したいだけなんだ!」
「応援?」
「(え!?)」
和食の夢。
その言葉を聞いて、和食の脳裏にある場面が浮かび上がる。
これまでに何度も何度も何度も何度も思い返した場面。
『すごーい。和食さんって料理すごい上手なんだね』
それは調理実習の時の事。
和食はチームの女子に料理を褒められ、自分の夢を口にした。
『あはは、ありがとう。私、夢があるから料理頑張って研究してるの』
『夢?研究?』
『うん。新しい料理を作りたい』
『新しい料理?ネットでオリジナル料理を公開したいの?』
『ううん。そういうのじゃなくて、ラーメンとか、ピザとか、麻婆豆腐とか、そういう名前がついて一般的に広く浸透するような料理を生み出すのが夢なの』
古くから伝わる多くの定番料理に加わる新たな何かを生み出したい。
あらゆる料理がネットを通じて生み出され続ける現代において、それはあまりにも困難な夢であろう。
『え~そんなの無理じゃない?』
『そうだよ。ネットに山ほど新しい料理あるけど、そんな風にならないじゃん』
『ちょっと料理が上手いだけじゃ……ねぇ?』
それが困難であることが簡単に分かるからこそ、クラスメイト達はその夢は叶わないと口にする。
そのこと自体、和食は特に嫌だと思わなかったし、自分でも荒唐無稽だと思っていたので受け流せていた。
しかし。
『すっげぇー!それ滅茶苦茶ロマンあるじゃん!』
ただ一人、和食の夢を否定しなかった人物がいた。
しかも目をキラキラさせて、本気で和食の夢を好意的に受け取っていた。
その言葉にどれだけ勇気を貰えたか。
その言葉がどれだけ嬉しかったか。
今日、久浦の姿を視界の端に捉えただけで、どうして彼だと分かったのか。
他人の空似ではなく本人であると何故確信を持てたのか。
それは彼女の心の深いところにすでに彼が居たからだった。
「あいつらのせいで和食さんがテンション下がってるみたいだから、夢を叶える邪魔をしないように少しでも応援したいってだけなの!そんだけ!じゃあ行くぞ!」
「あはは、行ってら。今日はお姉ちゃん暇だからもう少し付き合ってやんよ」
「ありがと!」
過去の想いと、今の想いが混ざり合い、和食がどうにかなってしまいそうな間に、久浦は走り出した。
和食の負担を少しでも軽くするために、勝てやしない勝負に勝つために、真面目に練習する。
「(久浦……くん……)」
料理の研究ノートが入っている鞄をぎゅっと抱き締め、和食はしばらくの間そこから動けなかった。
ーーーーーーーー
マラソン大会当日。
「いよっしゃー! 勝ったー!」
勝利したのは、サッカー部の男子、高峰だった。
決して自分だけが有利な種目にしたわけではなく、最後は激戦であり薄氷の勝利だった。
では久浦はどうなったのか。
「はぁっ!はぁっ!く、くそ……」
運動部に必死に喰らいつきはしたものの、最終的に突き放されて勝負にならなかった。
「おお、久浦頑張ったな。やるじゃん」
だが必死の練習の成果もあり、体育教師からの評価は高かった。
クラスメイトからの、普段は寝ているけれど授業では真面目に頑張るという評価も変わらない。
これまでと同じ。
裏でこっそりと頑張ったけれど、何も成し遂げられず、和食の夢をフォローすることも現状を変えることも出来ない。
このままでは和食は高峰に告白されることになる。
告白されるまでの間に、どうやって断れば良いのかを悶々と考え、夢の実現に向けての作業がこれまで以上に集中できなくなるだろう。
「くそ……」
どれだけ周りが久浦の努力を認めてくれても、自分自身が自分の事を認められない。
これまでと同じように、和食が苦しむところを指をくわえて眺めることしか出来ない。
このままではダメでは無いのか。
他に彼女を助ける方法は無いのだろうか。
これまで何度も考えたが答えは出ない。
走り終えた直後で酸欠で頭が回らない状態では猶更だ。
「あれ、和食さん?」
そんな中、高峰の声が聞こえて反射的にそちらを見た。
この学校のマラソン大会では女子が先に走り終わる。
体操服姿の和食がタオルを持って男子達の方にやってきた。
「もしかして俺の為にタオルを持って来てくれたのか!?」
そう喜ぶ高峰。
自分達の賭けのことを和食が知っていて、勝者を讃えるために来てくれた。
男子連中は自分達の賭けが公然の秘密となっていて和食にも伝わっていることに気付いていた。
その上で賭けを続けているのだから猶更タチが悪い。
しかもそんな自分が讃えてもらえるだなんて、あまりにも自分勝手な考え方。
もちろん和食がそんなことをするわけがない。
彼女は高峰の近くを素通りし、ある人物の元へと向かった。
「お疲れ様。頑張ったね」
「え?」
タオルを差し出された久浦は、突然のことにフリーズしてしまった。
酸素の足りない脳では、現状を受け止め切れない。
「汗が垂れちゃってるよ。拭かないと風邪ひいちゃう」
和食は久浦の顎の周りの汗をタオルで優しく拭き、そのタオルを首にかけてあげた。
「……あ、ありが、とう」
ようやく思考が再起動し、どうにかお礼を絞り出せた。
そして一度言葉を口にすると、次の言葉も出しやすかった。
「で、でもどうして?」
これまで全く関係の無かった単なるクラスメイトの自分に和食が優しくしてくれることがどうしても信じられなかった。
それは久浦だけでなく、和食のことが好きな男子連中がだらしなく口を開いたまま唖然として見ていた。
「私のために頑張ってくれてありがとう」
「え?」
何故バレたのか。
家族以外の誰にも言わなかった秘密が、あろうことか最も知られたくなかった本人に伝わっていた。
自分の努力の理由が和食のためであっただなど、恥ずかしくて知られたくなかったのに。
焦りかけた久浦だが、そうなる前に和食が追撃する。
「わ、わた、私、ね」
和食が、少しはにかみながら頬を染めて告げる。
「久浦君に、近くで夢を応援して欲しいです」
「…………」
「調理実習の時、久浦君だけ私の夢を応援してくれた。それが凄い嬉しくて、その時からずっと久浦君のことが気になってました」
「…………」
「わ、私と、付き合ってください!」
ドサっと何かが落ちる音がした。
男子達の一人が手に持っていた鞄が地面に落ちた音だった。
彼らが賭けなどしている間に、その賭けの対象は、自分の事を受け入れ、共感し、慮ってくれる相手を見つけていた。
己の愚かさによる当然の結末を知らせる音だった。
付き合っていない状態でチヤホヤされてしまえば女子達から反感を買う。
だが本気で恋をして付き合って他には芽が無いと周囲に知らしめればチヤホヤされなくなり女子からの反感も買いにくいだろう。
そんな策略があったわけではない。
ただ彼女が自分の気持ちの赴くままに行動したら偶然そうなっただけのこと。
果たして姉に対して自分の気持ちを誤魔化していた久浦の答えは……
「久浦君、今日の試作品どうかな?」
「うめー!超うめー!」
「あはは、久浦君ったらいつもそればっかり」
「だってマジでうめぇんだもん!」
毎日のように和食の新作料理を美味しそうに食べる久浦の様子を見れば明らかだった。
新しい料理ってずっと生まれて無いですよね。
それともタピオカドリンクとか、新作定番料理扱いになるのかな(笑




