集めるという仕事
農園に、人が増えていた。
畑に立つ顔ぶれは、いつものメンバーに加えて二人。
フローデ村から来ているカイルとミーナだ。
二人は弟子というより、勉強のために一時的に滞在している立場だった。
畑の直し方、作物の見方、水と風の扱い方――それを学び、村へ持ち帰る。その約束でここにいる。
カイルは鍬を握り、力仕事を任されることが多い。
ミーナは作業の合間に、量や日付を木札に書き留めていた。
それを、レオンは横目で見ている。
「……そこ、土を寄せすぎだ」
「昨日、耕平さんが言ってた通りだろ」
「だからって、全部同じにするなよ」
空気が少し張ったところで、
「二人とも」
ミーナが間に入る。
「畑は競争相手じゃないよ」
カイルが苦笑し、レオンは舌打ちして向きを変えた。
小さな火花。それ以上にはならない。
問題は、畑の外にあった。
昼が近づくにつれ、人が訪れる。
「ヨーグルトはあるか?」
「今度はまとめて買いたい」
「値は前と同じでいいのか?」
保存できるようになったことで、加工品の動きが一気に増えていた。
俺は対応しながら、頭の中で整理する。
(……追いつかない)
作る量。
残りの在庫。
次に出す分。
値段の話。
畑に立つ時間が、確実に削られている。
昼休み、納屋の陰で腰を下ろしたとき、ミーナが声をかけてきた。
「……忙しそうですね」
「作るより、話す時間の方が増えてる」
正直に言うと、彼女は静かに頷いた。
「このままだと、続かないですよね」
その一言で、腹が決まった。
午後、作業を一段落させ、皆を集める。
「少し、話をする」
農園に関わる者、カイルとミーナも輪に入る。
「今のやり方は、もう限界だ」
誰も反論しなかった。
「作る人が、売ることまで全部抱えたら潰れる。 だから、仕組みが必要だ」
地面に棒で円を描く。
「作ったものを集める。 まとめて管理する。 売る量と時期を決める」
誰かが言う。
「商人に任せるのか?」
「違う」
俺は首を振る。
「作る側が集まる。 守るための組織だ」
リリアンヌが、静かに言葉を継いだ。
「商人任せでは、作る人は弱い立場になりますものね」
「だから」
俺は、はっきりと言った。
「これは“農協”だ」
初めて出した言葉に、場が少しざわつく。
「売るためだけじゃない。 種や家畜、不作への備えも、ここで考える」
ミーナが、ふと手元の木札を見つめる。
「……量や流れを、ちゃんと見ないと回らないですね」
カイルも頷いた。
「村ごとに、状況も違うしな」
それぞれが、自分の立場で考え始めているのが分かる。
結論は、まだ出さない。
「今日は、決めない。 ただ――一人でやらない、ということだけ決める」
その言葉に、誰も反対しなかった。
夕方、畑に戻ると、風が抜けていた。
作物は、何も言わない。
だが、確実に“人のやり方”の影響を受ける。
(農業は、畑だけじゃない)
人と、人の間。
そこにも、手を入れる時期が来ていた。
農協という形は、まだ輪郭だけだ。
だが、その輪は確かに、ここに描かれ始めていた。




