表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/78

再生の始まり

納屋の前に置かれた木箱は、まだ揃っていなかった。

 空の箱が二つ、藁を敷いただけの桶が一つ。札も、仮に紐で結んだだけの紙切れだ。

「……これで、本当に始めるんですね」

 ミーナが、帳面を抱えたまま少し不安そうに言った。

「始める、というより……試す、だな」

 俺はそう答えて、箱の一つを軽く叩いた。

 数日前、カイルは各地を回っていた。

 アグリの用件ではない。記録でも分配でもない。

 ただ、困っていることを聞くためだけに。

 戻ってきた彼が最初に言ったのは、意外な言葉だった。

「作物じゃなくて……捨てるものの話ばかりでした」

 畑の隅に溜まる藁。

 家畜小屋の糞。

 サトウキビを搾ったあとの繊維の山。

「どの村も、処分に困ってる。  燃やすか、放っておくかしか選択肢がない」

 その話を聞いたとき、俺はすぐに理解した。

(足りないのは、肥料じゃない)

(戻す場所だ)

 今日、その第一歩として集まったのが、この箱だ。

 昼前、荷車が一台入ってきた。

 積まれていたのは、サトウキビの搾り滓だった。

「とりあえず、ここに置かせてもらいます」

 運んできた村人は、少し申し訳なさそうだった。

「今までは、邪魔になるだけだったんで……」

「邪魔じゃない」

 俺は即座に言った。

「これは、土の材料だ」

 繊維を指でほぐすと、まだ甘い匂いが残っている。

 水分も多く、空気も含んでいる。

 エマが、しゃがみ込んで覗き込んだ。

「単体だと腐るの早いけど、  藁と混ぜて、空気入れたら発熱するね。  ちゃんと“生きてる”素材だよ」

 午後には、別の村から袋が届いた。

 洞窟で集めたコウモリの糞だった。

「扱い方が分からなくて、危ないって言われてました」

「量と場所を間違えなければ、危なくない」

 俺は袋の口を閉じ直す。

「むしろ、使いどころを選べば強い」

 ミーナが帳面を開いた。

「……記録、必要ですね。  何を、どれだけ、どこに使ったか」

「それがないと、怖くて使えない」

 カイルは、納屋の中を見渡しながら静かに言った。

「まだ何も完成してません。  箱も足りないし、やり方も決まってない」

「それでいい」

 俺は首を振る。

「完成させてから始めると、遅い。  まず集める。混ぜる。失敗も記録する」

 夕方、仮置きした箱を前に、皆が立ち止まった。

 名前もない。

 規模も決まっていない。

 ただ、捨てられるはずだったものが、ここにある。

「……名前、どうします?」

 ミーナが小さく聞いた。

 カイルが少し考えてから言った。

「再生、って言葉が近い気がします。  元に戻す、という意味で」

 俺は一瞬だけ考え、頷いた。

「じゃあ、仮でいい。  再生舎だ」

 誰も大きな反応はしなかった。

 だが、不思議と違和感もなかった。

 派手な始まりじゃない。

 看板も、祝杯もない。

 それでもここから、

 土に戻る流れが生まれる。

 再生舎は、この日、

 まだ名前だけを持って、動き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ