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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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税と呼び出し

嫌な予感というのは、だいたい当たる。


 最初の収穫から数日。

 畑は順調だった。葉は伸び、茎は太くなり、土の表情も明らかに変わってきている。


「若いの、ここ、昨日より水持ちがいいぞ」


「団粒構造、戻ってきてますね。踏むと分かります」


 言葉の意味は完全に伝わっていないはずなのに、村人たちはもう“感覚”で理解していた。

 この畑は、もう死んでいない。


 そんな昼前――

 村の入り口が、やけに騒がしくなった。


 現れたのは、馬車一台と、鎧姿の護衛が二人。

 その後ろに、帳簿を抱えた細身の男が降りてきた。


 俺は一目で悟った。


(……税だ)


 帳簿の男は、鼻で笑いながら村長を見下ろした。


「コガネ村だな。

 最近、急に収穫が増えたと報告があってな」


 村人たちの肩が、一斉に強張る。


「よって――今年から、税を改める」


 帳簿が開かれ、指が走る。


「これまでの三倍だ」


 一瞬、意味が理解できなかった。


「……三倍、ですか」


 村長が、かすれた声で聞き返す。


「これまでが安すぎたのだ。

 本来あるべき“適正税率”に戻すだけだ」


「ですが、今年はまだ……」


「関係ない」


 即答だった。


「収穫が出た。それがすべてだ。

 豊かになった村から多く取る。それが領の理だ」


 その理屈の冷たさに、腹の奥が静かに沸騰した。


 帳簿の男が、ちらりと俺を見る。


「……噂の“賢者”は、お前か」


「ただの農学部生です」


「どちらでもいい。

 成果が出た以上、責任は取ってもらう」


 責任。

 その言葉が、やけに重く落ちた。


 村長は、歯を食いしばりながら、深く頭を下げた。


「……分かりました。準備します」


 帳簿の男は満足そうに頷き、馬車に戻っていった。


 残されたのは、畑の緑と、沈黙だけだった。


「……また、搾られるのか」


 誰かの声が、かすかに震えた。


 俺は畑を見つめた。


(育てても、守っても、

 最後に持っていくのは“力”か……)


 その夜、俺は一人で畑に出た。

 月明かりに照らされた作物が、静かに揺れている。


「……農業って、

 育てるだけじゃ終わらないんだよな」


 そのときだった。


 遠くから、金属の音が重なって聞こえてきた。

 馬車どころじゃない。

 複数の騎馬の足音。


 村の入り口に、黒い影の一団が現れる。


 鎧。

 槍。

 統率の取れた動き。


 ――騎士団だった。


「佐倉耕平は、いるか」


 兜越しの低い声が、夜気を震わせた。


 村人たちの視線が、一斉に俺へ集まる。


 逃げ場はない。

 隠れれば、この村が潰される。


「……俺です」


 騎士は、短く告げた。


「領主ヴァルガス様が、

 貴殿を“直々にお呼びだ”」


 空気が、凍りつく。


「……明朝、領都へ同行してもらう。拒否権はない」


 村長が、一歩前に出かけた。


「待ってくれ、その若いのは――」


 俺は、静かに首を振った。


「大丈夫です。

 俺が逃げたら、この村が終わります」


 そう言った瞬間、

 村人たちの顔が、はっきりと曇った。


「……必ず、戻ってきます」


 それは、願いでも、約束でも、祈りでもあった。


 騎士団は、無言で踵を返した。


 夜、藁の上で目を閉じながら、俺は考えていた。


 病気と戦った。

 土と戦った。

 次は――


「……人か」


 相手は、作物でも、菌でもない。

 この世界の“仕組み”そのものだった。


 それでも――


(逃げない。

 農業しかできないけど、

 だからこそ、逃げない)


 静かなコガネ村に、

 新しい嵐の前触れだけが、確かに残っていた。


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― 新着の感想 ―
(逃げない。  農業しかできないけど、  だからこそ、逃げない) ↑ここ好き。山下大輝の声で聞きたい。
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