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異世界農業譚 〜チートなし大学生、土と汗で成り上がる〜  作者: 済美 凛


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森に囲まれた村へ

呼び出しは、やはり唐突だった。


 畑での作業を切り上げ、領主の執務棟へ向かう。  最近はこの建物を訪れる回数も増えたが、空気に慣れることはない。


(……今回は、何だ)


 執務室に入ると、ヴァルガスは机に地図を広げたまま、こちらを見なかった。


「来たか」


「お呼びですか」


 短いやり取りのあと、彼は一枚の地図を指で叩く。


「フローデ村だ」


 森に囲まれた、小さな村だった。


「……農業、ですか?」


「他に理由があるか?」


 その言葉に、少しだけ間が空く。


「状況を教えてください」


「作物が育たん。

 水も、肥料も、魔法も使っている。

 だが、年々悪くなる」


 俺は地図を覗き込む。


(……森が、近い)


 そこで、ヴァルガスはようやく顔を上げた。


「リリアンヌから、報告は受けている」


 一瞬、思考が止まる。


(……何を、どこまで?)


 隣に立つリリアンヌは、何も言わない。  視線も、表情も変えない。


 それが、かえって気になった。


「だから、魔法の話はいらん」


 ヴァルガスは、再び地図へ視線を落とす。


「知識で見てこい。

 原因があるなら、それを掴んで来い」


「救える保証は、ありません」


「構わん」


 即答だった。


「だが、“なぜ悪くなっているか”だけは、持ち帰れ」


 それは命令というより、確認に近い言い方だった。


 俺は一度、深く頷いた。


「分かりました」


 翌日、俺とリリアンヌはフローデ村へ向かった。


 村に近づくにつれ、空気が変わる。  湿気が重く、風がほとんど流れていない。


(……嫌な感じだな)


 畑を見た瞬間、違和感は確信に変わった。


 作物は枯れていない。  だが、どれも力がない。


 葉は大きいが色が薄く、  地面は黒く湿って光っている。


 俺はしゃがみ込み、土を掴んだ。


 指を握ると、ぬるりと水が滲む。


「……水、多すぎます」


 村人たちが、顔を見合わせる。


 村長が戸惑いながら言った。


「水は、作物に必要だと……

 雨の少ない年も多いので……」


「必要です。

 でも、これは“多すぎる”」


 俺は、手の中の土を見せた。


「根が、息をできていません」


 リリアンヌが、静かに問いかける。


「……根が、息を?」


「ええ。

 土の中にも、空気は必要なんです」


 土を軽く崩すと、  腐りかけの匂いが立った。


(過湿。

 でも、水だけじゃない)


 俺は、畑の周囲を見回した。


 高く密集した木々。  重なり合う枝。  空が、ほとんど見えない。


 風が、止まっている。


 さらに、畑の端へ歩く。


 溝は浅く、水が溜まったまま動かない。


(逃げ道がない)


 俺は立ち上がり、村長に向き直った。


「すぐに答えは出しません。

 でも――原因は、一つじゃない」


「……助かるのか?」


 その問いには、即答できなかった。


「“悪化している理由”は見えました。

 “戻せるかどうか”は、これからです」


 村人たちの表情に、不安と期待が混じる。


 リリアンヌが、そっと俺の横に立った。


「どれくらい、かかりますか?」


「今日と、明日。

 畑と、水と……森を見ます」


 夕方、俺は一人で村の外れに立っていた。


 畑を囲む森の影が、  一日中、地面を覆っている。


 切り口の古い木から、  白い樹液が、静かに滲んでいた。


(……この村、

 畑だけ見ても答えは出ないな)


 農業は、畑の中だけで完結しない。


 水。  風。  光。  そして――森。


 ここは、それら全部が絡み合って、行き詰まっている。


 



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― 新着の感想 ―
農業は畑じゃ完結しない。 ……至言だね。結局、人事を尽くしても最後はお天道様の気分次第よ。
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