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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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日差しの下に眠る甘い芽

帰路の馬車は、行きよりもずいぶん静かだった。

車輪が小石を踏む音と、荷台で揺れるサトウキビの葉が擦れる音だけが、ゆっくりと続いている。

レオンは、膝の上で組んだ手を見つめたまま、ほとんど動かない。

今日一日、畑に立ち、人の前で話し、判断を下した疲れが、ようやく身体に回ってきたのだろう。

手応えも、不安も、どちらも整理がついていない様子だった。

「……俺、ちゃんと出来てましたか」

しばらくして、ぽつりとそう聞いてきた。

確かめるような声音で、でも逃げる気はない。

「全部、とは言わないけどな。

 それでも、十分だったと思う」

そう答えると、レオンは小さく息を吐いた。

張りつめていたものが、少しだけほどけたのが分かる。

「日陰を作るだけで、あんなに反応が変わるとは思いませんでした。

 水を増やすとか、肥料を足すとか、そういう話になると思ってて……」

「そう思うのが普通だよ」

俺は、否定せずに頷いた。

「足りないなら足す、弱いなら強くする。

 農業に限らず、だいたいの仕事はそう考えがちだからな」

荷台の奥で固定したサトウキビに、視線をやる。

夕方の光を受けて、青い茎が鈍く光っていた。

「でも、作物が苦しんでる理由って、

 足りないことより、背負わされすぎてることの方が多い。

 アーヴェ村は、まさにそれだった」

レオンは、今日の畑を思い返すように目を伏せた。

「……日差しが、強すぎたんですね」

「そうだな。

 光は必要だけど、浴び続ける必要はない。

 守ってやるだけで、ちゃんと戻る余地があった」

そこで、レオンは少し迷うように言葉を探してから、正直に口にした。

「……耕作さんがいないと、やっぱり不安でした」

その言葉に、俺はすぐには返さなかった。

否定するより、受け止めた方がいいと思ったからだ。

「だから、今回が良かったんだよ」

少し間を置いて、穏やかに続ける。

「俺が全部答えを出してたら、

 村は“俺のやり方”をなぞるだけになる。

 それだと、俺がいなくなったときに止まる」

レオンが、ゆっくりと顔を上げた。

「止まる……?」

「うん。

 俺が別の村に行ったら、

 忙しくなったら、

 何かあったら、そこで終わる」

馬車は、なだらかな坂を下っていた。

空は赤く、夜の気配が近づいている。

「俺がやりたいのは、

 “俺がいなくても回る形”なんだ。

 そのためには、誰かが前に立つ必要がある」

レオンは、小さく頷いた。

「……それで、俺に任せたんですか」

「そう」

柔らかく、はっきり答える。

「知識は渡せるし、考え方も伝えられる。

 でも、判断する経験だけは、本人が積まないと残らない」

レオンは少し考えてから、苦笑した。

「……正直、怖かったです。

 間違えたらどうしようって」

「間違えていいよ」

即答だったが、声音はきつくない。

「畑は嘘をつかない。

 間違えたら、その結果を見せてくれる。

 取り返しがつかないところだけ、俺が横にいただけだ」

その言葉に、レオンの表情が少し軽くなる。

農園に戻ると、庭先で待っていたエマが、真っ先に反応した。

「……なに、それ」

積まれたサトウキビを見て、目を細める。

背の高さ、茎の太さ、葉のつき方を、一瞬で見比べている。

「背が高いし、水っぽいし……

 でも、普通の草じゃないよね」

「アーヴェ村に生えてた。

 使われてない作物だ」

そう言うと、エマは一本を手に取り、爪で表面を軽く引っかいた。

「……甘い汁、出る。

 しかも、量が多い」

「甘味になる。

 ただし、噛んで終わりじゃない」

エマは、楽しそうに息を吸って笑った。

「なるほどね。

 “知られてないだけで、化けるやつ”だ」

説明はいらなかった。

その夜、簡単な食事を囲みながら、レオンは今日の話をリリアンヌにしていた。

日除けの作り方、畝の向き、村人とのやり取り。

リリアンヌは、静かに聞きながら、何度か頷く。

「……教える、というより、

 一緒に考えていたのですね」

「はい。

 答えを出すというより、

 畑を一緒に見てました」

そのやり取りを聞きながら、俺は黙ってサトウキビを見ていた。

強い日差しの下で育ち、

放置され、

それでも残っていた植物。

(次は、使い方だな)

村に戻って教える。

一部は農園で増やす。

そして、量を扱う仕組みを作る。

アーヴェ村の問題は日差しだった。

だが、そこに眠っていた答えは、次の課題につながっている。

俺は、茎に残った水分を指で拭いながら、次の工程を思い描いていた。

――次は、「甘さ」を形にする番だ。

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