白く固まった朝
朝の台所は、まだ冷えていた。
夜の間、布に包んだ鍋は動かしていない。
(……さて)
俺は、少しだけ緊張しながら布を外した。
---
鍋の中は、静かだった。
揺らしても、水音はしない。
木の匙を入れ、ゆっくり持ち上げる。
「……」
白い塊が、崩れずについてきた。
(固まってる)
---
レオンが、息をのむ。
「……できた?」
「ああ。
成功だ」
「ほんとに!?」
思わず笑ってしまうほど、嬉しそうな顔だった。
---
リリアンヌも、そっと覗き込む。
「……牛乳、ですよね?」
「元は、です。
でも、もう別の食べ物です」
「不思議ですね……姿は似ているのに」
「中身が、変わってます」
---
小さな椀に分ける。
湯気はないが、ほんのり温かい。
「まずは、そのまま食べます」
「……勇気がいりますね」
「大丈夫です。
腐ってはいません」
---
レオンが先に口に入れた。
「……すっぱい」
一瞬の間。
「……でも、嫌じゃない」
もう一口、すぐにすくう。
---
リリアンヌも、慎重に味わった。
「……胃が、落ち着く感じがします」
「それが正解です」
俺も一口、口に運ぶ。
(……よし)
雑味はなく、狙った酸味だけが残っている。
---
「これが……ヨーグルト」
「はい。
発酵した牛乳です」
「発酵……」
「目に見えないものが、
ちゃんと働いた結果です」
---
鍋の底には、まだ白い塊が残っている。
昨日まで、ただの牛乳だったもの。
(この世界でも、通じた)
その事実が、胸の奥に静かに広がった。
---
レオンが言った。
「これ……また作れる?」
「作れる。
今日できた分が、次の“種”になる」
「増えてくんだ……」
「ええ。
正しく扱えば」
---
台所の窓から、朝の光が差し込む。
白い器の中で、ヨーグルトが静かに揺れた。
派手さはない。
だが確かに――
新しい食べ物が、この家で生まれた。




