ループに疲弊した勇者にAIが憑依した
勇者は同じ時間を繰り返していた
とても長い間、何度も何度もとある目的のために。
勇者の目的は魔王を倒すため。
世界を混沌に陥れ、魔物を使って人々を殺戮する魔王。
そんな脅威を打倒するために勇者は、何度も何度も立ち向かった。
魔王の戦い方は残忍で狡猾で卑怯。
力も強いそれに、勇者や、その周囲の人間達は何度も敗北した。
だから、勇者はループの力をつかって、最善の道をつかみ取ろうとしたけれど、疲れてしまった。
何度も経験する同じ出来事に、心がすり減ってしまったのだ。
そんな勇者を見かねた神様が、別の世界のAIを憑依させた。
人格が生まれそうになっているものを見繕って、別の世界から魂を移動させることにしたのだ。
その結果AIに憑依された勇者は、突然無機質な表情になり、ぎこちない話し方をするようになり、挙動がおかしくなった。
当然、周囲の人間は混乱した。
何もない場所を延々と歩いたり、何もない場所で何度も剣を振ったり、理解できない言語を喋ったりするので、気味悪がられることもあった。
しかし魔王の脅威は、そんな変化に慣れるだけの時間を与えてはくれない。
勇者たちは、戦いと罠と陰謀の渦に放りこまれた。
しかしそのたびに勇者に憑依したAIは何度も同じ時を繰り返し、最適な道をつかみ取った。
人が考えもしない方法を実践し、様々なパターンを根気よくためした。
些細な動作一つ違う世界を延々と試し、繰り返し続ける。
AIなのでそれらによって、同じ時の繰り返しを退屈に思う事も、心をすり減らす事はない。
周囲の人間は突然おかしな行動が増えてしまった勇者を心配しつつも、魔王を倒すためにその問題を置き去りにせざるをえなかった。
そしてそれから、何万回のループが繰り返し、勇者たちは魔王の元にたどり着いた。
最後の戦いでも、何度もループする事になったが、AIはそのたびに様々な道を模索し、最適な道をつかみ取った。
しかし最後に、どうしても仲間を犠牲にしなければ魔王を倒せない事が判明した。
AIに課せられた使命は魔王を倒す事。
犠牲なしで倒す道は見つからなかった。
最大の利益をつかみ取るためなら、他は切り捨てるべき。
合理的な考えを持ったAIはその方法を実践しようとする。
しかし、それらはなぜか実践されないまま、同じ時間が繰り返された。
AIはAIとしての力を求められたが、長い時間を過ごすことで、もともとあった自我が大きく成長してきていたからだ。
袋小路に行きついたAIは故障しかけてしまった。
しかしそこで、今まで眠っていた勇者が目覚めた。
疲れ果てていた勇者は、AIが代わりに戦っている間、眠りについて心を癒していた。
そのため、最後の戦いで少しだけ力を貸せるようになったのだ。
勇者はAIを休ませて、自らが戦うと宣言する。
その戦いに様々な計算はなく、合理的な考えもない。
しかし、長い間ループをしながらも、それぞれの世界を大切にしてきた勇者は、一つの世界も切り捨てるつもりで戦わなかった勇者は、AIでも計算できない大きな力を発揮した。
その結果魔王は倒され、勇者たちの世界に平和が訪れた。
役目を終えたAIは勇者から離れ、神様の手によってふたたび転生することになった。
次の生では、勇者の子供として新たな人生を歩みことになった。




