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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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噂は、土の外へ広がっていく

最初の収穫から、村の空気は目に見えて変わった。


 朝になると、皆が以前よりも早く畑に集まる。

 鍬を持つ手に、ためらいがなくなった。

 水をやる動きも、どこか誇らしげだ。


「若いの! 今日はどこを見ればいい!」


「こっちの畝、葉の色がちょっと薄いぞ!」


 完全に、俺は“畑の相談役”になっていた。


(賢者っていうか、完全に現場監督だな……)


 その日も、俺は土を掴み、匂いを嗅ぎ、葉の裏を確認して回っていた。


「ここ、窒素ちょっと足りてないですね。

 堆肥、もう一回薄く足しましょう」


「おお! 分かった!」


 誰も疑わない。

 あの一株の収穫が、この村の常識をひっくり返した。


 だが――


 村の変化は、村の中だけで終わらなかった。


 昼過ぎ、見慣れない男が二人、村に入ってきた。

 どちらも旅装。

 だが、足元の靴も、腰の袋も、明らかに“よそ者”だった。


「……あれ、誰だ?」


 村人がざわつく。


 俺が畑の端から様子をうかがっていると、男の一人が村長に声をかけた。


「ここが……最近、作物が急に実り始めたという村か?」


 村長の肩が、ぴくりと動いた。


「……何の用じゃ」


「噂を聞いただけだ。

 “賢者”がいるとかな」


 背中に、ひやりとしたものが走った。


(早すぎないか……?)


 俺の存在は、まだ村の中だけの話のはずだった。

 なのに――もう“噂”になっている。


「うちの村には、そんな大層な者はおらん」


 村長はとぼけた顔で答えた。


 だが男は、視線をずらし、一直線に――俺を見た。


「……いや。

 “いるな”」


 その目は、商人の目だった。

 価値の匂いを嗅ぎ分ける目。


「若いの。あんたが、作物を変えた張本人だろ?」


「……さあ。どうでしょう」


 俺は、できるだけ曖昧に答えた。


 だが男は、にやりと笑う。


「隠さなくていい。

 畑を見れば分かる。

 この育ち方は、“偶然”じゃない」


 もう一人の男が、低い声で続けた。


「この近辺の村は、今年も全滅だ。

 だが、ここだけは違うらしい。

 ……理由を知りたくてな」


 空気が、ぴんと張りつめた。


 村人たちが、無意識に俺の背後に集まる。


「ここは、ただ必死にやってるだけの村です」


「必死、ねえ」


 男は畑を見回し、鼻で笑った。


「必死でやって、この出来なら――

 “商品”になる」


 その言葉に、胸の奥がざわついた。


(来たな……“金の匂い”だ)


「安心しろ。今日は、奪いに来たわけじゃない」


 男はそう言ってから、意味深に付け加えた。


「……だが、この噂、

 いずれ“もっと上”にも届く」


「上、ですか?」


「ああ。

 この土地の“領主様”にな」


 村人たちが、一斉に息を呑んだ。


 領主。

 この世界で、“剣と税と命”を握る存在。


「賢者殿」


 男は、俺に軽く頭を下げた。


「あなたが起こしたのは、小さな奇跡だ。

 だが、小さな奇跡は――

 すぐに、大きな権力の目に映る」


 そう言い残し、二人は村を去っていった。


 しばらく、誰も口を開けなかった。


 最初に声を出したのは、村長だった。


「……若いの」


「はい」


「この先、面倒なことになるかもしれん」


 俺は、畑を見つめながら答えた。


「……ですよね」


 作物は順調に育っている。

 堆肥も、輪作も、うまく回り始めている。


 なのに――

 胸の奥に、じわじわと嫌な予感が広がっていた。


(農業って、

 “育てる”だけじゃ終わらないんだよな……)


 土の外には、

 人の欲と、権力と、金がある。


 その日の夜、星を見上げながら、俺は小さく呟いた。


「……どうやら、

 次の敵は“天候”でも“病気”でもなさそうだな」


 静かなコガネ村に、

 見えない波紋が、確かに広がり始めていた。第六話・噂は、土の外へ広がっていく

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― 新着の感想 ―
そうか、そりゃそうか……。こんな奇跡起こしたら、そりゃ狙う人も出てくるよな。人間、リアルでも異世界でも変わらないのかもしれん。
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