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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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最初の収穫と、大地の賢者

前の騒動から、数日が経った。


 朝の畑に出ると、空気がどこか違っていた。

 葉の色が、はっきりと“生きている緑”に変わっている。

 弱々しかった茎も、芯の通った直立に近づいていた。


「……いける」


 声に出した瞬間、自分でも驚くほど確信があった。


 村人たちも、気づいている。

 水やりの手が、いつもより少し丁寧だった。

 畑を見る目が、昨日までの“祈り”から“期待”へ変わっている。


 昼前、村長が静かに俺を呼んだ。


「若いの……そろそろ、“抜いてみるか”」


 その声は震えていた。

 失敗すれば、また全てが崩れる。

 成功すれば、この村は本当に救われる。


「……はい。

 “試しに一株”だけにしましょう」


 畑の一角。

 みんなが無言で見守る中、俺は根元に手をかけた。


(頼む……応えてくれ)


 ぐっ、と力を込める。


 ずるり、と確かな抵抗。


 抜けた。


 土を払った瞬間、村の空気が凍りついた。


 細くはあるが、確かに“実”がついている。

 根は白く、張りもある。


「……できてる」


 誰かの声が、かすかに震えた。


「育った……」


「本当に……育った……」


 次の瞬間、歓声が爆発した。


「うわあああ!!」


「戻ったぞ!!」


「畑が!! 本当に戻った!!」


「奇跡だ!!」


「だから理屈ですってば!!」


 俺のツッコミは完全に歓声にかき消された。


 その日の午後、小さな区画だけの、ささやかな収穫が行われた。

 量は少ない。

 鍋一つ分にも満たない。


 それでも――


「……甘い……」


「作物の味が、ちゃんとする……」


 村人たちは、黙って泣きながら食べていた。

 誰も騒がない。

 ただ、静かに噛みしめるように。


 夕方、焚き火を囲んで簡単な祝いが開かれた。

 スープに刻まれたのは、ほんの少しの初収穫。


 なのに――

 俺の人生で、間違いなく一番、胸に残る食事だった。


 村長が、ゆっくりと立ち上がった。


「皆、聞いてくれ」


 自然と場が静まる。


「この若いのが来てから、村は変わり始めた。

 まだ全部じゃない。だが――“希望”は戻った」


 村長は、俺をまっすぐ見た。


「名を、改めて聞かせてくれ」


「……佐倉、耕平です」


 一瞬の沈黙のあと、村長は高らかに言った。


「今日からお前は――

 この村の“賢者”だ」


「え!?」


「賢者様だ!!」


「大地の賢者だ!!」


「いや待って待って!!

 ハードル高すぎますから!!」


「もう決定だ!!」


「覆らん!!」


 夜、例の子供が俺の隣に座り、ぽつりと聞いた。


「ねえ、賢者様」


「やめて」


「どうして、ここまでしてくれるの?」


 少し考えて、俺は答えた。


「……土が、好きだから」


「変なの」


「知ってる」


 藁の上に横になり、満天の星を見上げる。


 剣もない。

 魔法もない。

 チートもない。


 それでも――

 俺は、この世界で確かに“役に立っている”。


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― 新着の感想 ―
農業って、偉大だなと思う。食べ物がなければ我々は何もできないし、その農業がなければ食べ物を作れない。結局、根本が大事なんだと思うのだ
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