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不滅の令嬢と終わりある楽園  作者: 慈架太子


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第2章:覚醒する戦女神と不滅の軍勢



すると、どうだろう。 ソフィアの掌の上に、小さな、頼りなげな火が灯った。それは彼女自身の魔力を消費して燃えているのではなく、周囲の大気と共鳴して輝いている。 「できました……! ほとんど魔力を使っていないのに、消えませんわ!」


続いて、精密な魔力制御に長けたエルナ、執念深く魔力を練り上げたリリアナ、そしてセレナとセラフィナも、次々とそのコツを掴み始めた。 彼女たちの手元に、五つの小さな火が灯る。それは、これまでの魔法体系を捨て去り、フランクが言う「世界と繋がる」技術の第一歩を踏み出した証だった。


フランクはそれを見て、満足げに頷いた。 「いい筋だ。火が灯ったなら、次はそれを維持しながら、自分の中の魔力を循環させろ。コップを空にするな。常に外から取り込み、外へ流す。アンタたちの召喚術や傀儡術にこれを応用すれば、魔力切れなんて概念は過去のものになるぜ」


朝日に照らされた五人の掌で揺れる火は、彼女たちの新しい人生を照らす灯火のようだった。フランクという謎の男から授けられたこの小さな火玉が、やがて世界を震撼させる絶大な力へと育っていくことを、彼女たちはまだ知らない。






「火」の感覚を掴んだ五人に対し、フランクは一切の妥協を許さなかった。彼は朝日を背に、流れるような動作で次々と異なる属性の極意を示していく。


「どんどんいくぞ。――水」 フランクの手のひらに、水晶のような球体が出現した。それは周囲の湿気を瞬時に凝集させたもので、彼の魔力を消費している様子はない。ソフィアがそれに応じ、空中の水分と対話するように指を動かすと、清らかな水玉が彼女の周囲を踊るように回り始めた。


「次は風だ。――風」 フランクが軽く指を弾くと、無色透明の旋風が彼を中心に巻き起こり、荒野の砂塵を綺麗に押し流した。大魔導士の娘セレナは、その「効率」の良さに震えた。無駄な詠唱を省き、大気の流れをわずかな魔力で「誘導」するだけで、これほど鋭い真空波が生まれる。セレナの周囲にも、やがて鋭利な風の刃が形成されていく。


「――土」 男が地面を軽く踏みしめると、土壌が意志を持ったかのように隆起し、精巧な盾となった。傀儡師のエルナは、その土の粒子一つ一つに魔力を通わせる感覚を鋭敏に感じ取った。自らの糸で操るのではなく、土そのものに「動け」と命じる。その瞬間、彼女の足元からも頑強な土の戦士が形を成した。


「――光、そして闇」 フランクの左右の手に、相反する二つの輝きが宿った。右にはセラフィナが心酔する聖なる光、左にはリリアナが背負う深淵の闇。 「光も闇も、世界の裏表に過ぎない。どちらかを恐れるな、どちらかに溺れるな。ただ、そこにあるものとして引き込め」 リリアナとセラフィナは、互いに視線を交わした。差別され悩んできた闇と、崇められてきた光。その両方がフランクの手の中で等しく「技術」として扱われている。二人は同時に手を掲げ、光の粒子と闇の霧を自らの魔力回路へと等しく滑り込ませていった。


「――雷。そして、重力」 フランクの全身を激しい紫電が駆け抜け、次の瞬間、周囲の空間がミリミリと音を立てて歪んだ。重力の干渉。五人の令嬢たちは、そのあまりの魔圧に圧倒されそうになる。だが、フランクの教えは一貫していた。 「耐えるんじゃない。その重力の中に自分を溶かせ。雷の速度に自分の意識を合わせろ」


五人は必死に食らいついた。火、水、風、土、光、闇、雷、そして重力。通常であれば一生をかけて一つの属性を極めるのが魔導士の常識だ。しかし、フランクが教える「湖から水を引く」方法は、属性という壁さえも突き崩していく。


全属性の魔力が荒野に渦巻き、五人の令嬢たちの周囲には、虹色とも混沌ともつかない絶大な魔力のオーラが立ち昇っていた。彼女たちの表情からは、もはや名門の令嬢としての甘さは消え、真の「真理を追う者」としての鋭さが宿り始めていた。


「……信じられませんわ。全属性をこれほど短時間で、しかも疲れを感じるどころか、体が軽くなっていくなんて」 セレナが驚愕と共に呟く。フランクは、嵐のような魔力の中心で平然と立ち、彼女たちを見据えていた。


「これで『蛇口の開け方』は教えた。次は、アンタたちの本業……召喚と傀儡に、この無限の魔力を繋ぐぞ。準備はいいかい?」


その問いに、五人は力強く頷いた。彼女たちの背後には、先ほどフランクが作った三体の土の女戦士が、新たな主の命令を待つように静かに佇んでいた。







フランクの言葉は、まるで彼女たちの可能性を言い当てる予言のようだった。 「これでみんなは八属性の魔法使いと付与術士になった。……さあ、みんなそれぞれ十体くらい召喚してくれるかい? エルナは、そこの三体を操ってくれるかい?」


五人の令嬢たちは、互いに目を見合わせた。これほどの多重召喚・使役は、これまでの彼女たちでは不可能だった。魔力枯渇の危険を冒さず、さらに属性の壁をも超えて。しかし、フランクから教わった「世界から魔力を導く」術が、その常識を打ち破ろうとしていた。


まず、大魔導士の娘セレナが大きく息を吸い込んだ。彼女の瞳に力が宿る。 「我が名、セレナが命じる! 来たれ、地を穿つ巨人! 炎を纏う戦士! 空を舞う鷲獅子よ!」 彼女が指を振るごとに、大地が揺れ、空気が震え、そして空間が歪んだ。一体一体が強力な精霊や幻獣であるにもかかわらず、次々と十体の召喚獣が、まるで泉から湧き出るように現世に具現化していく。その全てが、セレナの魔力ではなく、周囲の世界から供給される無限の力で維持されている。


続いて、ソフィアが優雅に、だが力強く手を掲げた。 「我が友よ、集い給え! 聖獣グリフィン、剛竜ワイバーン、そして森の守護精霊たちよ!」 彼女の清らかな呼び声に応じ、天空から翼持つ神獣が舞い降り、大地からは苔むした精霊たちが姿を現す。十体の従魔たちは、ソフィアの愛と、そしてフランクの教えによって強化された世界からの魔力に満たされ、かつてないほどに力強い輝きを放っていた。


リリアナは、どこか楽しそうに口元を歪めた。 「死を恐れぬ者たちよ、我が命令を聞け! 骸骨の軍勢、彷徨う怨霊、そして死せる騎士団よ、再びこの地に集え!」 彼女が腕を振り下ろすと、大地が裂け、無数の骸骨兵が這い上がり、空間には透明な怨霊が蠢いた。これまでなら、たった一体のアンデッドを召喚するだけでも重い代償を払ったというのに、十体もの死者が、彼女の周囲に完璧な陣形を敷いて現れた。


そして、セラフィナが神聖な光を纏い、天へと祈りを捧げる。 「聖なる御使いよ、ここに降臨せよ! 天使ガブリエル、ミカエル、ラファエル……そして祝福の天使たちよ!」 彼女の祈りに呼応し、天空から十体の天使たちが舞い降りた。下位の能天使から、翼を持つ高位の熾天使まで、その全てがセラフィナの呼び声に瞬時に応じる。彼らは、世界からの聖なる魔力を纏い、その光は大地を浄化するかのようだった。


最後に、エルナがフランクの作った三体の女戦士型ゴーレムへと視線を向けた。彼女は、もはや糸など必要としない。 「我が意志よ、届け! 大地の戦乙女たちよ、今こそ目覚め、我が剣となれ!」 エルナが強く念じると、三体の巨大なゴーレムの瞳に、鈍い光が灯った。彼女の魔力が、世界からの無限の魔力と融合し、ゴーレムたちの核へと直接流れ込んでいく。土の体はより密度を増し、まるで生きているかのように滑らかな動きを見せ始めた。


荒野には、セレナの幻獣、ソフィアの従魔、リリアナのアンデッド、セラフィナの天使、そしてエルナのゴーレムたちが、総勢五十体を超える大軍勢となってひしめき合っていた。その全てが、まるで五人の手足であるかのように、完全な制御下に置かれている。


フランクは、その圧倒的な光景を満足げに見つめていた。 「いいぞ。これでアンタたちは、真の力の一端に触れた。この世界に、君たちを止められるものはもういないだろうな」


彼の言葉は、彼女たちの未来を約束する、揺るぎない確信に満ちていた。



荒野の朝日に照らされ、五十体を超える召喚獣と三体の巨大なゴーレムが整然と並ぶ光景は圧巻の一言だった。フランクは、その壮大な軍勢を見渡しながら、さらに一段階上の技術を彼女たちに促した。


「次は付与術だ。身体強化『アクセル』、筋肉強化『マッスル』。それを、自分たちの召喚獣それぞれに付与してみてくれ」


五人の娘たちは息を呑んだ。本来、これほど多人数の召喚獣を維持するだけでも魔導士としては極限の状態だ。そこに、一体ずつ個別に強化魔法を上書きするなど、計算上は不可能に近い。だが、フランクから授かった「世界から魔力を導く」術があれば、その常識すらも塗り替えられる。


「いきますわよ……『アクセル』! そして『マッスル』!」 大魔導士の娘セレナが先陣を切った。彼女が掌を広げると、召喚した十体の幻獣たちの足元に、加速を意味する風の紋章が刻まれ、その肉体は爆発的に膨れ上がった。幻獣たちの周囲の空気が、その圧倒的な質量と熱量によって陽炎のように揺らめく。


続いて、ソフィアも愛する従魔たちに手をかざした。 「みんな、もっと強く、もっと速く……! 『アクセル』『マッスル』!」 彼女の博愛に満ちた魔力が、聖獣やドラゴンの全身を巡る。神獣たちの翼はより鋭く、その四肢は鋼鉄のごとき硬度へと変貌を遂げた。彼女の優しさという「正義」を貫くための、絶対的な力がそこに具現化する。


リリアナとセラフィナも、それぞれの死霊騎士と天使たちに強化を施していった。 「死してなお、その力を増しなさい……」 リリアナの言葉に応じ、骨だけのスケルトンたちが「マッスル」の効果で不可視の魔力の肉を纏い、凄まじい威圧感を放ち始める。対照的に、セラフィナの天使たちは「アクセル」によって光の残像を残すほどの超高速移動能力を手に入れた。


そしてエルナは、三体の女戦士型ゴーレムに意識を集中させた。 「大地の戦乙女たち、限界を超えなさい!」 土魔法で作られたはずのゴーレムたちの表面が、付与術によって鈍い金属のような光沢を放ち始めた。三メートルの巨体が「アクセル」によって俊敏さを得、「マッスル」によって一撃で城門をも粉砕する破壊力を宿す。エルナはその指先で、かつてないほど力強い命の鼓動を土の体から感じ取っていた。


五十体以上の軍勢が、一斉に強化を完了させたその瞬間、荒野の空気が一変した。単なる数の暴力ではない。一体一体が、一国の軍隊を壊滅させかねないほどに研ぎ澄まされた「戦略兵器」へと変貌していた。


フランクは腕を組み、満足げに鼻を鳴らした。 「いいぜ。維持に必要な魔力は、世界から勝手に流れ込んでくる。アンタたちは、その手綱を握り続けるだけでいい。これこそが、俺の教える『不滅の軍勢』だ」


五人の令嬢たちの瞳には、もはや自身の属性や出自に対する迷いはなかった。光も闇も、生も死も。全てを等しく強化し、正義のために振るう。彼女たちは、かつてない万能感と、それを支えるフランクへの揺るぎない信頼を胸に、最強の軍勢を従えて立ち上がった。




「次は三次元だ。空も飛んでみるかい?」


フランクの声は、どこまでも平坦で、それでいて有無を言わせぬ響きを持っていた。彼は軽く指を上に向けると、重力から解き放たれたかのように、その場から数センチほど音もなく浮き上がってみせた。


「『レビテーション』。そして、ただ浮くだけじゃ話にならない。それぞれの召喚獣に風魔法を纏わせてみろ。それが推進力になり、防壁になり、攻撃にもなる」


五人の令嬢たちは、息を呑みながらも、すでにフランクへの全幅の信頼を胸に、新たな魔法の構築に取り掛かっていた。彼女たちにとって、空中戦は魔力の消費が激しすぎる禁忌に近い領域だったが、今の彼女たちに「底」という概念はない。


「いきますわよ! 全軍、浮遊レビテーション!」 セレナが叫ぶと、彼女が率いる十体の幻獣たちの足元に、淡い青白き光の環が浮かび上がった。巨体を誇る鷲獅子グリフォンだけでなく、地を這うはずの巨人も、重力の鎖を断ち切られたように軽やかに宙へと舞い上がる。


「みんな、風を纏って! 嵐の盾で身を守るのです!」 ソフィアの指示に応じ、精霊たちが周囲の空気を猛烈に引き寄せ、召喚獣たちの周りに不可視の旋風の鎧を形成した。それは空を駆けるためのエンジンであると同時に、放たれる矢や魔法を弾き飛ばす「風の防壁」へと変わる。


リリアナの死霊騎士たちは、黒い霧のような風を纏いながら、無重力空間を滑るように進み、セラフィナの天使たちは、光の翼を風の魔力でさらに巨大化させ、天の軍勢としての威容を完成させた。


そしてエルナは、三体の女戦士型ゴーレムに集中する。 「土の娘たちよ、風の翼を手に入れなさい!」 重厚な土の体に、鋭い風の刃が渦巻く。三メートルの巨躯が、まるで羽毛のように軽快に、かつ弾丸のような速度で宙を自在に駆け巡る。エルナの指先は、もはや実体のない糸を超え、空間そのものを操るかのように繊細に舞った。


荒野の空は、五十体を超える「空飛ぶ軍勢」によって埋め尽くされた。火を吹き、光を放ち、風を纏って縦横無尽に旋回するその姿は、地上から見れば神々の戦列にも見えただろう。


フランクは地上に立ち、空を覆う自らの弟子たちの軍勢を見上げ、低く笑った。 「悪くない。上下左右、死角はなくなった。付与エンチャントした風が、アンタたちの翼だ。魔力は世界から無限に汲み上げ続けろ。……さあ、空を支配した気分はどうだい?」


五人の令嬢は、雲を突き抜けんばかりの高度から、眼下に広がる世界を見下ろした。かつて自分たちを縛り、差別し、追い詰めてきた地上のしがらみが、今はあまりに小さく見える。無限の魔力と、空を駆ける自由。彼女たちは、フランクという男の手によって、もはや人間という枠組みを超えた、真の「守護者」へと至ろうとしていた。


その時、北の空が不吉な漆黒に染まり始めた。三千の魔物を駒として捨てた「主」が、この異常な光景を察知し、ついにその姿を現そうとしていた。





「回復魔法もいるわな。……みんな、俺の真似をしてくれ」


フランクはそう言うと、足元に転がっていた鋭い瓦礫を拾い、自らの手のひらを迷いなく切り裂いた。鮮血が滴り落ちる光景に、令嬢たちは悲鳴に近い声を上げる。だが、フランクは動じない。


「いいか、自分の中の魔力を削って埋めるんじゃない。そんなことをすれば、癒やす側が先に倒れる。……そうじゃない。世界に満ちている『生命のオリ』を引き寄せて、傷口という欠落に流し込むんだ」


フランクが傷口に手をかざすと、周囲の大気から淡い琥珀色の光が収束し、傷を一瞬で塞いでしまった。


「……信じられませんわ」 セラフィナが震える指先で、その治癒の跡をなぞる。神官の娘である彼女にとって、治癒とは神への祈りと多大な代価を伴う聖業だった。しかし、フランクの手法はあまりに合理的で、かつ慈悲深かった。


「やってみろ。まずは自分、次に隣の奴、最後に召喚獣だ」


五人はフランクの動きを必死に追った。 博愛主義のソフィアが、最も早くその本質を捉える。彼女が掌を広げると、戦場の荒野にわずかに残っていた植物の息吹や大気の活力が、温かな光となって集まってきた。 「癒えなさい……」 その光が上空の召喚獣たちに降り注ぐと、激戦で欠けていた鱗や、破れていた翼の膜が、目に見える速さで再生していく。


リリアナは死霊術師としての視点から、この術の本質を見抜いた。 「死を遠ざけるのではなく、生を呼び込む……。これをアンデッドに施せば、彼らは崩れることのない不変の兵士になりますわ」


エルナもまた、土のゴーレムのひび割れにこの光を流し込む。無機物であるはずの土が、まるで細胞分裂を繰り返す生き物のように増殖し、傷を埋めていく。


「いいぜ、その感覚だ。付与エンチャントした『アクセル』や『マッスル』と同じように、この『再生リジェネ』を常時発動させておけ。そうすれば、アンタたちの軍勢は、戦えば戦うほどに輝きを増す」


空を埋め尽くす五十体以上の軍勢が、今や黄金の癒やしの光を纏い、神々しいまでの威容を誇っている。魔力は無限、速度は疾風、そして傷を負った瞬間に完治する。


フランクは満足げに腕を組み、北の空を見据えた。 「これで、死ぬ理由はなくなった。……さあ、準備はいいか。お嬢様方の『正義』ってやつを、あの黒雲の向こう側に叩き込んでやろうじゃないか」


五人の娘たちは、それぞれの召喚獣の背に乗り、あるいはゴーレムの肩に立ち、決然と空を見上げた。彼女たちの瞳には、もはや不安も迷いもない。ただ、自分たちを導いてくれたこの男と共に、真の正義を成すという確信だけが宿っていた。






「最後に、とっておきの弾丸バレットを授ける。――ホーリーバレット、ヒールバレット、ピュリフィケーションバレットだ」


フランクは空中に向けて指を三度、弾いた。その指先から放たれたのは、先ほど彼女たちの魔力を満たしたあの光弾だった。しかし、今度は色が違う。白銀に輝く「聖」、温かな琥珀色の「癒」、そして透き通るような青の「浄化」。三つの光弾はフランクの周囲を旋回し、意志を持っているかのように五人の令嬢たちの前に整列した。


「いいか、これは攻撃魔法じゃない。対象を『撃ち抜く』ことで効果を強制的に浸透させる支援の極致だ。召喚士や傀儡師は、後ろで見てるだけじゃ務まらない。使役している連中に、この弾丸を撃ち込んでサポートしろ」


フランクの指導は、いよいよ一兵卒から「指揮官」としての戦い方へと移っていた。


「ホーリーバレットは魔力と聖属性の充填だ。これ一発で、召喚獣の攻撃に神罰の威力を上乗せできる。ヒールバレットは遠距離からの瞬間治癒。そしてピュリフィケーションバレットは……あらゆる状態異常や呪い、毒を、その瞬間に焼き払う『浄化』の弾だ」


五人は、自らの指先に意識を集中させた。これまでの彼女たちは、後方から魔力を送り続ける「供給源」でしかなかった。しかし、この「バレット」の術を覚えれば、前線で戦う召喚獣や人形たちの状況を瞬時に判断し、狙撃手のように戦況をコントロールできる。


「いきますわ……ホーリーバレット!」 セレナが指を指し示すと、上空を舞うドラゴンの眉間に白銀の光弾が吸い込まれた。その瞬間、ドラゴンの吐息ブレスが凄まじい神聖な光を帯び、夜の闇を昼間のように照らし出す。


「癒えなさい……ヒールバレット!」 ソフィアが放った琥珀色の光は、森の精霊たちの傷を癒やすだけでなく、その活力を限界以上に引き上げた。エルナは三体の女戦士ゴーレムの背中に向けて、正確にバレットを撃ち込み、彼女たちの機動力を底上げしていく。


リリアナとセラフィナも、闇と光という相反する力を制御し、この「バレット」を自らのものにしていった。特にピュリフィケーションバレットの輝きは、闇属性で差別されてきたリリアナにとって、己の魂をも洗い流すような清涼な感触をもたらした。


「……これなら、どんな窮地にあっても、仲間を救えますわ」 セラフィナが感極まったように呟く。フランクは、彼女たちの指先に宿る三色の光を見つめ、静かに頷いた。


「これで全部だ。無限の魔力、全属性の支配、不滅の軍勢、そして仲間を支える弾丸。……アンタたちはもう、ただのお嬢様じゃない。この世界の理を変える、五人の『戦女神』だ」


フランクは、北の空から迫る巨大な邪悪な気配を、もはや脅威とは見ていなかった。それは、新しく生まれ変わった彼女たちの力を試すための、ただの「的」に過ぎない。


「さあ、空いた口が塞がらねえような、ド派手な勝利を飾ってこいよ」


五人は空飛ぶ軍勢とともに、光の尾を引いて黒雲へと突っ込んでいった。指先には不滅の弾丸を、背中には無限の翼を。彼女たちの正義が、今、空前絶後の輝きを放とうとしていた。




朝の光が荒野を白く染め上げ、五人の令嬢たちの周囲に渦巻いていた絶大な魔力の奔流が、ようやく穏やかな微光へと落ち着いていった。空を埋め尽くす五十体の軍勢は、不滅の加護を得て静かに浮遊し、彼女たちの背後には三体の女戦士ゴーレムが、大剣を携えて不動の姿勢で控えている。


静寂が戻った戦場。フランクは焚き火の跡を土魔法で消しながら、腰に手を当てて振り返った。その灰色の瞳には、短時間で「世界の理」を塗り替えてみせた教え子たちへの、わずかな興味が混じっている。


「どうだい? 感想は?」


その問いかけに、五人は一様に自らの掌を見つめた。これまで彼女たちが必死に守り、磨き、時にはその重圧に押し潰されそうになっていた「才能」という名のコップが、今はもう存在しない。代わりに、世界という無限の海と直接繋がった、底知れぬ導管が自分たちの内に通っているのを感じていた。


「……まるで、自分が世界そのものになったような気分ですわ」 最初に口を開いたのは、大魔導士の娘セレナだった。彼女の瞳からは、かつての傲慢さや焦りが消え、万象を見渡すような静かな知性が宿っている。「魔力が尽きる恐怖から解放されることが、これほどまでに視界を広げてくれるなんて……。私、自分がどれほど狭い場所で魔法を考えていたのか、ようやく理解できました」


ソフィアは、傍らに降り立った聖獣の首筋を優しく撫でた。 「私は、ただ嬉しいのです。大好きな彼らを、もう傷つかせない。魔力が足りなくて消えてしまうこともない。この温かな光が、どこまでも届くという確信……。フランクさん、これが本当の『愛』を貫くための力なのですね」


エルナとリリアナは、互いに視線を交わし、力強く頷き合った。 「属性が闇だからと、心を閉ざしていたのが嘘のようです。光も、癒やしも、この指先から放たれる弾丸バレットも、すべてはただの『技術』。私を縛っていた差別の鎖を、私自身の力で断ち切れる……そんな希望を感じています」とエルナが言えば、リリアナもまた「死者を使役することを不吉と笑う者たちに、この不滅の正義を見せてやりたい。今はただ、その高揚感で胸がいっぱいですわ」と、不敵に微笑んだ。


最後に、セラフィナが天を仰ぎ、深く息を吐いた。 「祈りとは、ただ待つことではない。この手で光を掴み、届けること。フランクさんに教わったこの力は、神の慈悲そのもののように感じます。私たちはもう、ただ守られるだけのお嬢様ではありません」


五人の言葉を黙って聞いていたフランクは、鼻を鳴らして少しだけ口角を上げた。


「……満足したなら結構だ。だが忘れるな、力が大きければそれだけ『正義』の重さも増す。アンタたちの博愛が、ただの独りよがりにならないように、その力を振るいな」


男はそう言うと、何事もなかったかのように歩き出した。五人の令嬢たちは、最強の軍勢を従え、その背中を追う。彼女たちの物語は、この荒野での「食事」と「授業」を経て、今、真の幕を開けたのだ。





朝の光が完全に荒野を包み込み、黄金色の粒子が舞う中で、フランクは五人の令嬢たちを見渡した。彼女たちが従える軍勢は、もはや一つの生態系のように完璧な調和を保ち、静かに、だが圧倒的な圧力を周囲に放っている。


「あんたたちはもう無敵だ」


フランクの声は、確信に満ちていた。


「元の家系に伝わる力と、俺が授けた世界の理を組み合わせれば、無限に魔法を作り出せる。火を風で練り、光を重力で圧縮し、死者の肉体に聖なる再生を付与する……。組み合わせは無限だ。魔力切れの心配もない、怪我をしても瞬時に治る。お嬢様方の遊びは、たった今終わったんだ」


五人は自らの内に流れる、尽きることのない魔力の奔流を感じながら、その言葉の重みを噛み締めていた。これまでの彼女たちは、家名や属性という「箱」の中に閉じ込められていた。しかし今は、その箱を自らの手で壊し、広大な世界そのものと繋がっている。


フランクは焚き火の最後の一片を土に還すと、ふと問いかけた。


「……で、これからのみんなはどうするんだ? 属性も身分も違う五人が偶然出会って、これだけの力を手に入れた。これから先も、一緒に活動するのかい?」


その問いに、五人は一瞬だけ黙り込み、互いの顔を見つめ合った。 辺境で精霊と生きてきたソフィア、人形に魂を吹き込むエルナ、死者の尊厳を守るリリアナ、天の光を届けるセラフィナ、そして万象を喚び出すセレナ。


「迷うまでもありませんわ」 最初に口を開いたのはセレナだった。彼女は召喚した神竜の首筋を誇らしげに叩き、仲間たちを、そしてフランクを見据えた。 「この力は、一人で抱えるにはあまりに強大すぎます。そして、私たちが目指す『正義』は、五人が揃ってこそ、本当の意味で完成するのだと気づきました」


ソフィアが柔らかな微笑みを湛えて一歩前に出る。 「光も闇も、生も死も、すべてはこの世界を構成する愛すべき断片です。それらを等しく慈しむために、私たちは手を取り合うべきだと思いました。フランクさんが、私たちを繋いでくださったように」


リリアナとエルナは、かつて差別の中で感じていた孤独を、今は隣にいる仲間の温もりで上書きしていた。セラフィナは祈りの手をほどき、その掌を仲間たちへと向けた。


「私たちは、新しい形の『正義』を世界に示すべきです。属性や出自で人を分かつのではなく、その力が何のためにあるのかを。私たちは、五人で一つの『不滅の翼』となりますわ」


五人の決意は、揺るぎない一つの意志となって荒野に響いた。フランクはそれを聞き、満足そうに鼻を鳴らした。


「……ならいい。アンタたちなら、この腐りかけた世界の仕組みを、根っこから引っくり返せるだろうよ。せいぜい派手に暴れてこい」


男はそう言うと、背を向けて歩き出した。その足取りは軽く、まるで最初から何もなかったかのように風の中に消えていきそうだった。しかし、彼女たちの指先に宿る「バレット」の感触と、空を埋める軍勢の羽ばたきが、これが夢ではないことを証明していた。


五人の「戦女神」たちの伝説は、この名もなき荒野から、今まさに、無限の空へと書き記されようとしていた。




五人の「戦女神」たちが最初に向かったのは、聖なる名を騙りながら裏で私腹を肥やし、力なき民を「浄化」の名の下に虐げていた悪徳宗教の総本山であった。


豪華絢爛な大聖堂の前に降り立った五人の姿は、もはやお嬢様のそれではない。空を埋め尽くす五十体以上の不滅の軍勢が太陽を遮り、地上には三体の女戦士ゴーレムが地響きを立てて進軍する。


「神の裁きを受けよ!」 大聖堂の門から飛び出してきた武装神官たちに対し、セラフィナが静かに指を指し示した。 「偽りの光で目を曇らせる者たちに、真の天の輝きを。――ピュリフィケーションバレット!」 放たれた浄化の弾丸は、神官たちの武器を粉砕し、彼らが民から奪った魔力回路を強制的に封印した。殺生を好まない彼女たちの「正義」は、まず悪の根源を無力化することから始まった。


大聖堂の奥、枢機卿と大司祭たちは震え上がっていた。 「な、何だあの化け物共は! 闇属性の娘に死霊術師だと? 穢らわしい、焼き払え!」 枢機卿の叫びと共に、邪悪な魔術が放たれる。しかし、それを受け止めたのはリリアナの死霊騎士たちだった。「マッスル」で強化された骨の盾は、いかなる闇の魔術も通さない。 「穢れているのは、どちらの魂かしら?」 リリアナが冷ややかに微笑むと、死霊騎士たちが一斉に突撃し、大司祭たちを一人ずつ捕縛していく。


セレナの放つ全属性の魔法が、腐敗した権威の象徴である大聖堂の装飾を次々と剥ぎ取り、ソフィアの従魔たちが捕らえられていた人々を救い出していく。エルナの操るゴーレムが、重厚な石の扉を「マッスル」の膂力で紙細工のように引き千切り、ついに最奥の祭壇へと到達した。


そこには、命乞いをする司祭たちと、最後まで傲慢な態度を崩さない枢機卿がいた。 「我らこそが正義だ! この力こそが神の証明なのだ!」 その言葉に対し、セレナが無限の魔力を込めた指先を向けた。 「魔力が尽きる恐怖に怯え、民から搾取することしかできない貴方たちに、正義を語る資格はありません。私たちの力は、奪うためではなく、与えるためにあるのです」


「ホーリーバレット、装填」 五人が同時に指を掲げた。フランクから授かった、魔力切れのない、そして決して外れることのない絶大な支援の弾丸。それは悪徳に染まった彼らにとっては、何よりも恐ろしい審判の光となった。


轟音と共に放たれた光弾が、大聖堂に巣食う邪悪な気配を根こそぎ吹き飛ばした。壁は崩れ落ち、偽りの神像は粉砕された。後に残ったのは、解放された人々の歓喜の声と、力を失い地面に這いつくばる悪徳の徒たちだけだった。


「これで一つ、世界の歪みが正されましたわね」 夕闇の中、五人の娘たちは静かに戦場を後にした。空には不滅の軍勢が整然と舞い、彼女たちの背中を守っている。フランクから授かった「無敵の力」の使い道は、もう決まっている。彼女たちは、この世界の理を塗り替えるまで、その進撃を止めることはない。




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