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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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照りつける畑の向こうで

アグリの仕組みを導入してほしい――そんな依頼が届いたのは、領都での慌ただしさが一段落した頃だった。

 新しい村の名は、アーヴェ村。作物は育つ。水もある。だが、とにかく日差しが強すぎるという。

 今回は、レオンを連れて行くことにした。

 農作業の一部を任せる、というよりも、彼自身に「畑を任せる」ためだ。

「……俺が、指導するんですか?」

 道中、レオンは少し落ち着かない様子だった。

「教える側に立つと、自分が何を分かっているか分かる。いい経験になる」

「でも、耕作さんほど詳しくないし……」

「全部知らなくていい。

 畑を見て、考えて、手を動かせば、それで十分だ」

 そう言うと、レオンは小さく頷いた。

 不安と期待が混じった顔だったが、悪くない。

 アーヴェ村に着いて、最初に感じたのは光だった。

 畑に立つと、容赦なく陽が降り注いでくる。雲が少なく、風も弱い。

「……暑い」

 レオンが率直に言う。

「ここでは、日照が良すぎるのが問題です」

 村長が申し訳なさそうに言った。

「芽は出るが、葉が焼ける。水をやっても、追いつかない」

 畑を一回り見て、俺はすぐに分かった。

 土は悪くない。水もある。

 問題は――日差しだ。

「レオン、ここ、どう思う?」

 急に振ると、彼は一瞬戸惑ったが、畝の横にしゃがみ込んだ。

「……土は乾きすぎてます。

 水をやっても、昼にはもう熱くなってる」

「原因は?」

「直射……だと思います」

 その答えに、俺は頷いた。

「正解。だから今回は“育て方”より“守り方”を教える」

 俺は畑の端に立つ低木を指差した。

「日陰を作る。

 それだけで、作物の負担は半分以下になる」

 村人たちが顔を見合わせる。

「……日陰、ですか?」

「ええ。全部を覆う必要はありません。

 午前か午後、どちらかだけでも直射を避けられればいい」

 簡単な杭と布、あるいは背の高い作物。

 それだけで地温は下がり、蒸発も抑えられる。

「作物は光が好きですが、焼かれたいわけじゃない」

 その言葉に、レオンが少しだけ笑った。

 午前中は、レオンに任せた。

 畝の向き、水やりの時間、簡易的な日除けの設置。

 村人に囲まれながら、彼は一つ一つ説明していく。

 言葉は拙い。

 だが、畑を見ながら話す姿は、確かに“指導者”だった。

 その間、俺は村の外れを歩いていた。

 藪のように見える一角が、やけに気になったからだ。

 背の高い草。

 太い茎。

 風に揺れる葉。

(……これ)

 一本、折ってみる。

 中はみずみずしく、指先がべたついた。

 村人を呼び止める。

「これ、何ですか?」

「ああ、それか。

 甘い汁が出る草だ。家畜はよく食べるが、人は使わん」

「名前は?」

「さあ……昔からある。邪魔にはならんから、そのままだ」

 俺は、折った茎を見つめたまま、息を吐いた。

(サトウキビだ)

 種ではなく、茎で増える。

 強い日差しを好み、水をよく吸う。

 ――この村に合わないはずがない。

 レオンを呼び、茎を見せる。

「これ、ただの草じゃない」

「……え?」

「使い方を知らないだけだ。

 甘味にも、保存にもなる」

 彼の目が、少し見開かれた。

 畑では、日陰を作る。

 村外れでは、甘い草が眠っている。

 アーヴェ村は、何も足りていなかったわけじゃない。

 ただ、見方と使い方が、まだ結びついていなかっただけだ。

 夕方、村を出る前に、俺は一本だけサトウキビを選んだ。

 折らず、切らず、そのまま抱えて馬車に積む。

「持って帰るんですか?」

「一部だけ。

 向こうでも育ててみる」

 次は、利用法を伝える番だ。

 その次は――道具だ。

 照りすぎる畑の下で、

 甘い未来が、静かに芽を出していた。

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