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三つの国、四つの声  作者: はまゆう


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第1話 「独裁者」か「保護者」か

1. イスラエル — シモン(退役兵士)


「また、“解放者”と呼ばれている。」


テレビの画面には、黒いマントを着た老人が映っていた。

イスラエルのニュースは、彼を「テロの指導者」と呼ぶ。

「私たちにとっては、ただの独裁者だ。」


シモンは、退役兵士として、三十年以上この国を守ってきた。

彼の人生の大半は、ガザやレバノンの境界線で過ごしてきた。

「三年前に、俺の息子がガザの壁の向こうで撃たれた。ロケットの破片だった。」


彼の手は、テレビのリモコンを握りしめていた。

「ハメネイ師は、息子を殺したものの背後で、微笑んでる。」


彼は、歯を食いしばった。

「あいつは、“イスラエルを砕く”って言うけど、私たちにとっては、私たちの子供を殺す敵だ。」


彼は、その言葉を、胸の奥底から引きずり出した。

「俺たちが、怒りをぶつけるべき相手は、彼かもしれない。」


彼は、静かに呟いた。

「もし、俺たちが、息子を失った日に、彼を目の前にしたら……きっと、俺は、彼を“独裁者”と呼ばない。殺す。」


***


2. ガザ — アミーラ(母)


「テレビで、“救い主”と呼ばれている。」


ガザの崩れた屋根の下で、アミーラは、ガソリンストーブに小さな鍋を乗せていた。

三歳の息子セイドが、彼女の足にすがりついた。

彼女は、テレビの声を聞きながら、唾を飲み込んだ。


「また、ミサイルが飛んでくる日が始まる。」


「『イスラエルを砕く』って言ってる。でも、私たちの家も、砕かれていく。」


彼女の顔は、疲れていた。

「イスラエルの銃は、私たちを撃つ。イランのミサイルは、イスラエルを撃つ。でも、その火は、私たちの上にも落ちてくる。」


彼女は、遠くの空を見上げた。

「ハメネイ師?彼は、私たちのことを見てるのかな?」


彼女の瞼の裏には、弟の姿が浮かんでいた。

彼は、ガザの抗議デモで、イスラエルの銃撃を受けた。

「その直後、ハメネイ師が、“イスラエルを砕く”ってテレビで言った。」


彼女は、その言葉を、希望だと信じた時期もあった。

でも、今は違う。

「彼も、私たちの痛みを、政治の道具に使ってるよ、きっと。」


彼女は、静かに呟いた。

「彼は、私たちの“解放者”と言うけど、私たちにとっては、あんまり、救い主じゃない。」


彼女は、セイドの頭を抱いた。

「私たちにとっては、あんたら、誰も、救い主じゃない。」


***


3. イラン — ハサン(宗教学校の僧侶)


「彼は、私たちの盾だ。」


ハサンは、イランの宗教学校で、一日の祈りを終えた。

彼の部屋の壁には、黒いマントを着た老人の写真が、静かに飾られていた。


「彼は、俺の兄が尊敬した人物だ。」


兄は、十年前、イスラエルとの戦いを報道する宗教ビデオを持っていた。

兄は、米軍の空爆で、命を落とした。

「兄は言ったよ。『イスラエルは、私たちの敵だ。そして、ハメネイ師は、私たちの守り神だ。』って。」


彼は、その写真を見つめた。

「ハメネイ師は、イスラエルに対して、“イスラム世界の正義を代弁する”って言った。」


彼は、テレビの映像を思い出した。

「イスラエルへのミサイル攻撃を、“合法で正当な防衛”と呼んだ。」


彼は、目を閉じた。

「私たちにとって、米国やイスラエルの支配から、自分たちを守らなければならない。」


彼は、静かに手を合わせた。

「ハメネイ師は、私たちの未来を守るための、神の意志を代弁する人だ。」


彼は、その老人の影を、神の光のように見ていた。

「彼がいなけりゃ、私たちが、どこに向かって、怒りをぶつけるのか、わからない。」


***


4. イラン — マリカ(大学教授)


「私たちの影は、彼の声だ。」


マリカは、イランの大学の控室の椅子に腰を下ろしていた。

彼女の机の上には、ハメネイ師の写真が、新聞の一面に大きく掲載されていた。

「彼は、私たちの“保護者”と呼ばれる。でも、私たちにとっては、私たちを縛る鎖だ。」


彼女は、静かに、その写真を指でなぞった。

「彼は、私たちの声を締め付けている。」


彼女の生徒たちの中には、民主化を求めるデモに参加した者がいた。

その中の一人は、拘束された。

「彼は、私たちの声を“反乱”と呼ぶ。」


彼女は、テレビの音を聞いた。

「ハメネイ師が、“イスラエルを砕く”って言ってる。」


彼女は、その言葉に、静かに笑った。

「彼は、イスラエルの独裁者を非難するくせに、私たちの独裁者でもある。」


彼女は、机の引き出しを開け、古いノートを取り出した。

そのノートには、彼女の夫が書いた一文が、まだ残っていた。

「『私たちが、米国とイスラエルの支配に抗う。でも、私たちの国が、私たち自身の支配に変わったら、それは、私たちの負けだ。』」


彼女は、その文章を指でなぞった。

「ハメネイ師は、私たちの未来を守るためと言う。でも、私たちの自由を奪っている。」


彼女は、静かに独り言を言った。

「彼は、私たちを“解放者”と呼ぶけど、私たちにとっては、私たち自身の自由を奪う独裁者だ。」


彼女は、窓の外を見た。

夜の街が、静かに光を灯していた。

「私たちが、いつか、彼の影を、私たち自身の声で消したい。」

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